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反抗期とは、ウイルス性の病気ではないか?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:バタバタ子(ライティング・ゼミ特講)
 

 

「さっき、ちゃんと襟の位置、確認した?」
「ちゃんと見たよー」
「ほら、帯の重なるところ、ずれてる」
「わかってるってば」
イライラする。
ダメ出しをしてくる母に、ではない。
母からのせっかくのアドバイスを素直に聞けない自分に、イライラする。
 
そもそも、着付けを教えてほしいと言い出したのも、自分なのに。
わざわざ教えてくれている母に対して、感謝こそすれ、イラつくなんて、理性的に考えると筋が通らない。
この着付けレッスンに関してだけでも、母には感謝しても、し足りない。
たとえば、祖父母の介護でいそがしい合間をぬって時間をつくってくれた。
それに、母自身は、着付けを習得するのに、お金と時間をかけて、何年も着付け教室に通っていた。そのスキルを、私にタダ同然で教えてくれている。
そのうえ、着物一式も無料で貸してくれる。
マンツーマンで教えながら、きめ細かく的確なアドバイスをしてくれる。
善良な娘なら、これほどまでに良くしてくれる母へは、平身低頭し、足を向けては寝られないだろう。
それなのに、なぜか私は母からの私的を素直に受け入れられない。
どうしたって、イライラしてしまう。
 
「あなた、素直ね」
と言われて育ってきた私である。
自分でも、たとえば社会全体を30人のクラスだとすると、その上位5人には入る程度に従順な人間だと自負している。
これまでの人生を振り返っても、上司や先輩、学校の先生から言われたことには、従順すぎるほど素直に従ってきた。
ところが逆に、後輩や同級生から欠点を指摘されるときは、それが正論であればあるほど、カチンと来て反論してしまう。
明確な上下関係のもとで、目上の人間から言われたことには、心から素直に従う。
そんな、クズな優等生スタイルが染みついた人間が、私である。
 
クズな優等生である私は、上司や先生からの指示には従順なのに、親からのアドバイスにはイライラして反抗する。
きっと、親を目上と思っていないからだろう。
もしも、うちの親が『巨人の星』の主人公の父親のようだったら、私は親にも素直で従順だったかもしれない。
しかし、実際には対等に近い関係になっている。サザエさんとフネさんの関係が近いだろうか。
 
親を目上と思わなくなったのは、いつからだろう。
小さいうち、きっと小学生くらいまでは、親を含む大人全体が、目上の人間だった。
おとな対こども。
その身分の差は、「人を殺してはいけません」というのと同じくらい、当然のことだった。
しかし、背が伸びて、親よりも難しい漢字が読めるようになるにつれて、私と親との間でも、「おとな対こども」の関係が崩れいった。
 
高校生くらいになると、親の言うことにも行動にも、いちいち腹が立つようになった。
ずっと子ども扱いされるのが嫌。
あれこれ指図されるのが嫌。
気持ちを分かってくれないのに、正論を言われるのが嫌。
親が関わる全てが嫌、嫌、嫌。
きっと、「反抗期」というやつだったのだろう。
 
高校を卒業し、県外の大学に進んだ。
親と顔を合わせなくなると、自然とイライラすることも減った。
たまに電話したり、帰省したときは、お互いになんとなく遠慮していたこともあり、ぶつかるような状況にはなかった。
実家に戻ってきてからも、なんとなく「親子」というより「よく知った大人同士」という関係性で、叱られたり、反抗したりということは、めっきりなくなっていた。
 
それが、「着付けを教えて」なんて言った日から、昔に逆もどりしてしまったのだ。
着付けの練習は月に4回。1回2時間。
その2時間の間だけ、高校生とその親のような関係に戻ってしまった。
それはまるで、息をひそめていた反抗期が、10年ぶりに復活したかのようだった。
 
反抗期は、なんだかヘルペスに似ている。
こどもの頃にかかった水ぼうそう。
このときに体に侵入したヘルペスウイルスは、あちこちに赤いポツポツやプックリとした水膨れを作る。かゆくて、かゆくて、かきむしってしまう。
病院に行って、薬をもらって落ち着いて。そのうち何事もなかったかのように忘れてしまう。
ところが、何十年も経ち、すっかり大人になったころ、水ぼうそうのヘルペスウイルスは突如として蘇る。
そして熱を出させたり、体をだるくしたり、痛くしたりと、暴れだすのだ。
 
反抗期も、本当はウイルス性の病気なのではないか。
一度かかったら、治まったと見せかけて出ていかず、何十年もひっそり息をひそめている。
そしてタイミングを見計らって、突然再発するのではないか。
そのせいで、もうすっかり「よく知った大人同士」だった私たち親子も、着付けレッスン中に突然「反抗期の高校生の娘とその母親」のような関係になってしまった。
 
ヘルペスが再発したら、早めの対処が重要だ。
もし放置して治療しなかったら、水膨れなどがなくなっても、ピリピリした痛みがずっと残ってしまうことがある。
反抗期の再発も同じで、早めに対処しないと、後遺症が残ってしまう。
これは本当の話なのだが、私が父に対して反抗期ウイルスのイライラをぶつけたときに、「そのうち自然に治るだろう」と放っておいたところ、全然治らず、今も痛みが続いてしまっている。
 
ヘルペスの再発を防ぎようがないように、反抗期の再発も防ぎようがない。
だから、再発したときに、いかに早く対処して、軽症で済ませるかが重要になる。
困ったことに、反抗期ウイルスには特効薬が存在しない。
せいぜい、イライラを顔に出さない、呼吸を整えて気持ちを落ち着けるなどの対症療法が関の山だ。
そうやって、ヒートアップさせずにやり過ごすしか、今の私には解決策が思い浮かばない。
 
忙しい中、破格の条件で私に着付けを教えてくれる母には、感謝してもしきれないほどの恩を感じている。
それなのに、母に対してどうしようもなくイライラしてしまう。
イライラする自分にさらにイライラするという悪循環。
でも、しょうがない。反抗期の再発は、自分では防げない。
ただ、母との関係をこじらせたくないから、言い返す前に一呼吸おいて、気持ちを落ち着けよう。
(これは、反抗期ウイルスのせい、ウイルスのせい……)
「なるほど、そっか。ありがとう。そうするね」
 
 
***

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2017-11-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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