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メディアグランプリ

浮気をしてくれてありがとう


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:玉木裕子(ライティングゼミ平日コース)

 
 
「好きかわからなくなった。ちょっと、距離を置きたい。別に、他に好きな人が出来たとかじゃないんだけど」
新年明けた1月1日の夜、私を最寄駅まで送った車の中で、彼は泣きながら言った。
 
あとにも先にも、彼が泣いた姿を見たのは初めてだった。
いくら、お馬鹿な私にも分かった。
わざわざ「好きな人が出来たわけじゃない」と言うのは、「好きな人が出来た」と言っているようなもの。
小さな子供が、押し入れの前で「ここには誰も隠れてないよ!」と、
まさに「ここに居ます」と自ら教えてくれているような。
 
私は、そのバレバレの嘘に、だまされてあげることにした。
いや、だまされたかった。信じたかった。
だって、もう付き合って8年も経っていた。
輝かしい20代を全て捧げていた。
まあ、私が好きで捧げていたんだけれど。
だから、怖かった。
このまま世間に放り出されて、この先彼氏が出来るのだろうか……
どういう振舞いが、今後の展開において得になるのだろうか、と悲しみの中で意外と冷静に考え、その場で問い詰めることはやめておいた。ただできなかっただけのかもしれないけれど。
 
1月2日。泣いた。ひたすら泣いた。悲しかった。
悔しかった。
相手の女の目星はついている。
もはや、彼一人が「好き」と想っている関係ではないことにも察しがついている。
彼の職場の同期だ。入社したときから、ずっと彼にちょっかいを出している。
腹が立った。
虎視眈々とタイミングを狙っていたであろうその女に。
隙を見せた彼に。
何より、8年という月日に甘えて、努力を怠っていた自分に。
デートに遅刻するのなんて、当たり前だった。誕生日もちゃんとお祝してあげなくなった。
自分の気持ちばかり、押し付けていた。
ぶくぶくと太っていったし、彼の前でおならも平気でしていたなあ。
 
女子力はおろか、人間力が微塵もなかった。
彼が居てくれていることで、こんな私でも存在する意味があると思っていた。
彼の存在に甘えていた。
とんでもないモンスターに仕上がってしまった私。
 
「時間が出来たら観よう」と録画しているたくさんの映画は、今観なければもう一生観ないだろうな、という感覚のように。
どこかで自分を諦めていたのは、いつからだろう?
 
このまま布団にくるまって、泣いて泣いて待っていたって、彼は帰ってこないだろう。
むしろ、あの女と幸せになっちゃって、私はむなしく歳だけ取っていくという地獄絵図が頭に浮かんだ。
 
これで、変われなかったら、もう終わりだ。
私は、自分で、自分を大切に思いたい。
「きっと、こんなもんだ」と自分で諦めたくない。
 
決めた。
 
人生をかけて、彼を取り戻す。
できうる限りの、努力をする。
 
料理教室、着付け教室、ゴルフ教室……
エステに、美容鍼灸。ダイエットは1ヶ月でマイナス7kg。それをキープし続けた。
記念日やイベントのたびに、プレゼントを貢いだ。
神頼みもした。四国八十八ヶ所のお寺をめぐる、お遍路さん。(まだ周りきれてない)
気まぐれで勝手な連絡にも、腹を立てずに、感情を抑えた。
全てを受け入れる聖母マリア様になるために。「彼を取り戻す」という目標のために。
口ごたえなどせず、都合の良い存在として、扱われてあげてみた。
 
止まると死んじゃうマグロのように、女子力を身につけるために、ひたすら泳ぎ続けた。
 
12月24日。デートの日。
気づくと、涙で始まった一年は終わりに近づいていた。
「はい、今日で距離を置くのは終わりね!」という終了宣言は聞いていないが、2カ月に1回程度で会っていた。きっと、キープなんだろうな、と分かりながら。
 
1月1日と同じように、帰りは最寄り駅まで送ってくれた。
車の中で、私は寒くもないのに震えていた。
 
「これからも私と付き合う気があるなら、やましいことをやめてほしい」
勇気をふり絞って言った。
一年の努力が、水の泡になってしまうかもしれない。それでも。
「不誠実な扱いをされるのは、とても辛い。心がズタボロです」
これ以上、私は泳ぎ続けられない。
 
彼は、ふにゃふにゃと何かを言っていた。
あまり覚えていないが「やましいって何が?」とかそういうことだった気がする。
被っていたハットを、被ったり脱いだりパカパカと。マイケルジャクソンのダンスみたいに。分かりやすく動揺していて、私は落ち着いた。
 
マリア様の集大成として、感情を荒げずに、淡々と伝えた。
悲しい気持ちや辛い気持ち。好きだ、ということ。
 
新しい、1月1日が来た。
二人で、初日の出を見ていた。
2月、3月、4月……と、また新しい1月1日を迎える頃、彼は、少しずつ誠実になっていった。
「ごめん」とか「やり直そう」とか、ちゃんとした言葉はなかったけれど。
言わなくたって、分かる。言わない方がいい、言葉が下手くそな彼だから。
 
彼とこれからも付き合っていくことは、幸せではないのかもしれない。
「別れた方がいい」「若いのに勿体ない」「それは一途じゃなくて執着だ」
たしかに、別れて他の人に出会いに行くことに怖い気持ちがもあった。
この一年は、逃げだったのかもしれない。
けれど、大切なものが私の中に生まれた。
「やればできる」の「やれば」ができる。
私は、「やれる」
 
自分を信じられる、大切な気持ち。
そのことが、何よりも何よりも、幸せだ。
浮気をしてくれてありがとう。なんて、とても言えないけれど。
自分で自分を信じてあげられる、それ以上に幸せなことがあるだろうか。
きっと、あるだろう。
これは、それ以上の幸せへのスタートラインな気がする。
自分を信じることから、全てが始まっていく。ここから、また私の人生が始まる。
 
大丈夫、私は、幸せになっていける。
 
 
***

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2018-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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