僕は京都での生活を捨ててでも、“ど”田舎・鳥取に移住するのだろう。
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記事:ほそきはら あきとし(ライティングゼミ 日曜コース)
誤解を恐れずに言えば、鳥取県は「ど」がつくほどに田舎だ。
果たして、どれだけのヒトが鳥取県の位置を正確に言えるのか正直分からない。
鳥取に行ったことがないヒトの方が圧倒的に多いのではないだろうか。
自然はある。海もある。山だってある。
でも、多分「砂丘」しか思い浮かばない人がほとんどではないだろうか。
その砂丘だって、実は日本一の砂丘は東北にあるというのに、それしか有名ではないと言うのは本当に悲しい。
隣の兵庫には、すぐに城崎温泉などの有名な温泉地があり、西に向かえば、隣の島根には宍道湖があって、出雲大社まである。
南? 南にも新幹線が通っている2つの県があるけど、もう勘弁してもらえないだろうか、どちらにも勝てるモノがみつからない。
鳥取には、米子市という街に学生時代の数年を過ごした。
あるとき、水木しげるの生誕の地として有名な、隣接する境港市まで40キロほどの片道を自転車で行った時のことだ。弓ヶ浜という、まるで弓を引いたときのような美しいカーブを描く海岸線に、綺麗な夕日が沈んでいく光景をただただ美しいと思って眺めていた。
学生時代だったからお金がなくて、時間だけをもてあましていたとこともあるけど、
あのときはカメラもなかったのに、綺麗な場所、美しい場所、そしておもしろい場所をもとめて、自転車で彷徨っていたと言った方が良かったのかも知れない。
また、近くには、中国地方で唯一百名山にも認定されている「だいせん」という山があった。
その山では、登山、スノーボード、パラグライダーなどのスポーツを体験できるが、僕が今一番貴重な時間を過ごしたと思えるのは、山の上で星空を鑑賞していた時のことだ。
山の上から見る星空は、決して飽きることがない。
あのとき、僕はゆっくりと流れている星空を、「美しい」という感情だけで、ただボーッと見ていただけだった。でも、今思えば、あんなに贅沢で、心が洗われるような体験は、もうできないのではないかと思ってしまう。
あのとき見ていた光景を撮って残したい。いつか、写真の腕が向上したときの夢だ。
そして、今思い出すのは僕が住んでいた当時の鳥取には、満足にモノがなくて、高校生だった当時には簡単に買うことができないものが多かった。
一番覚えているのは、あのときの僕は「アニエス・ベー」というブランドの服が欲しくてたまらなかったけど、小遣いを貯めたって、大阪までの旅行代と服を買うような余裕はなかったから、雑誌をただ眺めて着た姿を想像し、似たような服で我慢していた。でも、数年して社会人になってからはじめて「アニエス・ベー」の服を買ったときには、飛び跳ねるほどに嬉しかった事を覚えている。
でも、今、京都に住んで、大阪を主戦場として働いていると買い物には困ることはない。
好みの服、流行の服、いや、服に限らない。欲しいモノは金さえ出せば買えてしまう。
でもどうだろう、一つ一つの買い物に満足しているかと言われれば否定してしまう。
買い物をしても「うれしい」とか「楽しい」という感覚がなくなりつつあるからだ。
じゃあ、どうすれば買い物をして「うれしい」とか、「楽しい」という感覚はどう生まれてくるのだろうか。もちろん、「新製品」とか、「高級品」であることも含まれるだろうが、基本的にはやはり「欲しいと思っていたモノが手に入る瞬間」が訪れるからではないだろうか。
「自分が使おうと思っていた」とか、「自分の生活にはこれが便利」とか、じっくりと自分の中での考えがあって、それが満たされるモノを購入したときこそ感じる感情のような気がする。
そして、ここまで考えていて、ひとつの結論にたどり着いた。
今の自分は恵まれすぎているのだと。
大人になって、京都に来て、おもしろい場所・美しい場所、そして素晴らしい感性の人たちに出会い恵まれていると思うが、自分の感性を磨くという面では、今後、ある程度の伸びしろまでしかないように思えてきた。
それは、物事を想像して生活することが、極端に減少しているからではないだろうか。
鳥取に生活したことは、人工的ではない、自然の造形に溢れていて想像力をかき立てることができた。モノが不自由であるからこそ、不自由を想像力でカバーして生活することができた。それは、ただ単純に素晴らしい経験をしていて、都会では簡単に体験することができない、景色・音・風・香り、そして買い物に至るまで、いわば人間の五感に直接語りかけてくるような体験に溢れていたのだ。
でも、鳥取県民からすると、その魅力に気づいている人はほとんどいないのではないだろうか。日常であるがうえ、感受性の視野は狭まっていて、どんなに素晴らしいモノでも飽きてしまう。そういうことかもしれない。
そして、実は、僕の両親は定年後に鳥取県に移住してきた。
全国各地を転々としていた両親が、最後に選んだ土地。
いつも、海の幸がうまい、山の幸がうまい、そして、水がうまいとしか言わないのだけど、実は少なからず鳥取の隠れた魅力に気づいて、この地を終の住処に選んだのかも知れない。
僕もその素晴らしさに気づいてしまった。今はまだやりたい仕事があるから鳥取に移住する事はできない。でも近いうちに鳥取に帰省して、あのときに見た夕日、そして星空を眺めに行こうと思う。
そう、すこしでもあのときの感性を取り戻すために。
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