野球部に縁の無い私が甲子園で人生を見つめ直すまで
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記事:蒔田真弓(ライティング・ゼミ 平日コース)
埼玉代表の花咲徳栄高校の優勝で幕を閉じた今年の夏の甲子園。
甲子園では残念ながら見られなかったが、早稲田実業・清宮幸太郎選手の本塁打記録がどこまで伸びるのか、世間の熱い関心は来月のU-18ベースボールW杯へと向き始めている。
そんな中、甲子園1回戦で敢え無く敗退したにも関わらず、未だに浮き足立っている所がある。私の地元、福岡県北九州市だ。
今年の福岡県大会では、21年ぶりに公立高校が甲子園に出場し、ちょっとした話題になった。この高校ではエースの姓が「石田」だと甲子園に出場できるという伝説があるそうで、今回も投手の石田君が一人で完投し優勝したということでセンセーショナルに報道されていた。私のfacebookのタイムラインも卒業生の祝福コメントやスポーツ記事のシェアで埋め尽くされていた。ヤフーニュースのトップにまで上がっていたのを見た時はさすがに驚いた。さらに、今度NHKでこの高校と地元の街に密着した特集が放送されるらしい。これも誰かのfacebookの投稿で知った。
他人事のように書いてきたが、実は私はこの高校の卒業生である。そして、福岡県民や高校野球ファンの方はもしかしたら「この高校」の名前をご存知かも知れない。しかし私はここで敢えて高校の名前は言わない。いや、言いたくないのだ。
私が「この高校」に入学したのは2006年。成績は可もなく不可もなく。理系なのに、数学と物理には苦しめられた。勉強も決して好きではなく、課題と部活に終われ、プライベートの充実なんて夢でしか無かった高校生活はあまり楽しいものでは無かったが、なぜか将来は明るいと思い込んでいた。
「卒業生には様々な分野で活躍する優秀な先輩がたくさんいらっしゃいます。今は苦しくても高校生活を乗り越えればみなさんもきっと夢を叶えて社会で活躍することが出来るはずです」
ざっくりこんな話を現役時代、常々先生に言われていた。聞いているうちに「自分も今頑張れば将来それなりの地位に居られるだろう」と安易な思い込みをしてしまっていたのだ。
高校卒業後は福岡の大学に進学したが、不幸なことにこれが私の勘違いを加速させた。地元なので、高校の名前はよく知られていたからだ。福岡では100年以上の歴史が長い高校が多いこともあり、就職などでは大学名より高校名が重要になるケースも結構ある。東京の企業に就職しても、福岡出身者は高校の話で盛り上がるくらいだという。福岡を出るつもりが無かった私は完全に安心しきっていた。「将来は明るい」と……
高校を卒業して8年、いつの間にか26歳になっていた。その今の私は、いわゆるハケンという地位である。この地位に落ち着いた理由はここでは省略するが、派遣されている会社の社員には同じ高校の卒業生が何人もいる。いわゆる「優秀な卒業生の先輩」の理想がそこにあり、働き始めた当初から劣等感を抱き続けていた。
私も甲子園出場が決まった当初は本当に嬉しかった。野球部に縁は無かったが、現役時代に見ることが出来なかった甲子園の地で後輩たちがプレーする様子を誇りに思った。Facebookにもいっぱい「いいね!」をつけた。野球部と関係ないのに友人からおめでとうと声をかけられ、それに「ありがとう!」と返事している私がいた。
しかし、同期や先輩達を見れば、一流企業に就職したり、会社を経営したり、結婚したり、着実に夢を叶え、活躍している。いかん、だめだ、さらに膨らむ劣等感。そっとPCを閉じる。
極めつけは、実家に届いた封筒だった。そう、寄付を募る案内だ。手紙に「甲子園対策委員会」と書いてあったのには、もうちょっと良い名前があるのではとちょっと笑ってしまったが、虚しかった。寄付金を払う余裕は、私には無かった。
「社会で活躍する卒業生の先輩がたくさんいます……」先生の言葉が脳内に響く。その「卒業生の先輩」にきっと自分は入っていない。こんな自分が母校の名前を名乗る資格は無いとすら思い始めた。その日から、一切母校の甲子園についての話題に触れるのをやめた。母校が早々に敗退してしまい、ホッとしている自分がいた。
母校の敗退から半月経った。Facebookのタイムラインは今日も試合の動画や、テレビ放映の告知などが投稿されて賑やかだ。母校の甲子園出場が、どうやら私の人生を変えることになりそうだ。今、とある書類と格闘している。ライティング・ゼミで2000字書くのも一苦労なのに、また書くものが増えた。やれやれ。
勉強していれば将来なんとかなると思い込んでいた当時の自分を一発殴ってやりたい。現実はそんなに甘くない。しかし、この高校を卒業して、後輩達が活躍してくれたことが私に気づきを与えてくれた。伝統を語り継ぎたかったら、自分もその伝統にふさわしい人物にならなければ。
他の卒業生たちと母校を思いっきり応援して、本気で喜びを分かち合いたい。これが私の来年の夏の目標になった。だから母校には来年再び甲子園の舞台に立って欲しい。頑張れ!
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