メディアグランプリ

禁止看板は麻薬


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記事:廣井徹(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
❌❌禁止という看板が気になってしょうがない。駐車禁止、駐輪禁止、進入禁止、禁煙、ペット禁止、落書き禁止、18歳未満禁止、幼児同伴禁止などなど。世の中には禁止看板があふれている。一つ禁止看板を設置するとその隣の場所が「禁止されてないのだな……」とその看板で禁止されている行為が隣の場所に伝染する。そうすると伝染した隣の場所にも禁止看板を設置することになる。禁止看板は次の禁止看板を産むのだ。禁止看板のスパイラルが止まらなくなる。さらに悪いことに前の看板より一層禁止事項を目立たせたり、より大きな看板を設置したりする。手を出すとだんだん量が増えていき、より刺激の強いものを求めていく……。麻薬とよく似ている。
私の勤め先である大学には、隣接する公園がある。ここにも禁止看板がたくさんある。最も目立つのは駐輪場以外の場所に止めてある自転車に対する駐輪禁止の看板だ。公園には駐輪場がしっかり設置されているのだが、図書館やカフェテリア、コンビニに近い駐輪場ではない場所に自転車を止めてしまう人が少なくない。違法ではないが、迷惑だ。なにより美しくない。管理事務所が駐輪禁止の看板の設置を設置することになるのだが、この看板設置が止まらない。最初は迷惑駐輪が常態化している一箇所に設置した。するとそこに近い場所で禁止看板のない場所に迷惑駐輪が移動する。さらにその場所にも駐輪禁止の看板を設置する。また迷惑駐輪の場所がまた少し移動する。迷惑駐輪をする人の言い分はおそらくこうだ。「看板があるところには駐輪していない。ここは看板のある場所からすこし離れているから駐輪しても良いだろう」「禁止看板を置いてない公園側が悪い、駐輪して欲しくなければ書いとかんかい!」ということだろう。かくして公園は開設からまだ3年にもならないが、看板だらけになっている。ざっと見渡したところ、「バイク進入禁止」「自転車乗り入れ禁止」「花火禁止」「ペットの放し飼い禁止」、「スケートボード禁止」「自転車は乗らずに押して歩いてください」なんていうのもある。もうこの公園でなにをやっていいかを書いておいたほうが早いのではないかと思うほどだ。看板が次の看板を呼び、その看板がまた新たな禁止行為を産み、また新たな禁止看板を呼ぶ。タチの悪いことにどんどんサイズも大きく、より厳しいトーンの禁止メッセージの看板が設置される。麻薬のように止められず、より刺激の強いものへとなっていく。
公園が出来たころは、市内でも指折りの美しい公園だった。防災公園としての機能を備えているので、非常時の使い方を示す看板があるぐらいで、禁止看板はほぼなかった。どうすればこの公園から禁止看板をなくし、開設当初の美しい姿とり戻すことができるのだろうか?
インドネシアで、スラム街がリノベーションして観光地に生まれ変わった話がある。いろいろ込み入ったストーリーは忘れたが、スラム街の住民が街をレインボーカラーのペイントで生まれ変わらせ、街に人を呼べるようにした。地方州政府が出した予算は250万円のペンキ代だけ、スラム街が生まれ変わり、街が美しくなれば人が呼べる。人が呼べれば街の人々も潤う税収も増える。といった話だったと記憶している。
この話のキモは、住民たちが主体的に「自分たちの街をなんとかしよう」と立ち上がったところだ。当局に任せるのではなく、住民たちがまちづくりの当事者となったところだ。
こちらの公園の話は、市当局は禁止看板を掲示することで公園を「市の持ち物」にしてしまった。これがマズかった。使用者と所有者という関係性、管理者と消費者と言い換えてもいい。公衆便所が汚いのと同じ理屈だ。自分の家のトイレじゃないから、汚しても拭かない。汚れていても知らん顔する」。美しい公園を取り戻すには、公園の3年前の開設当初のように、ここで今一度「みんなの持ち物」「みんなの公園」という意識を地域の住民に取り戻してもらうことだ。迷惑駐輪がなく、ゴミも落ちていない美しい公園が自分たちの利益にもつながる。このことを公園に来る生徒、児童、学生、親子連れなどあらゆる公園利用者が、利用者であると同時に自分たちの公園を作る当事者の一員であることを意識できるキッカケが必要だ。
毎年2回春と秋に、私が勤める大学で、隣接するこの公園と大学が一体になって開催するイベントがある。8千人から1万人の市民が集まる市内では比較的大きな取り組みだ。この取り組みの中で住民のすべてを公園運営の当事者とすることは難しいかもしれない。公園のハードづくり、ソフトづくりを通じて、公園に少しでも関わってもらって、「公園があってよかった」「公園を大事にしよう」という思えるキッカケ作りができないか。公園をつくる「当事者」を一人でも増やす企画を考えてみたい。公園を自分のものと考える人が増えれば、駐輪をはじめとしたマナーも守られ、看板のない美しい公園を取り戻すことができるだろう。
ストップ! 禁止看板。スラム街を蘇らせるよりも、麻薬から抜け出すよりも、公園の禁止看板をなくすほうがたぶんきっと楽だ。なんとかなる。
 
 
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2018-02-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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