大好きな貴女に送る、最初で最期のラブレター
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:よめぞう(ライティング・ゼミ日曜コース)
半年ほど前の私は天狼院書店のことも、貴女のことも全く知りませんでした。
そんな私がどういうわけか、今こうして自分の思いを言葉にしています。
ひとつ心残りがあるとすれば、このような形で自分の思いを伝えることになったことくらいでしょうか……。
けれども今の私には、こうする他ありませんでした。もし直接お伝えしようものなら、私の思いは涙の濁流に流されてしまい、きちんと伝えられそうになかったからです。
貴女のことを知ったのは、とても間接的でした。
何の気なしに開いたFacebookのタイムラインに「誰それがいいねしました」の文字の先にあるリンクでした。
「天狼院で働き始めたけど、正直なところもうやめてしまいたい」
なんじゃそりゃ! と私の中を電流がビビッと駆け巡りました。
普段の私なら、リンクなんてほとんど開きません。どうせ、開いたところで中身が薄っぺらい記事ばかり。開くだけ時間の無駄、そう思っていました。
けれども目の前のタイトルに私は見えない力で引っ張られた感じがしました。
「天狼院」なんてなんとも怪しい名前のお店? で働き始めたばかりなのに、もう辞めたい?? いやいや、どんだけブラックな会社だよ。いや、この人が弱いだけなのか?
気になる……「天狼院」てなんなんだろう。なんで辞めたいんだろう……。
知りたい欲求がどんどん膨らんで、私の人差し指はiPhoneが映すそのリンクを知らず知らずのうちにタップしていました。
永井さんという方が書いたその記事は、大きな渦潮となって私を飲み込んでしまいました。私は、夢中でその記事を貪るように一気に読みました。
「天狼院という本屋」で「ライティング・ゼミ」という人に読んでもらえる文章を書く書き方を学ぶ勉強をしていた彼女が、いつしか「ここで働きたい」と思うようになり、本当に「天狼院」で働き始めるというものでした。
私はその記事の中で、貴女のことを知りました。
20代前半という若さながらも、福岡天狼院の店長をしているということ。
「川代ノート」という名前の記事を書いているということ。
そしてそれがとても反響がすごいということ。
しかも仕事をバリバリとこなしながらも演劇の練習をしていたこと。
どうやらメイド服が似合うらしいということ。
若いのに、仕事ができてしかもメイド服が似合うならきっと可愛い人だろう。
そんなに「できる人」がいるなら辞めたくなるのも無理もない。永井さんは、貴女のせいで「嫌になって辞めたい」のだろうと私は思っていました。
けれども、読み進めていくとそれは間違っていることに気づかされました。
妬み嫉みが書き連ねてあるのかと思いきや、書かれてあるのは異常なまでの貴女への「愛」でした。貴女のせいで辞めたいって言っているにもかかわらず、永井さんは「貴女になりたい」と切に願っていました。そして、超えてしまいたいと。
記事を読み終えた時、私にはすぐにある感情が湧き上がりました。
「天狼院に行きたい」
とにかく、その怪しい名前の本屋へ行ってみたい。
本当に本屋なのか、この目で是非とも確かめてみたい
こんなにも人のことを気持ちが良いくらい賞賛できる永井さんに会いたい。
どんな人なんだろう、きっとすごく人としてできた人なんだろうな……。
そして何よりも、貴女に会いたくてたまりませんでした。
若くして職場の同僚から絶大な信頼と評価を得ているなんて、普通じゃとても考えられない。
会いたくて震えるなんてあり得ないと思っていました。
だけど、それは本当にあったんです。私の場合、それが旦那ではなくその時顔も素性もわからない貴女でした。
その記事を目にして数日後、私は緊張の面持ちで「福岡天狼院」へ足を運びました。本屋へいくのに口から心臓が飛び出てきそうな思いをしたのは、生まれて初めての経験でした。
「福岡天狼院」と書かれた扉を開けると、そこはこじんまりとした、まるで秘密基地のような本屋でした。
「いらっしゃいませー」
レジの向こうに小柄な女性が立っていた。私は、一目見たときに直感しました。
「この人が、私が会いたかった「川代ノート」の人だ」
想像していたよりも、ずっと小柄な方でした。
可愛いというよりもクールでカッコいい、と思いました。
もう、貴女に会えた嬉しさと、この人があのすごい方なのかという緊張感からかレジでお金を取り出す私の手は震えていました。
ピーチソーダを流し込みながら、なんとか緊張を抑えようと店内を不審者のようにウロウロ徘徊しました。そして、ようやく本を手にして帰ろうとするときに私は勇気を振り絞って尋ねました。
「あの……もしかして、川代さんですか?」
「あ、はいそうです! どなたかお知り合いの方がいらっしゃいましたか?」
「いえ、Facebookの……永井さんという方の記事を見て……」
「わー! そうだったんですね! ありがとうございます」
しゃ、喋った……言葉を喋った……。
多分、キムタクにあってもこんなリアクションはしないでしょう。それほどまでに、私は貴女に会えたときとても興奮していました。
「なんか、ライティングゼミというものも気になってまして……」
「ありがとうございます! 私もこうやって記事を書いているんですが、本当に楽しくて人生が変わるといいますか……」
私は、あのとき「ライティングゼミ」について話す貴女のキラキラの輝くような顔を一生忘れることはないでしょう。本当に、この人は文章を書くことが好きで好きでたまらないんだろうと思いました。私は営業の仕事をしていたので、上辺だけでものを勧めてくる人はなんとなくわかります。だからこそ、貴女が本気で「ライティングゼミ」が面白いし、やってみる価値が絶対にあるというのがよくわかりました。
そんな貴女の姿を見て私も、貴女に一目惚れしてしまいました。
「私も、貴女のようになりたい」と。
そして、迷うことなく私は「ライティングゼミ」を申し込みました。
実際に文章を書き始めると、貴女のすごさが身をもってわかりました。
あのとき、永井さんが書いた記事は「お前も天狼院にくるとこうなるぞ」という予言の書だったのかもしれません。
育児休暇で育児をしながらとはいえ、時間に余裕のある中で課題を出すけれどなかなか書き上げられないのです。けれども貴女は書店員の仕事をこなしながらも様々なイベントの企画や運営をバリバリとやりあげ、その合間に記事を書いてくる。その記事は、テキトーなものではなく、読んだ人を惹きつけてしまうような記事ばかり。私の職場に貴女がいなくて本当に良かったと思いました。私が永井さんの立場だったら、貴女のすごさと自分の不甲斐なさに心を病んでしまいそうだからです。
12月に始めた「ライティングゼミ」と貴女の魅力にどっぷりとハマった私はいつしか「プロフェッショナルゼミに行きたい」と思うようになりました。しかし、今のままではそれは厳しいと思い、4月から改めて「ライティングゼミ」を継続して受けることにしました。
そして、1ヶ月ほど前の5月のことでした。
「森さん、良かったら今度プロゼミ受験してみませんか?」
そう貴女に言われた時は、コタツ席から飛び上がりそうなほど嬉しい気持ちになりました。今度はプロゼミを受験しようとは思っていたものの、私なんかが受けたところでなあ……と今一歩踏み出せずにいました。記事が毎週アップされるほど上手にかけているわけではないし、店主セレクトや編集部セレクトにだって選ばれたこともない。そんな私に、大好きな貴女から「プロゼミ」という言葉をもらえた時は、涙が出そうでした。
そして、ようやくプロゼミの試験を受けることになったその時でした。
皮肉にも、貴女のことを知った時と同じようにFacebookでその知らせはやってきました。
「どうやら異動するらしい」
福岡天狼院に貴女が存在するのは当たり前のことだと思っていましたが、それは私の大きな勘違いでした。それもそうです、そもそも貴女は東京から福岡へ「やってきた」方だったからです。竹取物語のように、いつかは月へ帰る時がきてもおかしくないのです。
なんとか、晴れてプロゼミに合格することはできましたが、私の心は晴れやかではありませんでした。
もう、福岡天狼院で貴女に会えない。
この事実は変えられないからです。
先日ゼミで貴女に会えた時、私は涙をこらえるのに必死でした。
いやだよ、行かないでよ。
福岡でいいじゃん、三浦さんなんで東京に返しちゃうんだよ……。
最後に会えた嬉しさと、もう会えなくなる寂しさで帰りの車内は涙が止まりませんでした。まるで告白してフラれた気分でした。
ひとしきり泣いたあと、私は思いました。
福岡に行きたい! と思えるように私がしたらいいんだ、と。
こうなりゃ、私が頑張って文章を書き続けるしかない。
貴女に忘れられないように、貴女が私に会いたいと思ってもらえるように。
だから川代さん、貴女に会えなくなるのはとてもとても寂しいですが、私は福岡で貴女の帰りを待っています。
いつの日か、私の言葉で貴女が「福岡に行きたい!」と言ってもらえるその日まで、私の力が続く限り、私は文章を書き続けたいと思います。
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