メディアグランプリ

もがいた経験があるからこそ、わかることがある


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:伊藤かよこ(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
「泳ぎ方」を一度も習わないで、泳ぐことは可能だろうか?
私は、可能だと思う。
フォームもなにもあったもんじゃない。やみくもに手足をバタバタと動かし、少ししか前に進まないだろう。だけど、浮かぶことさえできれば、気合と根性だけで、なんとか25メートルくらいは泳げるんじゃないだろうか。
私はまさにそんな感じで1冊の本を書き上げた。

小学生の頃から本を読むのは大好きだった。特に小説。物語の中に没入し、我を忘れるあの時間は、私の宝物だった。誕生日プレゼントも本、クリスマスプレゼントも本、欲しいものはいつも本。

本好きが高じて、「小説家になりたい」と口にしたこともあった。だけど、私は文章を書くのが苦手で、夏休みの感想文の宿題は、8月の終わりに、本の一部をまる写しすることでなんとか間に合わせるような子どもだった。

そんな私だったが、過去に一度だけ「小説」を書いてみたことがある。今から6年前のことだ。

その時、私は鍼灸師で、鍼灸師なのに話をするだけで腰痛を治すという少し変わった治療院をやっていた。「話をするだけ」というと驚くかもしれないが、これは認知行動療法といって、現時点で世界最先端の治療法なのだ。腰痛に対する正しい「考え方」を身につける。そのための「科学的根拠に基づく情報」がクスリになる。2800万人とも言われる日本の腰痛患者さんにこの「科学的根拠に基づく情報」というクスリを届けたい。何かいい方法はないだろうか? 

ちょうど、水野敬也さんの『夢をかなえるゾウ』という本が流行っていたころだ。そうだ、この方法は使える。「科学的根拠に基づく情報」は、少々難解で一般の人のお口にはあまり合わない。そこで、一口サイズに小さく刻み、味付けを工夫して、お口に合うように小説に仕立てるのはどうだろう? そう考えた私は、楽しく読んでいるうちに自然と最先端の科学的根拠を学べるような小説を書きはじめた。

ストーリーを作るのは得意だ。物語が好きで、妄想ばかりしていた子ども時代の名残だろう。難なくプロットを作り、それを文章にしていく。
ところが、書きあがったその文章をみて愕然とした。
―――下手すぎる。
とてもじゃないけど、人様にお見せできるようなものではない。書けたら知人を頼って出版社を紹介してもらおうと思っていたのだが、その気持ちも一気にしぼんだ。結局、その小説は、誰にも見せることなくそのままお蔵入りした。

それから4年の年月が流れた。本を出したいと思っていたことなどすっかり忘れていたある日、私のブログをみたある編集者さんから本を書きませんか、と声をかけてもらった。私は、うれしくて二つ返事で引き受けた。
その編集者さんに、私がかつて小説を書こうとしていたことを話すと、それはいいということになり、一緒に小説をつくることが決まった。

プロットづくりは最高に楽しかった。ヒーローズジャーニーなんて言葉は知らなかったけれど、完成したストーリーは、ドン底から自らの手で幸福を手に入れるまでの主人公の成長物語になっていた。登場人物の設定、場面の設定、章立て。
次から次へアイデアがわきだし、毎日が興奮状態だった。

プロットがかたまり、文章にする段になって、今度は私がPCの前でかたまった。
―――文章が出てこない。
そういえば、私はブログの記事を書くのさえやたらと時間がかかる。だからブログの更新も週に1回がいいところだった。そんな私が、本1冊をどうやって書けばいいのだろう?

「とりあえずなんでもいいから、最初から最後まで話をつなげてください」
編集者さんにそう言われ、困り果てた私が考えだした方法はすべてを会話文で書くことだ。小説というより、シナリオ、いや、シナリオにもなっていない。とにかく最後まで話をつなげること、それだけを目標に1日のほとんどの時間を執筆についやした。

1日に数時間、毎日毎日続けていれば、少しは成長するものだ。全8章をなんとか書ききり、最初にもどって1章を読み返したときに、自分の文章の下手さに気がつく。8章を書く間に、少しだけ文章力が向上する。だから何日か前に書いた1章の文章のダメさがわかってしまうのだ。そこでまた、1章から書きなおす。そして8章まで書いて、また1章の下手さに気がつき、書き直す。それを10回か20回、いやもっとかもしれない。何度も何度も繰り返した。この作業はいつか終わるのだろうか? もうこれでいいと思えるときは来るのだろうか?

書きはじめてから1年と4か月。ようやく本は完成した。文章の書き方を習ったこともなく、ブログ記事を書くのに何時間もかかっていた私が、気合と根性だけで12万字を書き上げた。

その本は無事に出版され、めでたく私は著者の仲間入りをした。なにしろ1冊の本を完成させたのだ。少しは“書ける”ようになった、はずだった。だけどそれは勘違いだった。

今年の2月。出版社のweb媒体で記事を書かせてもらえることになった。2000字の記事を3本。そのくらいの量は余裕で書ける、そう思った私は、二つ返事で引き受けた。
ところが……、これが書けないのだ。
いや、書けるかと言われれば書ける。
書けるのだけど、どうもおもしろくないのだ。

―――いったい、どうすれば多くの人がシェアしてくれるような、「おもしろい」文章が書けるのだろうか?
頭を悩ませているうちに、時間ばかりが過ぎていった。

天狼院書店の三浦さんが書かれた『いっそ、駄作ならよかったのに。』という記事に出会ったのはこんな時だった。情景がありありと目に浮かび、記事の中の世界にぐいぐいと引き込まれる。私もこんな文章を書けるようになりたい。私は三浦さんの文章につよく魅かれた。そして、ライティング・ゼミに通いはじめた。

ライティング・ゼミで私は、「泳ぎ方」を教わった。
プロの「型」を教わることで、美しく、スマートに泳げるようになり、スピードも上がった。手足をむやみにじたばたさせ、無駄なエネルギーを使っていたあのころとは大違いだ。そして私は、書くことを「楽しい」と感じはじめた。

こんなことなら、ライティング・ゼミを受講してから、本を書けばよかった。そうすれば半分、いや三分の一のエネルギーで、もっと面白いものが書けたかもしれない、そう思うこともある。

でも、きっとあれはあれでよかったのだ。気合と根性だけでぶざまに泳ぎ切ったあの体験。あれがあったからこそ、今の私があるのだから。
 
 
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2017-07-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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