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『ONE PIECE』の船で恋が生まれた話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:福田桃子(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
私は『ONE PIECE』の船に乗っていたことがある。
 
と言うと、「嘘つくなwww」とか「ワンピースに貧乳はいねえ」とか、ひと通り頭のおかしいやつ扱いをされるのだが、2004年の夏、私はマジで『ONE PIECE』の船に乗っていたのだ。アルバイトで。
 
当時、フジテレビが夏休み期間に開催していた「お台場冒険」というイベントで、『ONE PIECE』の主要キャラクターが乗る海賊船「ゴーイングメリー号」を再現し、東京湾をクルーズするというアトラクションがあった。
 
「ゴーイングメリー号」風に改造した遊覧船に客を乗せ、芝浦〜お台場間をクルーズするというイベントだったのだが、これがなかなかに気合いの入ったもので、原作の設定どおりに船の外観がちゃんと再現されており、船内には等身大キャラクターがいて、クルーズ中にも原作にちなんだイベントが発生するなどもあり、夏休み期間中は連日ファンや親子連れで賑わっていた。
 
今思うと大変気合い(と金)の入ったイベントだったと思う。
 
当時は今ほどコスプレ文化が市民権を得ていなかったが、全国から原作ファンが集る「ゴーイングメリー号」には、全身バキバキにキメたコスプレイヤー軍団がちょくちょく乗船していた。
 
私は公共の場でアニメキャラなどのコスプレをしている人を見たのがその時初めてだったので、ずんぐりむっくり体型のナミを見て「すげえ世界があるんだな」と思ったことを覚えている。
 
そんな「ゴーイングメリー号」の船内で、当時学生だった私は飲食販売のスタッフをしており、ビアサーバをかついでデッキの客にビールを売り回ったり、「サンジのメロメロメロンソーダ」(という名のただのメロンソーダ)なるものを提供しては補充したり、提供しては補充したりしながら、毎日朝から晩まで忙しく働いた。
 
仕事はとにかく体力勝負で、暑いし、連日満員でレジも補充も掃除も休む間がなく、毎日本当にクタクタになるほど激務だった。
 
ちなみに、一日中船に乗っていると、陸地に上がって目をつぶったとき平均感覚がバグってグワングワンする。
 
体力的にはかなりハードだったが、夏休みのお台場という最高に浮かれた場所で、しかもあの「ゴーイングメリー号」に乗って、エンタメを提供する側の一部として働くという経験はかなり刺激的で楽しかった。
 
そんな環境で、スタッフは私を含めほとんどがお気楽な学生だ。すぐにみんな仲良くなる。一日中一緒に働き、仕事が終わったらみんなで食事行ったり遊びに行ったりし、翌日もまた一緒に働く……という日々を共有していると、びっくりするくらい急速に親しくなるのだ。まさに青春の日々。
 
そうすると、やっぱりめちゃめちゃ恋が生まれる。
 
誰と誰が付き合うことになったらしい、とか、誰と誰が一緒に帰って朝一緒に来てた……とか、そういったlove affairがひと夏に何件も勃発するのである。
 
本家『ONE PIECE』には恋愛描写は一切ないのだが、リアル「ゴーイングメリー号」ではみんなズブズブに恋愛していた。ラブワゴンかよ、ってくらいみんな恋していた。
 
この違いは何なのか(次元が違うとかそういうのは抜きにして)。
 
ひとつは、リアル「ゴーイングメリー号」のクルーは、夏休みでみんなバカになっていたこと。学生+夏休み=バカ。そりゃ浮かれるし、開放的になる。
 
ふたつめは、リアル「ゴーイングメリー号」のクルーは毎日船から降りられたこと。ルフィたちみたいに、24時間船で一緒に過ごしていると、さすがに家族のようになってしまいそうだが、リアルでは夜のクルーズ終了後船から降り、各々普通に家に帰って寝る。ほどよい(というか一般的な)距離感は保たれる。
 
最後、たぶんこれが決定差だと思うのだが、リアル「ゴーイングメリー号」は期間限定だったのだ。夏休み、たかだか2ヶ月程度のイベント開催期間。期間中はほぼ毎日顔を合わせたとしても、イベントが終了すれば解散である。となれば「別れても気まずくないやろ! いったれ」精神も働くだろう。
 
これが原作だと、いつ冒険が終わるかわからないので、そんな中で付き合っただの別れただのすれば死ぬほど気まずいことになる。そりゃ必然的にブレーキかかるわ。
 
そんなわけで、「期間限定なイベントでの共同作業」という状態は、非常に恋が生まれやすい環境なのだと思う。この天狼院ライティングゼミも、まさにそうだ。こんなこと言ったら、そんな目的で来てねえよバカと怒られそうだが、もしかしたらゼミ終了後にカップルが誕生しているかもしれない。別れても気まずくないし。
 
なお、これだけ言ったが私は「ゴーイングメリー号」で恋をしなかった。夏休みのお気楽バカ学生だったし、恋をしたいという気持ちもあったが、単純にビッグウェーブに乗り遅れたのである。仲良くなった人はいたが「この人いいなあ」なんてぽやぽや思っているうちに、イケイケな女とさっさとくっついていたのだ。
 
ちなみにその夏、恋をしなった私は8月だけで28万円稼いだ。日給1万円、休日3日である。恋はせずとも、バカな学生の体力とパワーはすごい。
 
 
***

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2018-02-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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