わたしには才能がない、という言い訳はもうやめようと思う。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:櫻井由美子(ライティング・ゼミ平日コース)
「次週も投稿お待ちしております」
ライティング・ゼミで提出した6週目の課題に対するフィードバックの最後にそう書かれていた。編集部のOKが出ないとき、その記事に対して書かれるフィードバックはたいていこの言葉で締めくくられていて、そうして6週目のわたしの記事ももれなく掲載不許可となった。
日常の中で起きた些細な出来事。ほかの人から見たらきっと「そんなことがそんなに大事なの?」と思われるであろうたいしたことのない話。だけれどわたしにとってはすごく意味のあること。そんなことを書いた。けれども、自分にとっては面白くても、ほかの人にも興味を持って読んでもらえるような客観的に面白い形の文章にすることは難しかった。フィードバックの言葉を読みながら、もっともだと思った。そして落ち込んだ。来週の課題に向かうモチベーションも上がらなかった。書きたいことも思いつかず、あぁわたしにはやっぱり書く才能がないんだという考えばかりが頭の中をぐるぐるぐるぐるまわり続けていた。
ふと、これは何かに似ていると思った。それは運動会の徒競走だった。
昔からわたしは足が遅かった。小学校や中学校の頃の運動会は、毎年徒競走を走らなければならないことがいやでいやで、「今年こそ雨で中止になれば良いのに」と毎年祈り続けていた。小学校の運動会だったと思うのだけれど、運動会の前に体育の授業で全員が50メートルを走ってタイムを計測し、そのタイムをもとにして運動会で走る順番が決められた。足の遅い人から順番に走る。わたしはかろうじて前から2列目だった。2列目の中でも1等賞にはなれなくて、毎年だいたいそんな具合だった。
足が遅い自分がいやだった。運動音痴な自分が嫌いだった。陸上部で短距離が得意で、足首が細くてでも適度に筋肉がついて引き締まったかっこいい脚の友達がうらやましかった。リレーの選手に選ばれて「あー、練習めんどくさいなー」なんて言いながら選ばれた生徒たちだけのための放課後の特訓に行ってみたかった。
あの頃のわたしは、足が遅いことに劣等感を感じるばかりで、どうやったらもっと速く走れるようになるだろう? なんて考えたこともなかった。足が速い遅いは生まれつきの才能だと思っていたから、速く走れるようになるための努力をしようとも思わなかった。陸上部のあの子は、たしかに小さいころから足が速かったのかもしれないけれど、そんなあの子ですらきっともっと早く走れるようにとコツコツ練習を重ねていただろうと思う。それなのにわたしは、なんの努力もせずに、いやだいやだ徒競走なんていやだ、運動会なんて出たい人だけ出ればいいのに、なんで全員徒競走走らなきゃいけないんだ、あーいやだいやだ、などと文句ばっかり言っていた。
ライティング・ゼミが始まってから5週目までは、持ち前の要領の良さで乗り切っていた。学校で授業を受けているようで楽しかった。昔から学校の勉強は好きだったし、得意でもあった。やればそれなりの結果が出たし、みんなよりも早くやり方を覚えてスタートダッシュをかけることも出来た。ライティング・ゼミの課題も、なんだかんだつらいとかしんどいとか言いながらも、学校の勉強と同じように楽しかった。
それが、6週目に提出するための課題を書いているとき、息切れを感じた。スタートダッシュで息切れを起こし、気づけばみんなに追いつかれ追い抜かれ、いつの間にかもう自分の後ろには誰もいなくなっていた、そんな感じだった。
書きたい。書ける。そう思っていたのはまるっきり勘違いで、やっぱり自分には書く才能なんてぜんぜんないんだ。はなからそんなもの無かったんだ。わたしには面白い文章なんて書けない。もう課題を提出するのもいやだ。だってわたしには生まれつき書く才能がないんだから。
あぁ、やっぱりそうか。
足が遅いから徒競走に出たくない運動会なんて大嫌いだと言いながら、速く走るための練習をしようともしなかったあの頃の自分が、40歳を目前にしたわたしの中にまだいるんだと思った。
足の速い遅いが生まれつきの才能で決まる、だから努力なんてしても意味がないと決めつけて努力を怠ったあの頃の自分が、文章を書ける書けないも才能で決まる、だから努力なんてしても意味がないんだという形でいまも生き続けていた。ちょっとつまづいたら、あぁもうダメだわたしには才能がないんだ、だからわたしには出来ないんだと諦め、そのくせ努力を積み重ねている周りのひとをうらやましがるあの自分が、ずっとわたしのなかにいる。
足が遅いなら、速く走れる人よりももっと練習するしかない。どうやったって陸上部のあの子より速く走れるようになんてなれないだろう。それでも、練習を積み重ねれば、自分史上最速のタイムは出せるかもしれない。わたしに出来ることはそれだったと今になって気づく。
わたしが本当に嫌いだったのは、足が遅い自分ではなくて、「わたしは足が遅いから」と自分で決めつけて速く走れるようになるための努力をしようとも思わず文句ばっかり言っていたあの自分だ。もう、あの頃にもどってもう一度運動会に出ることは出来ない。けれど書くという分野でなら、今からでも遅くない。いくらでも挑戦が出来る。
わたしには書く才能がない。
それでも書き続けるという挑戦を、わたしはやってみたい。そんな挑戦を続けている自分なら、すこしは好きになれるんじゃないかな。
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