福岡がドヤ顔で九州をアピールする理由《ふるさとグランプリ》
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記事:バタバタ子(ライティング・ゼミ日曜コース)
先日の新聞に、妙に印象的な一文があった。
全国に国立博物館は数あれど、都市名ではなく地区名を冠したものは、九州国立博物館だけであるというのである。
そういわれてみると、ほかの博物館は、東京国立博物館に、京都国立博物館、奈良国立博物館……。ほんとだ、福岡にある九博だけ、福岡国立博物館じゃなくて、「九州」になってる。
考えてみれば、同じように、福岡にあって「九州」を冠するものは、他にもある。
九州大学に、九州医療センターに、九州がんセンター。
正式名称ではないけれど、「福岡の玄関口」ではなく「九州の玄関口」。
テレビやラジオのCMでも、「福岡」より「九州」という言葉を多く耳にする。「九州ではここだけ」とか。「九州では熊本についで2店舗目」とか。スーパーの豆腐や納豆コーナーには「九州産」と書かれたものが何種類も並んでいる。
全国より、九州を基準にされたほうがリアリティと説得力がある気もする。「日本一」や「世界一」と言われても、うさんくさいが、「九州で一番」と言われると良いものだと思ってしまう。
当然だが、九州とは、イコール福岡県ではない。佐賀、長崎、大分、熊本、宮崎、鹿児島も含んだ7県で成立する。
だが、福岡に住んでいると、「九州ぜんぶ俺のナワバリ!」という気がしてくるのだ。福岡県人ではなく、九州人という意識が強くなる。だから、くまモンも、チキン南蛮も、黒糖も、すべて「うちの地元の良いもの」ということになるのだ。
このように見なしてしまうのは、九州というエリアが、家庭のようなものだからではないか。
他のエリア、たとえば関東とか関西とかは町内会。そことは違って、九州は家庭。
具体的に言うと、まず町内会というのは、一定の地域のご家庭の代表が集まって、町内の自治運営をしていく組織である。町内会を構成するご家庭は、それぞれ、異なる事情を抱えている。お仕事も違えば、ライフスタイルも違う。高齢のご夫婦だけかもしれないし、受験生がいるかもしれないし、生まれたばかりの赤ちゃんがいるかもしれない。価値観も違っていることだろう。各家庭で、家族ぐるみで交流している場合もあるし、逆に近所づきあいは最低限というところもある。
定期的な町内会の話し合いや、草取りやお祭りといったイベントでは、協力して親睦を深めながら活動するが、それぞれの家庭は独立したものとして尊重される。だから、近所の子と仲良くなった長男が「〇〇くんの家では、新しいゲーム機買ったんだってー」と言ってねだっても、「よそはよそ、うちはうち」と突っぱねられてしまう。
このような、町内会のようなイメージを、九州外のエリア、たとえば関東に持っている。
関東でいうと、まず東京都という圧倒的な名家がいる。神奈川県という、セレブなご家庭もある。それから、埼玉、千葉など各戸が集まって、関東という町内会が結成されている。
おなじ町内会に所属していて、ご近所で、それぞれのご家庭の事情は、皆さんなんとなく把握している。自分の家と異なることも、わきまえており、その差を尊重している。「よそはよそ、うちはうち」というスタンスを保っているように見える。
それに対して、九州は同一の家庭内のようなものだ。
九州という家の中の、家族それぞれの個室が、各県である。
福岡は、自室もあるくせに、居間も自室のように扱って私物を置いたり、ずっとそこに居座っているような印象。
隣接する佐賀の部屋の障子は、遠慮なくガラッと開けて良いし、日によっては障子ごと外してしまう。そして佐賀を横切って長崎へ行くのだ。
佐賀以外の県の入り口はふすまになっていて、中は見えない。でも鍵はかかっていないし、呼びかけて返事があれば気軽に入れる。そんなイメージ。
2階は鹿児島と宮崎の部屋。ちょっと遠くて、ちょっと違う雰囲気が漂っている。
おなじ家で寝起きして、おなじ窯の飯をたべて、毎日なにかしらお喋りをするような関係。昔から一緒に育ってきて、大体のことは分かっている。いいところも、名物も、よく知っている。
だから、福岡の人が九州外の人と話すときには、ついつい九州各県のことを身内のこととして、我が物顔に話してしまう。決して、「おまえのものは、俺のもの」とジャイアンのように横取りしようとするつもりはないのだ。
それに、福岡はいつも居間に陣取って、かかってきた電話には「はい、九州家です」と出るし、宅配便が届くたびに「九州」とサインをしている。だから、何事にもついつい九州の代表としてふるまってしまうのだ。
九州のことを家族と思い、家族を愛するように九州を愛するために、我々福岡の人間は、他県のことまで大きな顔をして自慢してしまう。しれっと他県を福岡に取り込もうなんて悪意などないのだ。だから他県の皆さま、気づいたときは「ああ、またやってるな」と温かい目で見守ってください。ただし、目に余るようなら、遠慮なく言ってくれて大丈夫。だって、なんでも言い合える、家族なのだから。
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