猛獣
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:仲里 実(ライティング・ゼミ平日コース)
※このお話はフィクションです。
居酒屋の格子戸を開け、薄暗い路地にでた。
細い路地を歩いていると一人の男が早足で俺を追い越していった。
その男の顔を見て俺は驚いた。
薄暗くて顔はよくわからなかったが、男の顔が異常に長かったからだ。男は長い髪をなびかせて遠ざかっていった。俺は自分の目を疑った。
街灯の下で男が振り返った。
街灯の光で一瞬、男の顔が照らされた。それはウマの顔をしていた。
長い髪と思ったのは、たてがみだった。
「いまのは何だったんだ?」
俺は首をひねった。何かのいたずらだろうか?
もしかしてドッキリカメラの撮影でもしているのだろうか?
あたりを見まわしてみたが、それらしいカメラは見当たらなかった。
俺は路地から大きい通りに出た。
次の瞬間、俺は驚いて声を上げた。街中を動物の顔をした者たちが歩いていた。
不思議なことに皆、顔は動物だが、体は人間で普通に服を着ていた。
俺は額に手をあてた。あまりの出来事に頭が混乱していた。
俺はしばらく、その場に立ち尽くしていた。
どうしたら良いのかわからずに周りを観察していた。
きれいな服で着飾ったホステス風の女が俺の前を通り過ぎた。
その女はクジャクの顔をしていた。
「とにかく、家に帰ろう。明日には普通の世界に戻っているに違いない」
俺は歩き始めた。
ちょうど、焼肉店の前を通りかかった。
店の前の立て看板には「焼肉食べ放題!2500円」と書かれていた。
窓の向こうに肉に食らいついている男の姿が見えた。ブタの顔をしていた。
道端でホームレスが寝ていた。
男は何をするでもなく、ただ寝転んでいた。
男はナマケモノの顔をしていた。
ツンとすましたOL風のネコ女が俺とすれ違った。
後ろから男たちがネコ女をナンパする声が聞こえた。振り向いてみるとネコ女は男たちのナンパを無視して通り過ぎていった。
道端でギターを弾きながら歌を歌っているストリート・ミュージシャンの女はカナリアの顔をしていた。
ペンギンの顔をした女の群れが楽しそうに喋りながら通り過ぎた。
これから女子会にでも行くのだろうか?
動物の顔はその人間の本性を表しているらしい事に気づいた。
俺はなぜか、無性に怒りがこみ上げてきた。
街を我が物顔で歩いている動物たちを見ているうちに、破壊衝動が沸き起こってきた。
このまま、この動物たちをのさばらせておくわけにはいかない。
たまたま、近くにあった金物屋に飛び込むと、俺は包丁を手に取った。
包丁を持って店の外に飛び出した。
サギのような顔の女が俺の手の包丁を見て悲鳴を上げた。
女は顔が赤く、くちばしが黒かった。
近づくと女は背を向けて逃げ出した。
俺はすぐに追いつくと、背中に包丁を突き立てた。
倒れた女の背中に馬乗りになって、俺は包丁を何度も突き立てた。
血しぶきが飛んで、俺の服を赤く染めた。
俺達の周りからは人がいなくなった。遠巻きに俺を見ていた。
カワウソ男がスマホを手にして、電話をかけている姿が見えた。警察に電話をしているに違いなかった。
俺はカワウソ男に一直線に向かっていった。カワウソ男は耳が小さく平たい頭をしていた。
電話をしていたために、俺に気づくのが遅れた。
カワウソ男が気づいたときには、俺は男の肩を切りつけていた。
カワウソ男は肩をおさえてうずくまった。うずくまったカワウソ男の背中に包丁を突き立てた。
その時、誰かが俺を後ろから羽交い締めにした。
俺は外そうとしたが、その力は強く、外すことができなかった。
仕方なく俺は、相手の足を踏んだ。一瞬、相手の力が緩んだ。
そのすきになんとか羽交い締めを外すことができた。
俺を羽交い締めにしたのは、オオカミの顔をした男だった。
オオカミ男は鍛えられた体をしていた。俺はオオカミ男と向き合った。
向き合ってしまえば、包丁を持っている分だけ俺が有利だった。
俺は何度も相手の胸や腹をめがけて包丁を突き出した。
オオカミ男は何度かよけたり、手で払ったりしていたが、ついに俺の突き出した包丁がオオカミ男の左の太ももに刺さった。
左足を引きずっている男の横に回り込むと、今度は横腹に包丁を突き立てた。
オオカミ男はついに倒れた。倒れたオオカミ男の横にしゃがんで、俺は何度も包丁を突き刺した。
オオカミ男は急速に抵抗力を失って、ついにぐったりとした。
遠くからイヌの顔をした警官が走ってくるのが見えた。
俺は包丁を捨てて、逃げ出した。
俺の顔は恐ろしい猛獣に変貌しているに違いない。
俺はカフェの前を走り抜けた。
きれいに磨かれたガラスに、前を通り抜ける俺の顔が映った。
それは人間の顔をしていた。
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