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初恋は、自転車の補助輪のごとく


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:下川真由美(ライティング・ゼミ特講)

 
 
「先を越されたかな?」とA子に言われたのは、彼と一緒にコンサートに行く約束をした時のこと。
 
高校2年の時の文化の日のコンサート。初めてのデートである。原宿で買った白いスカートをはいて行った。緊張して、何を話したかはよく覚えていない。
 
同級生の彼とは、音楽の趣味が合った。私好みの音楽を編集して、CDに焼いてプレゼントしてくれたこともあった。
 
プレゼントのCDには、レポート用紙を折って封筒の形にした手紙が添えられていた。鉛筆描きのイラストが添えられていることもあった。
 
音楽や絵画の好み、ユーモアとネガティブな部分の両面を備えている彼は、私の感性に似ているものがあった。ソウルメイトっていうのかな……。「自分に似た分身」のような存在だった。
 
「手編みのプレゼントを贈りたい」なんて気持ちになったのは、彼が初めてだった。白い毛糸を買って、ベストを編むことにした。
 
背中など、編み目の数が変わらない部分は、淡々と編めて、意外と楽しい。大変なのは、襟や腕まわりなど、編み目の増減があるところ。慣れない手つきで、手編みのベストを完成させた。
 
バレンタインデーの前には、いろんなお店をまわって、チョコレートを探した。見た目もキュートなトリュフを選び、オシャレにラッピングした。
 
そして、バレンタインデー当日。
 
部活が終わる夕刻に、自転車置き場で待ち伏せした。用意したチョコレートと手編みのベストを手渡そうとしたところ……
 
「ごめん。受け取れない。実は俺、A子とつき合っているんだ」と言われた。
 
プレゼントは、受け取ってもらえなかった。家に帰り、部屋に閉じこもって泣いた。涙が止まらず、ひどい顔になった。
 
翌日は「お腹が痛い」と言って、学校を休んだ。朝ごはんのパンを口の中で咀嚼したものを吐き出し、「胃の調子が悪い」と、ウソをついた。
 
結局、年度末まで引きこもりで、不登校になった。3月の期末テストも受けなかった。
 
出席日数ギリギリだったけど、見込み点でなんとか進級できた。授業には全く出てなかったし、まともにテストを受けていたら、赤点だったに違いない。
 
美容院に行って髪をバッサリ切って、ひさしぶりに学校に行った。「髪、切ってるよ」とクラスメイトがささやいているのが聞こえた。
 
英語の先生はブロークンイングリッシュで、「I know your boy friend very much!」と、英語の授業のたびにA子を冷やかした。クラスのみんなは、ドッと笑うけど、私はそれを聞くたびに胃が痛む思いだった。
 
廊下ですれ違っても、A子とは目線を合わせなかった。挨拶も無視した。高校を卒業するまで、A子とは言葉をかわすことがなかった。
 
彼は関西の大学、私は東京の大学へ進学した。A子は地元・山口の大学に入った。共通の友人の話によると、A子は大学で知り合った新しい彼氏の家に入り浸っていて、ほとんど大学には行っていないという。
 
月5万円の仕送りと奨学金で生活していた苦学生の私は、平日の夜も土日もアルバイトしていた。
 
デートに誘われても、「バイトで忙しい」と断ってばかり。彼氏は他の女性と付き合うようになって、またまたフラれてしまった。
 
大学2年の秋に、バイト先で吐いた。頭痛がひどいので、検査入院したが、結局原因はわからなかった。「バイトは禁止」とドクターに言われ、大学も休学することになった。
 
山口に帰省し、療養生活を送った。さみしくて、いろんな人に手紙を書いた。関西の大学に入った彼からも、返事がきた。大学のロゴ入りのグッズと一緒に、手紙が届いた。
 
A子にも、手紙を書いた。「無視してごめんね」と。
 
「謝ることないよ」とA子から返事が届き、地元でA子と会うことになった。
 
A子は大学に入ってから、バイクに乗るようになった。大学で知り合った彼とは二人乗りしたり、ツーリングしたりして出かけたりしているらしい。
 
友人が話していた通り、A子は彼の家に入り浸っていて、ほとんど大学には行っていない様子だった。
 
「いつ妊娠しても、おかしくない状態」と話していた。
 
A子は高校時代、彼の気をひくためにいろんなことをしたという。でっかいチョコレートをプレゼントしたり、青いセーターを編んだり。
 
「それでもね、私も彼の心をつかむことはできなかった。つき合っている間、私もさみしかった。だから、謝ることないよ」と話していた。
 
そうか、A子も、さみしかったんだ……。
 
初恋は、自転車の補助輪のようなものなのかもしれない。誰でも最初は、補助輪をつけて自転車に乗る練習をする。早かれ遅かれ、補助輪はとれる。
 
いったん自転車に乗れるようになれば、自転車を買い替えても、乗ることができる。ママチャリでも、ロードバイクでも。
 
A子も私も、淡い十代の恋は終わった。私は高2のバレンタインで、A子は高校を卒業してから。自転車の補助輪がとれるように……
 
A子は自転車じゃなくて、バイクに乗るようになったんだな……。私に合った相手も、いつか見つかるといいな……。愛用のバイクに乗って、A子は笑顔で去っていった。
 
 
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2017-11-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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