メディアグランプリ

彼女が重たい女をやめるとき


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:白鳥澄江(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
恋の終わりはある日突然やってくる。
「好きなひとができたんだ」
ああ、やっぱり。最近、なんとなくおかしいと思っていたのだ。彼とは友人に連れて行ってもらったクラブで知り合った。会ったその日に意気投合して、朝起きたら彼の家にいた。その日から私たちの付き合いは始まった。デートはいつもクラブで騒いで、彼の家に泊まるというパターンだ。そんな彼が一か月くらい前からわたしが部屋に泊まるのを渋るようになった。うすうす感じてはいたけど、こんなに単刀直入に言われるとは思わなかった。
「どうして?」
「君は重いんだよ」
「え……」
「はじめて会った時は、君はもっと自由なひとだと思っていた」
 
この後どうやって家に帰ったか覚えていない。
翌朝起きると、泣きはらしたせいでまぶたが腫れていた。25歳の誕生日の朝なのに最悪だ。今日は午後から湘南でウインドサーフィンをするつもりだったんだけど、昨日の痛手が大きすぎていまひとつ気が乗らない。かといって家にいてもよけい気が滅入りそうなので気を取り直して出かけることにした。バシャバシャと顔を洗いながら、ふと彼の言葉を思い出す。
「重いんだよ」
ずきんと胸が痛む。以前付き合っていた彼氏にも似たようなことを言われたっけ。たしかに彼氏ができると嫌われたくない一心で、なんでも相手に合わせる癖がある。たとえばランチのお店を選ぶときも自分の食べたいものより彼が食べたいものを優先してしまう。自分の意見を主張したら相手を失ってしまうような気がして、どこかで自分にブレーキをかけてしまうのだ。以前読んだネット記事に、女子の場合は父親との関係が恋愛パターンに大きく影響すると書いてあった。わたしの父親はわたしが8歳のときに病気で亡くなっている。いまでもよく覚えているんだけど、あのとき悲しくないわけじゃないのになぜか涙が出なかった。
 
時計をみると10時をまわっている。大あわてでかばんに荷物を詰め込んでスニーカーを履いているとドアホンが鳴った。
「荷物が届いています」
差出人の名前を見ると貴金属店となっている。住所は銀座だ。貴金属店? 心当たりはない。不審に思いつつ、包みをあけると白い箱がでてきた。蓋をあけるとジュエリーが入っていた。金色のチェーンがついていて、ペンダントトップは金の台座に赤いルビーがはめ込んである。金の台座は朝の光できらきら輝いていて、よく見るとちいさな六角形の模様が浮き彫りのように彫ってある。
わたしはペンダントを手にとると、留め金を外して首にかけてみた。
わあ。きれい……。
そのときなぜそんな行動をとったのかわからない。ふだんだったら正体不明の荷物は受け取らないし、中身をあけたりしないのに。
 
ボードは湘南の行きつけのショップに預けてあるので、身ひとつで湘南まで行けばいい。わたしは駅に向かう道すがら貴金属店に電話をかけた。差出人欄に書いてあった電話番号と住所はネットで調べた店のホームページに掲載されていたものと一致している。
電話はすぐにつながった。
事情を話すと店員は丁寧に説明してくれた。
「はい。それはお客様の25歳のお誕生日に届くようにと、日付指定で承っておりました」
「え? どういうことです?」
「私どもの店ではお客様の大切な記念日の贈り物を最大20年後まで日時指定で承っております。お客様の場合は17年前にご注文いただいておりました。その際、お客様のお手元に商品が届いてから、お手紙を直接お手渡しするようにとのご指定でした」
「17年前?」
スマートフォンを持つ手が震えるのが自分でもわかった。
「あの……依頼人って……もしかして」
 
わたしは電話を切ると急いで銀座本店に向かった。母親に確認しようと思って電話をかけたが、こんなときにかぎって通じない。本店で手紙を受け取ると、その足で湘南に向かった。気持ちは急くのに電車の中で手紙を読む気になれなくて、結局いつもの浜に向かった。わたしが到着したときにはもう風が止まっていて、今日のウインドサーフィンの時間は終わっていた。凪いだ海でサーファーたちが波待ちをしている。わたしは砂浜に腰を下ろすと封をあけた。白い便箋がうっすらと黄ばんでいる。わたしは黒インクで書かれた文字を目で追った。
 
「来ていたんだ」
振り返るとウインドサーフィン仲間の渡さんが立っていた。
わたしはパーカーのポケットに手紙をしまった。
「今日、誕生日でしょ? はい。ハッピーバースデイ」
渡さんはそう言って、無造作に缶コーヒーを投げてよこした。
わたしは黙ってそれを受け取った。
渡さんはひょいとわたしの胸元をのぞき込んだ。
「それ、よく似合ってる」
 
不意に涙があふれた。渡さんは自分がなにかまずいことを言ったのかとおろおろしているけど、そんなことはどうでもよかった。涙があふれてとまらない。たぶんわたしはずっと父親の死を受け入れることができなかったのだ。あまりにも辛すぎて、泣くことも、悲しむことができなかった。だから誰かを好きになるたびに、まるで父親を失った当時の気持ちをなぞるように恋人を失う体験を繰り返していたのかもしれない。
わたしは声をあげて泣いた。
きっと17年分の涙が出たに違いない。
 
25歳の誕生日、おめでとう。
君がこの手紙を読むとき、わたしはもうこの世にいないだろう。
おとなになった君にずっと伝えたかったことがある。
人生には、時には悲しくても受け入れざるを得ないことがある。
君もおとなになる過程で、いろいろな壁にぶつかるだろう。
けれどどうか自分の人生を大切に生きてほしい。
君は小さなときから活発な女の子だったね。
お母さんは活発過ぎると心配していたけれど、わたしは君が自由で、ときには男の子みたいに行動するのを見ているのが大好きだった。
君もいつか好きな人ができて、結婚して、親になるだろう。
そのときは、君が君らしく自由でいられる相手を選びなさい。
そんな君を大切に思うひとがきっとどこかにいるはずだ。
お父さんがお母さんと出会ったように。
君がいちばん自分自身でいられる場所でこのペンダントをつけなさい。
そして幸せになりなさい。
 
 
***

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2018-04-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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