月に一度のお楽しみは、ライティングの師匠
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:一宮ルミ(ライティング・ゼミ特講)
月に一度、楽しみにしている日がある。
でも、それは一ヶ月のうちのいつになるのかは、わからない。
前回からだいたい1ヶ月くらいが経つと、「今日かも、今日かも」と、期待して待っている。
今朝、ぼんやりと朝食のトーストをかじりながら、新聞を眺めていた。
「あ! あった!」
月に一度のその日だった。
私が毎月待っているのは、脚本家向井康介さんが、地元新聞に連載している、エッセイだ。
「創作の余白に」
というタイトルで書かれるエッセイは、日々の暮らしのこと、仕事のこと、子供時代のことなど様々。毎回、どんなテーマが書かれているのかとても楽しみだ。
向井康介さんは、私の住む徳島県のご出身で、40代の新進気鋭の脚本家さんだ。松山ケンイチ主演の「聖の青春」という将棋の棋士を描いた映画の脚本家さんと言えば、ご存知の方もいるだろう。全国を舞台に活躍している彼のことを、同じ徳島県出身者として、誠に勝手ながら密かに応援させていただいている。
そのくせ、実は、恥ずかしながら、彼の脚本した映画をまだ見たことがない。
今のところ私が彼に出会うのは、月に一度の新聞の連載だけ。
そのエッセイが素晴らしく面白いのだ。
文字にしたら、1000字から1500字くらいだろうか。
新聞の連載だからか、掲載時期に合わせた、例えばクリスマスの思い出であったり、お盆の帰省の話であったり、本当に日常の些細な出来事を取り上げていることが多い。
静かに、近況などの身近な話を語り始める。初めの数行で、読者である私は、その世界に引きこまれ、目の前で一緒に体験しているような気持ちになってくる。そのうち、だんだんと文章に熱がこもり彼のの考えや、心を動かした体験などが語られる。
その目線は時に鋭く、私の胸に突き刺さる。また、時には、街で懸命に生きる人々を静かに見つめ優しく包み込んで語りかけてくれる。
そして、その余韻を残すかのように文章は締めくくられ、読み終わったあと、はっと、文章の世界から現実の世界に引き戻される。その読後感はまさに「爽快」だ。
「掘って掘って、温泉を掘りあてたような気持ちになるくらい書ききってください。すごく気持ちいいですよ」
と確か、天狼院書店の店主、三浦さんが、おっしゃっていた。
向井さんのエッセイもまた、毎回まさに温泉を掘り当てた時のような達成感を感じる読み応えがある。
自分もこんなふうに、日常の小さな出来事をすくい上げて、時に優しく、時に鋭く、読んだ後の爽快感を感じる文章を書けるようになりたい。
実を言うと、文章が書けるといいなと思ったのは、この向井さんの連載を目にしたことも、理由の一つだ。
彼の連載が始まったのは、去年の春、多分4月くらいだったと記憶している。
その時は、彼がどんな人であるのか全然知らなかった。
ただ、そのエッセイを読みはじめた瞬間、もう止まらなくなった。そこには、徳島県の出身であること、学生の頃は、徳島駅前に出かけていって、書店や、飲食店を回った思い出が綴られていた。
「懐かしい」
私も、学生の頃は、徳島駅前に寄って、駅前にある数店ある書店をめぐり、おやつを食べて帰るのを、学校帰りの土曜日の午後の楽しみにしていた。
その光景がくっきりと思い出された。
難しい言葉が使われているのでもなく、ただ淡々と情景が書かれているだけなに、そのときの、当時の駅前の様子、書店の内装、歩道を人を避けながら歩く自分の姿が、ありありと思い出され、いつしか学生時代にタイムスリップしたような感覚になった。
その時初めて、向井康介という人が、脚本家であることを知った。
あとで調べてみると、年齢もよく似てた。どうりで、彼の描く25年前が、私の記憶とよく似ているはずだ。とても親近感が湧き、彼の連載を心待ちにするようになった。
私もこんな文章が書けたらどんなにいいだろう。
そんな思いもあって、天狼院書店の「ライティング・ゼミ」を経て、「プロフェッショナル・ゼミ」を今週から受講している。
毎日のように手を変え品を変え文章を綴っているのだけれど、気持ちのいいラストまでたどり着かせるということができずにいる。思うように、頭で考えたことが言葉になってでて来ない。
締め切りは刻々と近づいて、手持ち時間はどんどん減ってきているというのに、全く終わりが見えていない。
一体どこへ向かえばいいのか、暗中模索の状態が続いている。
でも今朝、向井さんのエッセイに出会えて、また書きたい気持ちがむくむくと湧いてきた。頑張って書こうと気合いを入れることができた。
何度も何度も読み返して、勉強させてもらおうと思う。
向井師匠、すみません、勝手に一人で弟子入りさせてもらってます。
これが書けたら、あなたの脚本した映画のDVDを借りに行ってきます!
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