メディアグランプリ

ジェット機に憧れる鈍行列車


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:マリー(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「えっ、もうキャンセル待ちなんですか?」
4ヶ月後にある3連休に沖縄に行きたいと思った私は石川県にある旅行代理店に行った。4ヶ月も先なら飛行機もホテルもいっぱい空いているだろうと思ったら、意外な言葉が返ってきてビックリしてしまった。
「そうなんです。4ヶ月後の3連休は飛行機、ホテル共に既に予約が埋まっていまして……」
申し訳なさそうに店員さんが言う。
「キャンセルが出る可能性も大いにありますので、とりあえずご希望の飛行機とホテルをキャンセル待ちしてみますか?」
可能性が大いにあると言うので、とりあえずキャンセル待ちを申し込んだ。
「4ヶ月も先の予約が埋まっているなんて、その日に沖縄で何かあるんですか?」
店員さんがパソコンを操作している間、手持ち無沙汰になった私は聞いてみた。
「3連休になるとイベントのある無しにかかわらず6ヶ月前からすぐいっぱいになるんですよ」
「6ヶ月!」
私以外の人達の行動の早さにビックリしてしまった。
「お客様が指定した航空便もそうですけど、石川県から沖縄に行くには羽田空港を経由するじゃないですか。石川県の空港から沖縄への直行便は時間帯が悪いと言って。石川県から羽田空港に行く便は空いているのですけど、羽田から沖縄に行く便が発売と同時に埋まってしまうんです」
「つまり都会の人達が早く予約してしまうと」
「沖縄に限らず、どの旅行もそうですね。都会の人は早いですよ」
ジェット機かよ! と、心の中で突っ込んだ。
4ヶ月も先の事を決めてしまっていいのだろうか? 予定が入ったらキャンセルするの面倒だな。と悩んでいたのに、都会の人は悩むよりより前にまず予約。その行動の早さに感心してしまった。
 
思い起こせば、都会の人は何でも早い。東京で私が普通の速度で歩いているとすぐ横を大勢の人が追い越していくし、飲食店に行くとすぐ食べてすぐ出て行く人ばかりだ。きっと仕事もすぐ終わらせて次々と新しい仕事をしたり、仕事が無い時は親しい人と飲みに行ったりしているのだろう。
それに対し、石川県の人は割とのんびりだ。多くの人が車に乗るので歩く機会が少なく、歩く速度は遅い。飲食店ではお喋りをしたり本を読んだりして長く居座る。仕事のスピードは多分遅い。仕事が遅くても仕事量が少ない為、多くの人は定時に帰っているが。
都会の人がジェット機のようなスピードで日々暮らしているのなら、石川県みたいな地方に住んでいる人は鈍行列車のようなスピードで暮らしているのだろう。鈍行列車の遅さに耐えられない人はジェット機に乗る為に地方から都会に移る。
 
私自身、都会に行きたい、ジェット機に乗っているような暮らしをしたいという夢を抱いていた。けれど鈍行列車にしか乗れない父と母を置いていく気になれず、今も一緒に鈍行列車に乗っている。
20代の時は都会に行っても親の介護が始まったら地元に戻らないといけないから行くだけ無駄だと思ってジェット機に乗るのを完全に諦めていた。鈍行列車の車窓から見える飛行機雲をうらやましく思っていた。
30代になった今、鈍行列車も悪くないと思う自分と、無駄になってもいいからジェット機に乗ってみたいと思う自分がいる。石川県で安定した仕事に就いていて、親の介護さえ乗り切れば平穏無事に生きていけるのだから、無理してジェット機に乗らずに鈍行列車に乗ったままのんびり風景を眺めて暮らす人生もいいじゃないかと思う。少なくとも私の両親はその人生を歩んでいる。
 
ただ、のんびり風景を眺めているばかりの生活をしていると、そののんびりが嫌になるのだ。平穏無事だが楽しみが無い。暇すぎてつまらない。地元でやりたい事を見つければ毎日が楽しくなるだろうと思って習い事などをしたりするが、何をやっても楽しくなくてすぐ止めてしまう。
毎日あまりにも変化が無くてつまらないと、テレビやインターネットを通して流れてくる都会でしか味わえない文化に触れてみたくなる。肉体的に多少辛くても給料が良くてやりがいのある仕事に就いてみたいと思う。
「一度しかない人生だ。ジェット機に乗ってみて速さについていけないと思ったらすぐに降りて、また鈍行列車に乗ればいいじゃないか」と決意すると、「いやいや、一度、鈍行列車から降りたらもう元の鈍行列車には乗れない。今の仕事を辞めて都会に行って失敗して戻ってきたら、今よりも待遇が悪い仕事にしか就けないかもしれないじゃないか」とすぐ弱気になってしまう。私はジェット機に憧れる鈍行列車という立場に縛られたままだ。
 
この縛りから抜け出すには、鈍行列車の窓からジェット機が作る飛行機雲を眺めるだけではダメだ。都会に頻繁に行って、テレビやインターネットから得られる情報が自分に合っているかどうかを知る必要がある。都会そのものに直に触れる必要がある。
何度も何度もジェット機に触れて本当に乗りたい、乗らないと後悔する、乗らずに死ねるか! と本気で決意した時に乗ればいい。
この決意に向かうまでの行動も、6ヶ月後の予定をすぐ決めて旅行の予約をする都会の人から見れば遅いのかもしれない。早く決める、早く動くという都会の人の感性も身につける必要があるようだ。
 
 
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2017-09-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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