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意識の高い幽霊はYoutuberの夢を見るか


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記事:寺井麻衣 (ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
歳を重ねるほどに、年々新しいことを始めるのが億劫になってくる。それだけじゃない。固有名詞は出てこなくなるし、しゃべるスピードも10代の頃に比べると格段に落ちた。SNSへの投稿もしなくなり、自意識を満たそうという意欲すらなくなってくる。まだ30歳になったばかりだというのに、もうすでにかなりのポンコツに成り果てている。
 
このまま漫然と年を重ねて何かいいことがあるだろうか。40歳、50歳とポンコツ度が加速度的に増していくだけだろう。ならば、もういっそ死んでしまえば楽に……と思わなくもないが、もし死んだとして、本当にあの世は安らかなのだろうか。
 
まず、地獄には絶対に行きたくない。一番ライトな、虫などを殺生したことがある人が落ちる地獄でさえ、殺されたり生き返ったりを人間時間で1兆年以上繰り返さないといけないという。1兆年て、と思う。カーズ様も1万回くらい考えるのをやめるレベルである。
漫画『シグルイ』では、何度か死の境地に立った剣士2人が武士道の極地に達しているが、それどころの騒ぎじゃない。1兆年のお勤めを果たした亡者は一体どうなっているのだろう。生前はごく普通のサラリーマンやパートタイマーだった人々が、獄卒との戦いを経てゴリッゴリに強くなっていくストーリー展開はムネアツだが、当事者となることは断固拒否したい。
 
では、天国に行けるのだろうか。微妙だ。仮に行けたとして、天国は居心地のいいところなのだろうか。wikipediaによると、天国(極楽)は広々としていて、美しい建造物などがそこここに輝き、衣食に不自由することなく、暑からず寒からず、ただ楽のみがあるという。
……待って、逆に怖い。そんな快適なところにずっといたら、人間碌なものにならない。こっちはこっちで、カーズ様が5万回くらい考えるのをやめることになるだろう。
 
地獄も嫌だ、天国も嫌だというと、現世に留まるしかなくなるだろう。つまり幽霊になるということだ。それならば、今と環境があまり変わらないので安心だ。『シグルイ』の境地に達したり、人をダメにする世界で考えるのをやめなくてもいい。
となれば、早めに幽霊になるための心構えをしておきたいと思う。幽霊といえば、やはり人を怖がらせるというのが大義だろう。幽霊が人を怖がらせる話は、時に教訓話しとして、時に娯楽として古くから語り継がれている。私自身、少なからず怪談を嗜んでいるので、怖がらせかたのパターンは大体頭に入っている。
 
まず、最初に決めたいのが出没場所だ。トイレや薄暗いトンネル、廃墟などなるべく不気味なところがいい。しかし、幽霊とはいえど、考えることは似たり寄ったりだろう。いい感じに不気味で、そこそこ人通りもある場所には先住民がいるはずだ。井戸には貞子、殺人事件があった空き家には伽椰子といったように。きっとそこには、ホームレスの如き縄張り争いがあるだろうと考えられる。
 
もし縄張り制でなかったとしても、同じ場所に2人以上幽霊がいるのは気まずいはずだ。人が来るまでの間、少しは雑談することもあるだろう。そこで気が合えばいいが、そんなに話が弾まなかった場合、待ち時間は苦痛以外の何者でもない。非社交的な人間は、幽霊になった後も生き(?)辛いのだ。
 
待ち時間をやり過ごしたとして、脅かすテンションに切り替える瞬間も気まずい。年季の入った幽霊が近くにいようものなら、「へえ〜、そういう感じなんだ(笑)」みたいな感じで見られるのだろう。かと言って、スカした感じで人は怖がらせられない。薄暗いトンネルの壁に寄りかかって、両手はポケットに突っ込み、足はゆったりとクロスさせて佇んでいる幽霊を想像してみても全然怖くない。トンネルの出口から真っ逆さまに落ちてきたり、車を追いかけてリアウィンドウを手形まみれにさせてこその幽霊である。
なんだったら、それすら無視される恐れがあるのが現代社会だ。
 
歩きスマホをしている若者は、カーブミラーに事故死したバイカーの霊が映っていても全く気付かないだろう。もしかしたら、電柱の影から姿を現した口裂け女が「ワタシキレイ?」と尋ねても、カナル式イヤホンのせいでスルーしてしまうかもしれない。
口裂け女ですら無視されるこの世界で、凡庸な幽霊に何ができるのだろう。
 
そう考えると、今一番アツい幽霊の出没スポットは人気Youtuberの自宅なのかもしれない。なるべく登録数と動画再生回数の多いYoutuberを探し、動画を撮影している背後に映り込むのだ。しかし、あまりにもショッキングな姿で映り込むと、Youtuberが自重してお蔵入りにしてしまったり、アップされたとしても不適切な動画として削除されてしまったりするリスクがある。
 
ほどよく恐ろしげな姿でほどよい映り込み具合を————現代は幽霊になるにもリテラシーとセンスが求められるのだ。
 
 
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2018-02-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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