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メディアグランプリ

あっぱれな店主のエンターテインメントなそば屋


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:荒野万純(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
昨年末、つくば在住の知り合いが鴨南蛮が美味しいそば屋に連れて行くと約束をしてくれた。
彼女は「鴨が絶品で、そばと言ってもそばではない」という。しかも、食べている間は自由に話ができないのだ、とちょっと気になることを言う。
 
そば屋に興味深々のまま年が明けて、正月気分も抜けたつい先日、念願のそば屋探訪が実現した。
東京から私も含め3人がそば屋を目指しつくばに向かう。つくばエキスプレスを降りると、ピンと張った冷たい空気の中、雲ひとつない青空に筑波山の勇姿がとても美しい。
つくば駅から車で約30分ほど、車一台がようやく通るくねくねとした細い坂道の脇にその店はあった。
 
日本家屋の引き戸を開けると、奥から「いらっしゃいませ!」の威勢の良い声。中に入ると炭が入った大きな囲炉裏のある土間になっている。その先の上がり框を上がった広い座敷の4人がけの卓に落ちつく。
キョロキョロしていると、注文を取りに70代と思われると店主がやってきた。ほどよく禿げ上がった頭に白い作務衣の細い体、よく見るとスヌーピーの靴下を履いているのがご愛敬。
お品書きの中の人気一番と書かれた冷たいそばの鴨汁を4人前注文した。
 
そうこうしていると、食前なのだが、お抹茶とお菓子が運ばれてきた。これがくると、鴨汁の出番が近いらしい。お抹茶を飲み干したぐらいに、鴨汁が来た。
「鴨ちゃんきましたよー」と店主が上機嫌に歌いながら登場だ。お盆には火の入った一人用の鋳物のコンロと小さな丸い鉄板、そばが盛ってある平皿、胡麻豆腐の小鉢、薬味、そばつゆの器が乗っている。
 
店主は金属の菜箸を手に向かい側の2人の狭いすき間に割り込むように座を定めると、あっけに取られている私たちを尻目に次々と指示を出し始めた。
「3枚を野菜の上。2枚を焼く」と言って、鴨を焼きながら「そばを食べて。何もつけずに。たくさん口の中に入れて30回噛む!」と。
平皿に盛られたそばを見れば、うどんのような太さ! 見たことのないそばだ。
確かに、これは30回噛まないとダメかもと思う。有無を言わさずそばを頬張って噛むと、コシの強いそばからそばそのものの香りが鼻に伝わってくる。
 
「はい、次! そばにわさびを塗って食べる! そばつゆにつけちゃダメ!」
「ははあー」と言いたくなるような絶対的な命令に近い指示、けれど威圧的ではない。
「今度はそばつゆにつけて!」
「次は細切りの大根を入れてそばと一緒に!」
「そして、薬味をそばつゆに全部入れてそばを食べる!」
「ねー? 全然ちがう味がするでしょ?」と店主。
確かにこの順番で食べると、そばの味が七変化するのだ。
 
続けてそばを食べようとすると、「はい、もうそば食べないで。そこでやめて!」
「へ?」と思っていると、ここからは鴨タイムの始まりだ。
「お腹空いてるからそば食べたいでしょ? でも食べさせないからね。ふふ、そば食べさせないことに優越感を感じるんだあ」などと店主は楽しそうに言いながら、表面が焼けてほどよくレアの鴨を4人のそばつゆの中に次々と放り込んでいく。
「よーく、そばつゆに付けてつけて食べてねー」
言われたようにそばつゆにじっくりつけてから口に入れると、これまたなんとも言えず美味。やわらかくて臭みが全くなく、鴨の旨味が口中に広がる。
 
店主は鉄板の上で、2枚の鴨でネギを巻くと「ほら鴨ネギだー」と言いながら、菜箸でそばつゆの中へ。すかさず「はい、箸で抑えて!」と指示を飛ばす。そこからすぐに食べられるかと思うと待ったがかかる。
「すぐに食べたらダメ! 美味しい鴨汁作ってるんだから」
そばつゆの中につけた鴨を箸で抑えながらみんなで「美味しい鴨汁になるように」の歌を店主と一緒に歌わなければならない。
この段階になると、笑いを抑えられなくなって、みんな吹きそうになりながら鴨を頬張る。店主はいたって真剣で「何がおかしいの?」聞いてくる。
 
鉄板の上の鴨にピーマンを巻けば、「鴨ピーできた。鴨ピーつゆの中で抑えて!」と言われて、また抑えながら「美味しい鴨汁」の歌を歌う。こうして、5枚の鴨と野菜を食べ終わった時に、そばつゆは鴨汁へと変貌を遂げるのだ。
ようやくそば解禁かと思うと、店主は平皿のそばを一掴み、鴨を焼いた鉄板の上に乗せ、そばつゆをかける。その名の通り「焼きそば」を作ってくれる。最後に「ぱっぱぱのぱあ」と言って七味をかけて、「どうぞごゆっくり」と言いながら去って行った。
 
あまりにおかしすぎる。笑わずには食べられない。
しかして、歌いながら鴨の旨味を出した鴨汁は絶品だった。そして、「焼きそば」も鴨の脂が絡まって、つくば名産の七味がアクセントになってこれまた素晴らしく美味しかった。
 
これで終わりかと思ったら、最後にそば湯を持って店主が再登場。
このそば湯が見たこともないような濃さなのだ。まるで山芋をすったような感じ。ここでも店主のご指南が。「そば湯入れたら、色が変わるまでよーくかき混ぜる」このそば湯も今まで飲んだことのないような濃厚な味わいだった。
 
私達が東京からわざわざ来たと伝えると、店主はご機嫌で最後に「Have
a good day ! 」と言って送り出してくれた。
店主の命令は絶対で、好き勝手には食べられないけれど、鴨汁の様々な味わいを体験させてくれようとする店主のこだわり、そして自分が提供するものへの自信と愛情を感じた。何よりも店主のエンターテイメントがさらに鴨汁体験を盛り上げてくれる。
 
お店を出た後、筑波山神社で引いたおみくじは大吉だった。
あっぱれな店主の美味しい鴨汁と大吉で今年は大いに期待できる年に違いない。

 
 
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2018-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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