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お泊りしたくないの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:apisuto(ライティング・ゼミ 平日コース)

 
 
「ああ、旅行なんて行きたくない。お泊まりなんてこりごりだ」

 今は8月。夏真っ盛り。夏となれば、海、山、花火、キャンプ。楽しいイベントが目白押し。楽しい旅の思い出をつくる絶好の機会である。

 遠出をしてホテルや民宿にお泊まり、ということもよくあることだ。実は、私はこのお泊まりが大の苦手である。

 寝相が悪い? 枕が変わると寝ることができないから? 寝言が激しいから?

 いやいや、「アレ」が気になってしょうがないからである。

 「アレ」とは……。

 恥ずかしいので、できればフォント小さめでお伝えしたいくらいなのだが、「いびき」である。

 数年前から、寝るときに時々、いびきをかくようになった。年齢とともに、そして体型の変化とともに、というのもあるが、いびきをかくときは、どうやら一定の法則があることに気づいた。

 例えば、身体的にも精神的にも疲れがすごく出たとき。そしてお酒をたくさん飲んだとき。あとは、睡眠不足のとき。

 どれも旅先につきものである。
 
 年の離れた先輩や後輩、異性の場合は、それぞれ個室を取るということもある。しかし、大抵の場合は、2〜3人と同じ部屋で睡眠を取ることが多い。

 そうなると、旅のワクワクと異なる胸のざわつきが生まれてくる。

 「ああ、一緒の部屋でグーグーいびきをかいたらめちゃくちゃ恥ずかしい!」
女子力が低いと言われる私にも乙女の恥じらいがある。
 
 そこで何とか恥ずかしい思いをしないでやり過ごせないかと思い、Google先生に尋ねてみる。いくつか対応策はあるようだ。

 私はすぐにやれることは実践してみることにした。

 一つ目の対応策は、「横向きに寝る」
 
 仰向けで寝ていると口から鼻にかけての空気の通り道が圧迫される。それが、横向きに寝るということで解決されるようだ。
 
 実際にやってみる。寝るときには横向きに寝るが、知らない間に仰向けになってしまう。さすがに、寝ている間の身体の向きを意識的にキープすることは難しいと実感し、断念。

 二つ目の対応策は、「マスクをする」

 マスクによる適度の湿気がいびき予防に効果的とのこと。夏の暑い日にマスクをして寝るというのは、なかなか大変だ。寝ている間に無意識にマスクを取ってしまっていた。これも断念。

 三つ目の対応策は、「いびき防止のシールを貼る」

 最近は、ドラッグストアなどでいびき防止のための鼻に貼るシールが500円前後のお手頃な価格で売り出されている。「これが一番、効果的なのでは」と直感のもと、即購入。しかし、鼻の低い私にはうまくフィットしないのか、何度貼ってもペリっとめくれてしまう。めげずにチャレンジして、ようやくくっつく。

「ああ、これさえあれば安心だ」と思い、眠りに入る。

 しかし、起きて見ると、あるはずのシールが鼻にくっついていない! どういうことだと思ってあたりを探す。なかなか見つからない。ふと手を頭にやると、違和感が。シールが髪に絡まっている。これも断念。

 尽くすべき手は、全て尽くしてしまった。かくなるうえは、最終手段に出る。

 それは「寝ない」

 もうこれしかない。

 同室のメンバーととりあえずしゃべり倒す。深夜でも構わず、お菓子やおつまみを食べて、胃を動かし続ける。もしくは、お布団に入ってもちょこちょこ携帯をいじって、何とかまぶたが閉じないようにする。

 おかげで旅から帰るころには、身体はボロボロで、帰宅したらすぐ熟睡ということがほとんどんだ。いつまでもこんなことが続くのか……とうんざりしながらも、再び旅に出た。

 ある旅で北川景子のようなスラットした美人の後輩と同室になったことがあった。「今回もしゃべり倒すコースだな」と思ったときに、その美人後輩がさらりと私にこういった。

 「先輩、すみません。私いびきかくと思うんで、いびきが大きかったら遠慮なく起こしてくださいね」

 私は一瞬、言葉を失った。私が恥ずかしくてできるだけ隠したい、と思っていたことを、さらりと言っちゃうのだと。

 私は思わず、後輩に聞き返した。「いびき、私もかくと思うし、大丈夫だよ。ちなみに、いびきをかくっていうのは友人や恋人にも事前に言っちゃうの?」

 その後輩は何の違和感もなく答える。

 「はい、そうですよ。その方がこちらも寝やすいじゃないですか」

 私は、軽い衝撃を受けた。

 いびきは生理現象の一つだ。すぐに治そうと思っても治せるものでもない。
 
 それを必死に隠していたとしても、自分がしんどいだけだし、周りも変な気を遣ってしまう。むしろ、あらかじめ言っちゃうと自分も気が楽だし、相手も突っ込みやすくなることに気づいた。

 一説によると、3〜4人に1人はいびきをかくと言われている。身近な人が私と同じくいびきをかいてもおかしくない。大人だったら十分そのことは理解してくれる。自分が思ったより、いびきは恥ずかしいことでもないのかもしれない。

 小学生のころを思い出した。あのときは、お腹が痛くなったとき、トイレに駆け込むのが恥ずかしくて、限界まで我慢をしていた。同じ経験をした人は少なからずいるはずだ。

 しかし、大人になれば、多くの人が「ごめん。ちょっとお腹が痛いからトイレに行ってくるね」と恥じらいもなく言えるし、周りもその様子を察知して気を遣ってくれる。それは誰にでも起こりうることで、恥ずかしいことでもないと十分に理解できるからだ。

 そう思うと、旅先でのお泊まりもちょっと気が楽になった。

 とはいえ、小心者の私は、周りの人にはカミングアウトができていない。まずは、書くことでカミングアウトをしてみようと思って、パソコンの前に向かった。

 これで気持ちもようやく整理ができた。

 次は、いつかの日の美人後輩のようにさらりと言ってみよう。そう決めている。

 
 
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2017-08-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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