犯人がわかっちゃっても、また小説をよみたくなった理由
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記事:山内英治:(ライティング・ゼミ平日コース)
京極夏彦が大好きだった。
新書サイズなのにものすごくぶ厚くて、ハードカバーじゃない本は、当時の書店の棚の中では結構インパクトがあったような気がする。しかも、1ページが2段にわかれてギッシリと書いてある。ものすごい文字数なのだ。それなのにザクザク読めておもしろかった。2作目が出た頃からすっかりハマってしまい発刊されるたびにすぐに本屋に行った。
しかし、事件が起きた。
おそらく7作目ぐらいだったと思う。いつものようにすぐに買って読み始めた。ところが、1/3ぐらい読んだところで、なんと犯人がわかってしまったのである。トリックがみえ、ストーリー構造がみえた。このぶ厚い本を、しかもミステリーで、犯人がわかった状態で残りの2/3を読むのは、ただひたすら苦痛だった。結局、最後のオチまで全部正解してしまっていた。そして、それ以来、小説を読むのをやめてしまった。
いままでずっと読まなかった理由は、コレだけではないとは思う。
ちょうどこの頃から、ネットのコンテンツがすごい勢いで増えはじめ、ネットで過ごす時間がどんどん長くなっていた。それとともに、一つの何かに向き合って耐えられる時間がどんどん短くなっていった。小説はまわりくどい。ストーリーを楽しんだり、作者の言いたいことに共感したりするには、長い時間をかけて作品を読まなければならない。
ところが、世の中の小説には、言いたいことがなかったりするモノもある。あるいは、低レベルすぎてそんなの聞きたくないよというものもある。でも事前にその中身を教えてくれるヒトはいなくて、自分で作品を読むしかない。そんなにヒマじゃないですぼくは、と意識高い系になって自然とビジネス書を読むようになっていった。言いたいことは、短く、ハッキリと、できれば1行にまとめて簡潔に伝えてほしい、それがエラいのではないか。
仕事の現場ではそれはたしかに正解だ。その言いたいことに読み手はすでに価値を感じており、あるいは、伝えたいことがはっきりしている。仕事でなくても、普段から大量の情報にうもれているし、ネットでちょっと検索すれば、長い長い説明がいっぱいいっぱい出てくる。だから、短くひとことでまとめることのほうに、高い付加価値があるはずだ。正しい。ただしそれは、言いたいことをすでに知っていて、もっと知りたいと思っている場合だ。
だれだって新たな出会いがほしい。それは彼女と出会いたいとかそういうことだけではなくて、新しい知識とか、新しい言葉とか、新しい考え方とか、体験したことのない感情、思い、そういうものを知りたい。だけどおそらく、まったく知らないものを、1行でまとめられても、まったく理解できなくて素通りしてしまう。だから、ストーリーが必要になる。まったく知らなくても、気がついて、理解して、共感できるようになるには、時間をかけて付き合ってもらわねばならない。興味のないヒトが引き込まれるのだとすれば、それは多くのヒトに何かを伝える手段になるはずだ。多くのヒトが知らないけれど、知ると幸せになるから、伝えることで世の中がよくなる。その表現手段が、小説だとしたら……
小説には、横展開というか、ビジネス的に広がっていく手段がいっぱいある。ドラマ化されたり、アニメ化されたり、映画化されたりして、もっと多くのヒトに広がっていく可能性がある。書き手の立場、発信する側にたって考えると、急に世界が広がり、必要性がみえてきた。書店の半分が小説で満たされている意味が、急激に理解できた。自分が書き手だと意識したとたん、世界が変わって見えた。
歴史的には、ストレートに表現できないときの発信手段として、小説を使うことはよくあったようだ。表現の自由がそれほどない時代や地域で、あえてストーリーでくるんで、逮捕されても言いわけできるような状態で世の中に広めるのである。もっとさかのぼれば、聖書や仏典なども、ほとんど「たとえ話し」でできているといっても言い過ぎではない。ストレートに言ってもわからないから、ストーリーでくるんで伝えたのだとすれば、それは本質的には小説だったのだ。
そして、15年ぶりに小説のコーナーの前に立っていた。手に取ったのはドストエフスキー。長い、正直つまらない、あきてきてさらに時間がかかる。ストーリーとしてはわかるが、何が言いたかったのか。おそらくは言いたいことがスゴくて、あるいは、その表現のしかたがスゴイから、古典として残りつつあるのだろう。
小説を理解して、多くのヒトを幸せにしたい。
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