メディアグランプリ

書くことはストリップである


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:REI(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

 

決して足を踏み入れる事のないと思っていた建物の中に私はいた。

11月のプレミアムフライデーの夜、人々はどことなく浮かれ、街は賑わっていた。

そんな中、私のいた場所はストリップ劇場。かつての温泉地の繁華街では珍しいものではなかった。しかし、今は全国的に減少の一途をたどっている。

私の住む街の劇場も例外ではなく、8年ほど前に惜しまれながらも閉館したと聞いた。

そんな劇場を貸切り、地元のミュージシャン達が集う音楽祭が開催されることを聞き、参加した。

 

チケットを買い求め、恐る恐る中に入るとステージとは別に、まるでランウェイのようにはりだした、手の届きそうなお立ち台がそこにはあった。

その形状からそこが単なる劇場ではない事を感じ取った。

会の主催者の挨拶の後、ミュージシャンの魂の唄声とギターが劇場に響いた、続けて、その仲間達の独特の世界観を持った音楽も目の前で繰り広げられた。

地元の人も、移住者も、旅行者も、海外の方も一緒になってそのステージを楽しんでいた。

夜遅くまで繰り広げられるステージではあったが、翌日の朝早くに用事があった私は、

早々に切り上げようと思っていた。この言葉を聞くまでは。

「22時過ぎに本物のストリップのダンサーが来るらしいよ。それまでは残らないと」

これまで足を踏み入れてはいけない禁断の場所だと思っていた場所に入っただけでも満足していたが、その話を聞いて観てみたいと思った。これまでストリップは男性だけの特権で、女性はなかなか目にする機会がないと思っていたからだ。

 

温泉地と音楽の祭典は盛り上がりを見せ、当初のスケジュールから約1時間押しで進行した。22時を過ぎ、妖艶な女性は現れたものの、噂に聞いていたダンサーではなく、唄とギターのステージパフォーマンスを行った後、そでに消えていった。

ストリップのダンサーの登場は単なる噂話だったのではないかと思っていたところ、笛の音色が聞こえ始め、太鼓の音が鳴り響き始めた。

「何かが始まる」そんな予感と共に、多くの人がステージの周りに詰めかけた。

その中には幼い子供達も多くいた。

演奏の中、ヒラリとしたレースの衣装にヴェールを身にまとった妖精のような女性がステージに舞い降りた。

まるで神聖なお祭りを祝うような舞に観客は釘づけとなった。

踊りながら、ステージの袖まで来たかと思うと、榊のような木の枝を少女達に差し出した。それを受け取った少女達はキラキラした目でその妖精を見つめていた。

その後、妖精は舞いながら、ヴェールを取り、レースの衣装を少しずつずらす様に脱いでいった。一糸まとわぬ姿となった妖精が目の前に現れた時に誰もが息をのんだ。

鍛え上げられた無駄のないしなやかな肉体美と妖艶さがそこにはあった。

仰け反って全身で感謝の気持ちを表現するような舞の際には、しなやかな中に腹筋と背筋が見て取れた。

ダンサーが衣装をまとっていないだけといった印象で事前に思い描いていたストリップの隠されたものといった世界感は一切そこにはなかった。

舞が終わると妖精はステージを降り、観客の間を歓喜の表情で去っていった。

見送る子供達の瞳はこれまで以上に輝きを増していた。

衣装に頼らない、全身で表現する最高峰の踊りがそこにあったのだ。

このステージを観て、ここが足を踏み入れてはいけない劇場だと思っていた自分を反省した。温泉地では人々が日々裸の付き合いをしている。裸が日常の街にあって、この劇場は日常でもあり、非日常でもある貴重な存在であったのだ。

だからこそ、親も幼い子供をこの場所に連れてきて、子供達も神聖なお祭りをみるかの様な目でステージを見守っていたのだ。

感銘を受けた私はステージを降りたダンサーの女性に握手を求め、この湯の街で踊ってくれた事に対してお礼を伝えた。ステージを降りた彼女は小柄で細く、色白で目のパッチリとした女性だった。白く細い指を握りながら、この小さな身体であれほどの躍動感のある演技を行った事に驚きを隠せなかった。

 

ストリップという芸術を目の当たりにした夜から、私自身の書くことへの気持ちもこれまでと少し変わった事に気づいた。

ダンサーが全ての装飾を外して、身体一つで舞っていたストリップと、書くことは同じだと感じた。どんなに手法や技法で飾ったとしても、書き手の内面にあるもの以上の文章は書けない。文章には書き手の内面が反映されるからだ。4か月間、書くことに毎週向き合うと同時に、他の人の文書を読み、うらやましく思う事が多々あった。

私には書けない感動のストーリー、感情の起伏、専門性のある仕事の知識など、その人の持つ世界感が文章の中に散りばめられていた。

そんな文章を目の当たりにし、無理やりにでもネタをかき集め、知識を増やし、書いてみた事もあった。

ただ、どんなに努力しても自分が経験していない事や自分の思考にない事は、たとえフィクションにしたとしてもリアリティーを欠いてしまう。

湯の街の妖精が一枚一枚衣装を取り除いていったように、全てを引き算し、等身大の自分をさらけ出した時に、その人にしか書けない最もシンプルでリアリティーのある文章が書けるのではないかと感じた。私にとって羨ましく感じる文章を書いていた人達は早い段階で衣装を脱ぎ去っていたのだ。

文章を書くことはまさにストリップである。装飾を取り除き、身一つになったときにこそ踊り子のように、人々を魅了することができるのだ。

今後も書くことを続けながら、自分の心に張り付いた余分な脂肪のような感情を取り除きつつ、内面を磨くことも続けていきたい。

等身大の自分の内面をいつ表現しても恥ずかしくないライター界のストリッパーでありたいと心に誓った。

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2017-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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