メディアグランプリ

お守りミシン


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:テラダサオリ(ライティング・ゼミ日曜コース)

「かあさんが 夜なべをして 手袋あんでくれた」
という、有名な童謡の歌詞の一節がある。
今日はことさら身体の芯まで冷え込む冬の夜だが、まさか自分が、この“かあさん”側の気持ちに深く共感する日が来るなんて。 いつの間にかそんな歳になったのかなあ、なんてことを考えながら、時折、ヤカンが乗った石油ストーブでキンキンに冷えた手を温める。
ちょうど一年前の冬のこと。 私は人生で初めて、ミシンを購入した。
もうすぐ生まれてくる我が子に手作りした小物や洋服を着せてみたいという、子どもからしてみればはた迷惑な話かもしれないが、初めて芽生えた、淡い親心からだった。
それでもミシンを買うまで、半年ほどのあいだ、二の足を踏んでいた。
決して安い買い物ではなかったし、何しろ、まともな裁縫なんて小学生のときに家庭科の授業でエプロンを縫ったくらいで記憶が止まっている。 かすかな記憶から、細々した作業が面倒なイメージで、なんだかとても高いハードルのような気がしていた。
私自身、これまで裁縫とは縁遠い人生を送ってきていたが、ふと思い返すと、父方の祖母は縫製業を営んでいた。 実家の敷地内にある母屋とは別棟の工場(こうば)で、祖母は、カメラケースやバッグを中心に作っていた。 その当時は、初心者を含めた全国民にフィルムカメラが浸透してきていた時期だった。
両親が共働きだったため、小さいころはその工場が私の遊び場だった。
今でも工場の引き戸を開ける音をはっきりと思い出すことができる。 工場に入ると、重くて大きな木製の机がついた鉄製の工業用ミシンが数台並ぶ。 とてもレトロで趣のある風貌をしているのだが、当時の私にとっては遊び道具のひとつでしかなかった。 ミシンの下に潜り込んで遊んでいたときに机の角で頭をぶつけ、前頭部の髪をかき分けると、そのときにできた直径1cmほどのハゲが、大人になった今でもしっかりと残っている。
夫を早くに亡くした祖母が生活のために始めた縫製業だったが、そんな祖母は私にとってヒーローのような存在だった。 気がいがある女性だったし、もちろん、仕事である裁縫は上手い。 シャツだってスカートだってワンピースだって、何でも魔法のようにパパっと縫ってしまうのだ。
忘れていただけで、ミシンは昔から身近なものだった。 ミシンの音を聞くと、そんな祖母との日々を思い出し、懐かしく、どこかで祖母が見守っていてくれているような気持ちになる。
初めはミシンの説明書を片手に、基本中の基本である下糸・上糸のかけ方からたどたどしく、玉結びってどうやるんだっけ? まつり縫い? そんなレベルからのスタートだった。
しかし、簡単な巾着やよだれかけを1枚、2枚と仕上げていくうちに、目に見える達成感が快感で、夢中になっていった。 一度のめり込むと早く次の工程を進めたくて、夕ごはんの支度を始める時間にまで食い込んでしまうこともしばしばあった。
私が作っていたポーチもバッグもよだれかけも、お店に並んでいるものはさすが、おしゃれで、機能的で、作りが繊細で美しい。 それに比べ、ほんの数ヶ月前に始めた初心者である私の作るものは、縫い目が曲がってしまったりほつれてきてしまい縫い直したり、どこか不格好。 想像以上に時間もかかる。
しかし、「自分で作ること」の良さは、布選びからはじまり一から自分好みにカスタマイズできることと、何より、時間をかけて作ったものにはとても愛着が湧く。
世界でひとつしかない一点モノ。
私にとって、ミシンはお守りのようなものだ。 正確には、ミシンや針と糸を使って紡ぎだされたものにはお守りのような作用がある、と思っている。
そもそもお守りとは、人の願いをかたどったもの。
息子のよだれかけを作るときは
「すくすく元気に育ってほしい」
保育園の通園バッグを作るときは
「保育園を楽しんで、通園できますように」
夫の仕事道具である電卓のケースを縫っているときは
「目前に迫っている資格試験もしっかり、ね!」
父や弟のお弁当袋を作るときは
「親子や兄弟喧嘩する日もあるけど……お昼の休憩のときくらいはふっと気を緩めて、午後もお仕事頑張って」
意識的であれ無意識であれ、それぞれ、そんな思いを込めながら作っている。
もちろん、忙しいときやお気に入りのものを見つけたときは、既製品に頼れば良い。 自分で裁縫をはじめてからというもの、作家さんの手仕事の品によりいっそう心惹かれるようになったし、その作りや細部にまで目が向くようになった。 その一方で、こんな繊細で素敵なもの、今の自分には到底真似できない、と感じることもある。 そういう素敵なものに対しては、しっかり対価を支払いたいと思っている。
それでも、ときどき私は、祖母の面影を感じながらミシンを踏む。
たまには願いをこめて愛情をこめて、自分のために家族のために誰かのために、何かを手作りしてみる冬の夜も、悪くないかもしれない。
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2018-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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