『チリチリする』という妻からのメッセージ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:山田徹(ライティング・ゼミ日曜コース)
『チリチリする』と妻が言い出した。
私は、その頭の後ろ部分の髪を両手でかきわけ確認したのだった。
そこで妻の頭皮を見たときに逃避したい気持になり、そして悲しかった。
発見したものは”あれ”だったからだ。そんなにもストレスを感じていたのか?
妻が定期的に、こんな言葉を私にいっていた。
『楽しく笑顔でいてくれたら嬉しい』
私にはそういうのはどうでもよかったし、『笑顔で稼げるか!』とも思っていた、
経済的に成功することの方が大事だったのだ。
この頃は、妻には相談もいっさいしないで自己中心的なお金儲けのノウハウや講座への
自己投資がずっと続いていた。
遠くにいて会ったこともない経済的な成功者に高額を支払い間接的に教えてもらう。
書籍も教材も購入していった、もういくらくらいつぎ込んだろうか?
最初は数千円だったものが数万円、数十万円と額がどんどん上がっていった。
総額は高級車が買えるくらいかもしれない。
あったこともないビジネスの成功者にお金を払い、
身近にいる大切な人にお金を使わないということをしていたことになる。
お金の流れがおかしなことになっている感じもする。
自己投資をすればするほど経済的に成功していくはずだったけれど、
予測に反して結果は望むようなものにならなかった。
顔はどんどん険しくなっていき、サラリーマンとしての本業が終ってからもパソコンに向かって作業したり勉強に使っていった、家族の会話の時間がもったいないと考えるようになっていた。
お金持ちやビジネスで成功している人が正しいと考えて真似をしているつもりでも
うまくいかない、本もアマゾンで買い、紀伊国屋で買い、山積みになり、積めないそれ以外の本は、いつか使うとダンボール箱に入れてどんどん玄関を埋め尽くし増えていった、
パソコンの中は同じような教材ばかり、どれが重要かもわからなくなっていた。
自己中心的な自己投資が増えるほどお金がどんどん減っていく。
経済的に成功していれば、妻も”あれ”にはならなかったかもしれないし、
『チリチリする』という言葉を聞かなくてすんだかもしれない。
あれを見つけた時に、
『10円見っけ!』と冗談でもいえる夫であれば良かったかもしれない。
ある本に悲しみの奥には好きで大切なものが隠れているよ……。
と書いてあったのを読んだ。
私の大切な人にできたものは、10円はげだった。
『もうやめよう』って思った。自己中心的な自己投資で
ストレスを感じている妻に申し訳ないから。
とある日、池袋にあるカフェベローチェの地下で紅茶を飲んでいるときに
焼き芋のことを思いだした、そういえば、妻は、
いつもいちばん美味しいところを私に残してくれたし、
『食べて!』と言ってくれていたな~。
もしかして、毎回毎回そんなことをしてくれていたのかな?
もしかしたら、他の食べものでもそうしてくれていたのかな?
もしかしたら、何年もそうやって気遣いしてくれていたのかな?
私はベローチェの地下で『うえっうえっううう……』
と嗚咽にも似たわけのわからない声を出していた。人目があるが感情が抑えきれなかった、
それと同時に、目から流れるしょっぱいものが口に入ってきた。
『チリチリする』と言われた、あの時に私は嘘をついた、何かなっているか?
という質問に対して『ちょっと10円くらいのはげができてるよ』っていった。
気をきかせて『1円玉くらいだよ』っていえればよかったかもしれない。
『大丈夫だよ髪で隠れるから他人には気付かれないから……』
そういって安心してもらいたかった。
本当は、大きさが10円じゃなかった、それよりも大きかったんだ。
実は10円玉より大きな500円玉だったんだ。
ビジネスなら1円でも多く稼ぐほうがいいかもしれないけれど、
はげの大きさの場合は、できれば小さいほうがいい。
500円より、10円、10円より1円のほうが小さいから……
悲しいからどうにかしたい、この500円玉のはげをどうしたらいいのだろうか?
ここで思いだしたことが……
『楽しく笑顔でいてくれたら嬉しい』
だった。
それなら自分も楽しくできてニヤニヤすることって何かないかな?
と考えてみた。
『そうだ!』
お金もかからないで自分も楽しくニヤニヤできることがある。
早速、妻を楽しませるための専用ブログを作った、
アクセスは全くないし読者は妻しかいない、
ブログで記事を書いたらスマホにメッセンジャーで記事のリンクを送る。
妻が読んで面白かったといえばOKだ、妻にだけウケることが目的だから
楽しかったら私のスマホにハッピー系のスタンプが送られてくる。
”妻専用ブログ記事”
自分もニヤニヤして書いて、大切な人にウケる、
これはお互いにいいんじゃないかと思えた。
それから、しばらくニヤニヤして書いては、送信し続けていった。
まずは遠くの成功者から学ぶよりも、近くの大切な人を大事にしようと思う。
そういえば最近は顔の険しさがなくなっている感じがする。
妻は、いつのまにか、『チリチリ』するとは言わなくなった。
妻の後頭部の髪を両手でかきわけると
『あれっ! あれがない!』
あれがいつのまにか今はもうなくなっていた……。
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