メディアグランプリ

ストレスカフェのパチパチ先生


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山田徹(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
パチパチパチパチ……ドーン!
そして、ぷるぷるぷるとテーブルが揺れる。
 
片側に6人対面で6人座ることができるカフェのテーブルが揺れた。
私は一番端の席に座っていた、そこから左に2席分が空席で3席目に彼はいた。
 
スーツにネクタイ姿のみるからにサラリーマンだろう。
 
営業で外回りのあいている時間に雑務をパソコンで片付けようとしているようだった。
 
平日の出勤時間を過ぎてお昼前の時間に私の常連カフェは人が少なくなりまったりする
この穴場的な時間が私はとても好きだ。
 
その大事な心地よい時間をストレスにする人たちがいる。
 
パチパチパチパチ……ドーン!
定期的なテンポでこの音が私の左側から聞こえてくるのだった。
 
この音を聞くと不快になった、モーニングセットのハム卵サンドと紅茶が
ハム卵サンドとみそ汁になったくらいの違和感とストレスを感じる。
 
「うるせぇな〜、いなくなってくれ!」
なんて言えないけれど思ってしまう自分がいる。
 
このパチパチは彼のパソコンのキーボードを打つタッチタイピングの音だった。
 
お疲れ様です、今日の打ち合わせの件ですが……。
 
みたいなことをパチパチしているのだろうか、まあ、
パチパチは許そうと思う、でもね、その後のドーンはちょっといただけない。
 
たぶんだけれど、Enterキーで改行する時にドーン!
と勢いよく力強く、これでもかとEnterキーボタンを叩いていると思う。
 
そして片側に6人対面で6人座ることができるカフェのテーブルが
ぷるぷるぷるとその度に揺れる。
 
「こっちまで揺れてますけど!」って言いたいけど言えない。
 
もっというと「Enterキーが陥没して埋まってしまえ!」と言いたい。
 
この彼を私はパチパチさんと呼ぶことにした。
 
そしてさらにガラス張りの窓際のテーブルには女子が2人座り大声で話している。
 
「かわいそう〜その給料じゃね〜」「会社の為にならないよねそれって〜」みたいな会話で盛り上がっている。ボリュームを下げてもらいたい。
 
カフェ店内の快適な音楽の方に耳を集中して、パチパチさんのタイピング音と、この女子2人の大声を聞かないようにしようと思ったけれども、カフェ店内の快適な音楽に勝ち目はなかった、
像がアリを踏みつぶすかのように圧倒的にパチパチさんのタイピング音と女子2人の声が勝っている。
 
でも大丈夫、こんな時の為に、秘密のアイテムがある。
 
それはイヤホンだ。
 
騒音でもイヤホンを耳に入れスマホかiPod touchでお気に入りの音楽を聴けばいいんだ。
自分の世界にすんなり簡単に入れる便利なアイテム。
 
これで全てのストレス問題は解決だ。
 
テーブル下からリュックを取り出して中のいつものスペースをまさぐった。
「ん!」こういう時に限って……。
 
「ない、いやある、いやな〜い!」
 
家に忘れたみたいだ、どうしよう、このカフェにくつろぎに来店しているのにストレスを浴びるなんて時間がもったいない。
 
こっちもやる事があるんだ、ストレスに怒りを感じた。
 
この大声女子2人とパチパチさんは手強い、集中力でなんとか乗り切るしかない。
 
「帰ってください」
 
なんて言えない、カフェにとっては、私もパチパチさんも、
大声女子2人も大切なお客さまだから……。
 
この状況でも集中して文章が書く事ができれば、騒がしい場所ならどこでもいけそうだ
試練だ、トレーニングだと思えばいい。
 
ストレスだと思うからいけないんだ、ストレスと共存して書くと決意した。
 
私の決意と同時に大声女子2人がいない、いつのまにか帰っていた……。
となると、残るは、パチパチさんのみ、ストレスレベルが下がった。
 
パチパチさんも帰宅しないかな、そんな期待をしてみたが、みるからに長居しそうな雰囲気だ。
 
さあ、どんどんきたまえ、パチパチパチパチ……ドーン!
 
よし、ストレスの中で集中するトレーニングスタートだ。
 
すると、さっきよりも、パチパチさんのタイピングの勢いがなくなり止まりはじめている、
「オーイ、さっきまでの高速パチパチはどうした!」
 
そんな中途半端パチパチだと自分が集中できてしまうぞ。
どうしたもっとストレスを与えてくれ! どんどんパチパチスピードが落ちていった。
 
もう帰宅間近か? それとも仕事おわっちゃったのかな〜、メール読んでるのかな、休憩中、
眠くて居眠りしてる、大丈夫かい、いつのまにかストレスの彼を心配をしている自分がいた。
 
いつのまにか、ネタにして書いているのだから帰られては困る、もっとハイパーなパチパチ音を披露していただきたい、さらにストレスのパチパチを応援している自分がいた。
 
真剣に、パチパチパチ……ドーンぷるぷるぷる
を感じて怒りを抑えきれない自分がなんだか可笑しくなってきた、
 
またパチパチさんのパチパチパチドーンぷるぷるぷるが復活してくると「プスッ」と笑いそうになってしまった、真面目に仕事やってるし失礼だから我慢、我慢。
 
私はノートと手帳とスマホを重ねて左側に置いていた、
それを動かそうとスマホを持ったら、ちょっと気が緩んで滑ってテーブルにドーンと落してしまった。
 
パチパチさんは驚き、無言でこちらを睨んだのだった。
 
ドーンのお返しをするつもりは全くなかったのに、ドーンと落していまい、
「すいませ〜ん」
ペコリと御辞儀をした、ドーンはお互い様だけど……。
 
やり返したわけじゃない。
 
結局、カフェでの私とパチパチさんとのトレーニング共存時間は1時間半ほど、
12時頃に同時に帰ることになった、お疲れ様でした。適度なストレスありがとう。
 
もしかしたら、
パチパチパチパチ……ドーン! は自分でもやっているかもしれないと
振り返るきっかけもくれてありがとう。
 
ストレスで怒りを感じるか、
ストレスを楽しむのかどちらも選択できることに気付かせてくれてありがとう。
 
パチパチさんは色々なことを教えてくれた私の先生になっていた。
 
パチパチ先生、ありがとう。
 
***

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2017-10-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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