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元片付けられない女が学んだ人生の哲学


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:REI(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「片付けられない女」それは自他共に認めたかつての私の肩書き。
2000年初頭の東京の1ルームの部屋はモノで溢れかえっていた。
九州から上京し社会人となった私は都会OLになりきる為に次々にブランド品や洋服、アクセサリをせっせと買い集めていた。
田舎には無いショップの紙袋や箱でさえも貴重なコレクションとなり、玄関先や部屋の中にはテトリスかの様に空箱が山積みになっていた。
流行に追いつこうと買い集めたファッション誌、最新の音楽に詳しい自分を演出したいと思い買い集めたCD、ギター。
オシャレかつ出来るOLでも有りたい欲求が溢れかえった本棚。英会話のテキストや資格本。
スポーツも楽しむリア充な自分を演出する為のスノーボード、テニスラケット、ゴルフバッグ。
テーブルと布団をひくスペースを残し、1ルームの部屋は都会での栄光グッズに埋めつくされていた。
 
栄光グッズと言えば聞こえはいいが、自分で取り込んだモノ達に圧迫間を感じながら暮らしていた。床にまで浸出したモノ達を押しのけ掃除機をかけるのも一苦労。振り返ってみると掃除しきれない埃も堆積していたのだろう。
それでも都会のオシャレなOLふりをして涼しい顔をして靴であふれた玄関から毎日出勤していた。
たまに遊びに来る会社の同僚から部屋が散らかっているなどと言われようものなら
「散らかっている訳じゃない。モノが多いだけ。掃除はちゃんとするし」と反論をして聞く耳さえももたなかった。
 
東京での生活も5年半を過ぎた夏、私はUターン転職の為、九州に戻った。その途中引越しのトラックが高速道で横転。私の家財道具一式は大半が破損。せっせと買い集めた栄光グッズが保険会社からのお見舞い金に形を変えた。
このような荒療治にもめげず、お見舞金と給料を投資し、空になった部屋に再び私は大量のモノを集めた。
東京に住んでいた時のモノで溢れかえった1ルームを九州に再現するまでにさほど時間は掛からなかった。
転職後の仕事が忙しくなればなるほど部屋も荒れていき、友人が遊びに来るなどと言おうものなら全力で阻止する様になった。まるで城をせめてくる敵を阻止する番人かの様に何者をも寄せ付けない程の気迫がその頃の私にはあった。
部屋に友人も呼べないなんて! と自分自身のあり方を反省した頃に一冊の本と出会った。それは今までの収納を駆使するだけの片付けと一線を画す新しい片付け術の本であった。自分にとって、「不要、不快、不適」を取り除いていき、自分の空間を「自分がごきげんになるモノ」で満たす。「モノを通じて自分を見直す」
行動する事によって学びを深めて、空間を取り戻していくこの手法に私は夢中になった。
 
取り掛かってみると驚くほどの不用品で部屋が埋めつくされていた事に気付いた。
友人も呼びたくない部屋に住んでいる自分。どこか後ろめたい感情を自分に対して抱いていたが、不要なモノを捨て、少しずつ部屋に空間が生まれると自分に自信がついてきた。
この手法を知り、どれだけのモノを手放し、入れ替えてきたことだろう。
過去に取り組んだ際には必要だと思ったモノも次に見た時には不要に思えたりもする。
片付いているつもりの引き出しやクローゼットの奥には忘れ去られたモノが堆積していたりする。繰り返し実践する事によってこそ見える世界があったのだ。
 
もう必要無いにも関わらずどうしても手放せないモノにこそ自分の執着が張り付いており、嫌でも自分自身と向き合う事となった。
なかなか手放せなかった参考書には出来るOLに憧れたがが叶わなかった私の執着心が張り付いていた。ブランド品には自分を良く見せたい願望が張り付いていた。等身大でいいじゃないか。そう思えた時にそれらをようやく手放す事ができた。
空間を取り戻していく事は、心地よい反面、手放しがたいモノを手放す際は胸が締め付けられる。手放そうと決めたにも関わらず、部屋の片隅にずっと置いていたモノもいくつもあった。家の外に出すまでが一苦労だった。そのような苦労の末に私は空間を手に入れた。
 
空間が整うと不思議と気持ちにゆとりができ、それまではカフェに行って読んでいた本も家で読む様になった。テレビを消し、手元に残したお気に入りのカップで紅茶を飲みながらの読書は幸せを感じる一時となった。
ショッピングをしたり、友人と会ったり、美味しいモノを食べたりする事でチャージ出来ると感じていたエネルギーは自分一人でも自家発電出来る事が分かった。
仕事から疲れて帰っても寝るだけの部屋だと割り切って、布団一枚分のスペースさえあれば良いと思っていた時代とはうって変わり、モノが減った事でベッドを置くスペースができ、ベッドで寝る生活も始まった。
 
すると不思議な事が起こった。床で眠らなくなったおかげか、モノが減った事で掃除をする頻度が増えて、埃が減ったのか季節ごとの咳が続く風邪をひかなくなった。
部屋にモノを取り込む時に吟味するようになった様に、体に食べ物を取り込む際にも同じ様に本当に食べたいかを考えるようになり、結果として最大体重から自然と10キロの減量を達成した。空間が私に心のゆとりと身体の健康をくれたのだ。
ただ、ここまでの効果を体感できたのはこの手法を実践しはじめて7年が過ぎた頃であった。
 
何事も学んだ事を自分の物にする為には実践が必要。そして実践をしながら少しずつ成果を感じる。一進一退を繰り返しながら、長い歳月をかけて人生をかけて学ぶ。単なる部屋の片付けではなく、この手法は「哲学」である。自分自身の実践を振り返りそう感じた。
 
私の変化を見てか、最近巷で取りざたされている片付け術を見てか、ミーハーな友人が「なんかモノを捨てたら良いことあるらしいね。私も捨ててみよう。どんな良い事があるのか気になるし。でもやっぱり捨てられない」などと話してきた。
良いことがあるから捨てたのではない。捨てる過程で自分を見つめ、本当に自分にとって必要な事、快適に感じる事が分かったからこそ、日常の生活の中にある良いことに気付く事が出来たのだ。そんなに簡単なことではないと内心穏やかではなかった。
友人はひとしきり喋ると「参考にしたいから今度部屋を見に行くよ」と言い残し、私に背を向けて帰っていった。彼女の背中を見ながら私は心の中で彼女に言った。
「出してからおいで」と。
 
 
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2017-10-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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