専業主婦として恥ずかしくないレベル、ってなんだろうか
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記事:櫻井由美子(ライティング・ゼミ平日コース)
6年ほど前、わたしは夫の転勤をきっかけに仕事を辞めて専業主婦になった。
その頃、仕事を続けている友人たちからよく質問をされた事柄がある。
「掃除機って毎日かけてるの?」
「夕飯って毎日おかず何品作ってるの?」
そう。専業主婦って毎日どれくらい家事をやってるの? どのくらい家事に時間をかけてるの? っていうか、毎日何やってるの? という質問だ。
聞かれるたびにわたしは、むしろわたしが知りたいよ、教えてくれよ、そう思っていた。
いったいどのくらい掃除機をかけていると言えば、夕飯のおかずを何品用意していると言えば専業主婦としてセーフなのか。専業主婦として恥ずかしくない家事レベルはいったいどこなのか。正解が知りたかった。
それがわからなかったわたしは、「掃除機、毎日はかけてないかな~」「おかずの品数? 日によってまちまちだな~」などと、曖昧な答えでのらりくらりと相手をはぐらかした。本当のことを言って自分のダメさ加減を露呈したくなくて、かといってウソもつきたくなくて、あわよくば実際の自分よりも少しでも良くやっているように見られたくて必死だった。そんな状態だから、会話なんて全然楽しめなかった。
不思議なことに、専業主婦になるまではみんながどれくらい家事をしているかなんてことは全然気にならなかった。それなのに専業主婦になった途端、「専業主婦なんだから家のことはきちんとやらなくてはいけない」ような気がした。正確に言うと、専業主婦なんだから家のことはきちんとやらなくてはいけない、と思われているような気がした。
誰から思われているのか? それはよく分からなかった。
夫? それもあるかもしれない。でも夫だけじゃない。家族から、友達から、知らないひとからも。もわっとした「みんな」みたいなものから、見張られているような感じがした。
いっそのことマニュアルがあれば楽なのに。そう思ったりもした。でもそんなものはどこにもなかった。「専業主婦 掃除機 頻度」「専業主婦 夕飯 何品」などと検索して、「専業主婦なんだから掃除機は毎日かけるのが当然です。わたしは毎日かけてます」「うちは基本的に1汁3菜で、肉・魚をだいたい交互に出してます」なんて美しい回答に打ちのめされては、今度はそうじゃない派の回答になぐさめてもらった。でもどれだけ検索しても、こうすれば正解なんてものはどこにも見つからなかった。
正解がわからないわたしは、結局、専業主婦なんだからやっぱり家事くらいちゃんとやらなくちゃダメなんだよね、と、達成すべき家事のハードルを上げた。その頃なかなか子どもを授からなかったことも、わたしの焦りに拍車をかけていたように思う。仕事もしていない、子どももいない、わたしはなんにもしていない。だからせめて家のことくらいはちゃんとやらないと、と自分を追い込んだ。
掃除機は毎日、それが無理でも一日おきにはかける。夕飯は1汁3菜、肉と魚を交互に、煮物と和え物、いろんな食材をバランスよく、塩分は控えめに。そんな風にハードルを上げれば上げるほど、それをクリアするのはどんどん難しくなる。気持ちだけがどんどん疲弊して消耗していった。どうしてわたしはなにもしていないのに、ずっと家にいるのに、何も出来ないんだろう。掲げた理想に到底届かない自分を自分で責める日が続いた。
あれから丸6年の専業主婦生活を経て、正解なんてないんだということがやっとわかってきた。「専業主婦なんだからもっとちゃんと家事やったほうが良いよ」なんて言ってきたひとは、夫を含めて誰もいなかった。その呪いをかけたのは、自分自身だったんだろうと今は理解している。
掃除機は自分や家族が家で居心地よく過ごせる程度にかけておけば良いし、夕飯が卵かけごはんだって良いじゃないか。そう思えるくらいには強くなった。掃除機をかける頻度も、夕飯の品数も、今ならうろたえることなく質問に答えられると思う。いや、ここには書かないけれど。書いたとしたら多少見栄を張ってしまうと思うけれど。こうしてわたしはこの6年で、マニュアルのない専業主婦の世界になんとか慣れてきた。
そうしたら今度は、子育てが始まった。子育てをしているとマニュアルや正解を求めたくなる場面がいくらでもあることに気付く。
みんなは子どもにどんなものを食べさせてるの? テレビはどのくらい見せて良いの? どんなおもちゃで遊ばせているの? 朝は何時に起きて夜は何時に寝かせてるの? いったいどんなものを食べさせていると言えば、何時に寝かせていると言えば、母親として合格なの? 母親として恥ずかしくないレベルって、いったいどこなの?
そんなとき、思う。
「子育ての世界にも、マニュアルはないし、正解もないんだとやっとわかった」
「母親なんだから子どものことはきちんとやらなくてはいけない、なんて呪いをかけたのはわたし自身だった」
数年後のわたしは、きっとそんなことを言っているんじゃないだろうか。もしそうなのだとしたら、母親として恥ずかしくないように、なんてもう考えなくても良いんじゃないかな。子どもにいつもちゃんとしたものを食べさせられなくたって良いし、夜9時までに子どもを寝かせられなくたって良い。子どもや夫が元気で、自分が笑顔なら、それだけで十分。
今からそう言ってしまったって良いんじゃないかな、と。
大事なことを理解するまでにいつも時間がかかってしまう自分だけれど、これ以上遠回りしなくても良いよね。そんなことを最近は考えている。
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