何かをやらない言い訳を考えることにホトホト疲れましたので
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:かわはらちえこ(ライティング・ゼミ平日コース)
部屋の片付けができない。
40年以上、その件で悩んできた。
20年近く前になると思うけれど、『片づけられない女たち(サリ・ソルデン著)』という本を読んで、発達障害で片付けができない人たちのことを知り、もしかして自分もそうなのではと疑って大学病院まで行った。結局、発達障害の診断はつかなかったけれど、それくらい悩んでいた。
その後、片付けブームがやってきて、断捨離とか、ときめきとか、ミニマリズムとか、片付けの新しいメソッドを目にするたびに気になり、本を買ったり検索したり、専門家に実際に片付けを手伝ってもらったりした。
それで実際、ちょっと片付いたこともあったけれど、結局は元に戻ってしまう。リバウンドしないためのコツは大抵のメソッドにあらかじめ含まれているにもかかわらず、である。
そんなことを繰り返すうちに、いつか自分の中で諦めモードが出来上がり、「まあ、シンクに汚れたお皿が山積みとか、虫が湧くとか、ゴミ袋が床に放置されているとかのレベルまで落ちなければいいか」と思うようになっていた。
しかし、数日前に心理学のワークショップで「セルフ・ハンディキャッピング」という用語を学んで、諦めモードに喝が入った。
セルフ・ハンディキャッピングとは、ものすごくザックリ言うと、何か課題があるときに、その課題を遂行するのを邪魔するような障害を、自ら作り出す行為だそうだ。
試験前にわざわざ普段はやらない机の整理をしたくなるのも、テストの結果が悪かったときに「実力がなかったんじゃなくて、掃除をしちゃったからだよ」と思えるよう、無意識に心の準備をしているらしい。
それを知ってから改めて自分を観察すると、確かに私は何かをやらなきゃと思ったときに、やり方ではなく、真っ先に「やらない言い訳」を考えている。つまり自分で障害を作り出しているのだ。
衝撃だった。
たとえばライティングゼミの課題をやらなくてはと思ったときに、私は「何を書こうか」と考える前に「今日はこの仕事があるから書く時間がない」のように、「できない理由」を思いつくのだ。
なんてことだ。
これじゃあ、何も成し遂げられるわけがない。
私がいまだに仕事も家事もちゃんとできないのはそういうわけだったのか。邪魔していたのは自分自身だったのだ。
だけど「セルフ・ハンディキャッピング」なんて理論があるくらいだから、それは何も私に限らず、誰もが多かれ少なかれ持っている傾向なのだろう。
傾向ならば、対策を立てられるはずだ。
まずは、言い訳をしてしまう場面を想定しよう。たとえば、ライティングゼミの課題の記事を書くとする。すぐにとりかからない、言い訳は?
今日は出かけるので、時間がない。
まずは、お茶を飲んでから。
よいネタが思いつかない。
こんな失敗談を書くのは恥ずかしい。
なんとまあ、意味の分からない言い訳がどんどん出てくるものだ。(しかもこの言い訳たち、わざわざ意識に上らせなければ、言語化されないで流れていったはずだ)
そんなに必死に言い訳をひねり出してまで書かずにいることのメリットは、一体なんなのだろう? と自分に問うてみる。すると出てきた答えは……
傷つかないこと。
だってさ、評価が低かったら、恥ずかしいし。書くのが仕事なのにみっともないよ。書かなければ、評価しようがないから、傷つかないでしょ??
えええええ!
評価をもらってライティング力を高めるためにお金を払って受講しているはずなのに、書かなければ意味ないじゃん!!
いつのまに、こんな意味のわからない自動ブレーキをかけていたんだろう。
ライティング講座だけじゃない。きっと一事が万事、日常のいたるところで、私はこうして言い訳をしては、傷つく(と思い込んでいる)ことから逃げているのだ。
うう、おそるべし、セルフ・ハンディキャッピング。言い訳グセ。
片付けができないのも、きっとこのシステムが発動しているからに違いない。
言い訳を意識化し、やらないことで得ている心理的なメリットを見つける=何から逃げているかを直視する。
そこまではできたとして、それからどうすればいいのだろう。どうしたらやめられるのだろう? 逃げることを。
……
いや、そこには、近道なんてない。効果的な方法があるのだったら、とっくに世の中に広まっているだろう。ただ、逃げるのをやめる。それしかない。
何度も何度もぶつかって、へこんだり、傷ついたりするしかないのだろう。
へこむことも傷つくことも、なんとも思わなくなるまで。
机の上を片付けよう!
そう思ったとたん、言い訳が自動的に頭に浮かぶ。
明日のほうが時間があるから、明日にしようっと。
机の上にあるものをいったん置く場所が必要だ。スペースがないから、今度。
片付けても、どうせ3日ももたないよ、無駄無駄。やめときましょう。
うわあ、なんなのだろう、この不毛な言い訳力。さすが長年積み重ねてきただけのことはある。
いや、感心している場合ではない。
人生はそんなに長くない。片付けられない女のまま終わりたくない。
「片付けができない」キャラでいることで、私は何から逃げているのか。どんなメリットがあるのか。
探求は、今日も続く。
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