メディアグランプリ

「箱」からの脱出


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記事:はまかずと(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
今日、ひさしぶりに本を読んで涙を流した。
もう、4回は読んだはずだがどうにも泣ける。
本のタイトルは『自分の小さな「箱」から脱出する方法』(大和書房)。
かつては「箱」という書名で売られていたものの再版だ。
あまりに気に入ったので、周囲のいろんな人に勧めて貸しているうちに所在がわからなくなり、買い直した。それからは、誰かに勧めるときは買ったものを渡すようにしている。
 
「箱」の内容を一言で言うと「自己欺瞞(ぎまん)」について説明した本だ。
ストーリーは、とある企業で高い地位にある主人公が、ライバル会社に転職するところから始まる。入社後研修を受けることになった男は、そこに現れた副社長から、いきなり「君には問題がある。」と告げられる。当人には、問題と言われても全く見当がつかない。それは一体なんなのか?
自己欺瞞、と言われてもピンとこないかもしれないが、これは自分への裏切りのことだ。
シンプルに言えば、分かっちゃいるけど、仕方なかったと自分に言い聞かせるようなとき。電車でお年寄りが座っている自分の前に立つ。そんなありふれたシチュエーションだ。
「席を譲ろうかな? 」
「いやいや、自分だって今日は散々歩いて疲れている。それにこのご婦人は顔色もいいし元気そうじゃないか」
本当はそうするべきだったと分かっていてもできない、原因は他にあると考えたい。挙句に「そういえば思い出した。もうずっと前のことだけれど、席を譲ろうと立ち上がったら、ムッとした顔で、目も合わさずに年寄り扱いするなよ、って言われてバツの悪い思いをしたじゃないか」そんなことを自分に言い聞かせて目を閉じる。
自らを棚に上げ、相手や周囲の責任にして取り繕う。これが自分への裏切り行為だ。
 
僕はこれを読んだとき、学生時代に活動していた音楽サークルでの出来事を思い出した。当時僕はパートのリーダーをしていたが、アルバイトや学部のゼミとの掛け持ちで、全然集中できずにいた。パートメンバーは5人。僕の目には皆がよそよそしく、練習に手を抜いており、リーダーであるはずの自分に敬意を払わないどころか、まったく頼りにしていないことを日々感じていた。そんなある日、練習明けの集合時間になって、同期のメンバーが、ちょっと待て。話がある、と僕を呼び止めた。正直言って話などしたくなかったが、彼はこう続けた。「他の人も聞いてほしい。僕はずっとこのリーダーの資質に疑問を持っている。みんなもそうなんじゃないかな? 貴重な時間を使って練習しているのに、やる気のないリーダーの下ではうまくなんてなれないよ。真面目にやる気があるのか、みんなの前ではっきり言って欲しい。今のままで続ける気なら、ここから去って欲しいと思う」と全員を見回しながらきっぱりと言った。そして、「君の友人たちにも聞いたけれど、学部のゼミも忙しくて、バイトもしているからとても忙しいと思う。それでも僕は君を信頼してついていくつもりだ。それに応えて欲しいんだ」と続けた。それを半ば上の空で聞きながら、自分が忙しさにかまけて、やるべきことに取り組んでいなかったこと、そのせいでメンバーにどれほど心配や迷惑をかけてきたかが痛いほどわかり、それを僕に教えるために、彼がどんな思いで伝えてくれたか。さまざまな思いが感情の波となって押し寄せてきた。自分を苦しめてきたのは、決してメンバーではなく、自分自身。そんなわかりきったことに、改めて突きつけられてようやく向き合うことができた。
 
『自分の小さな「箱」から脱出する方法』を読んで、当時、何が起きていたのかを知ることができた。僕は、まさに「箱」に入っていたのだ。
自分の殻に閉じこもって、自らを裏切っていた時、僕は「箱」に入っていた。
箱の中にいると正しいのは自分だけになり、それを証明するために周囲の人の言動が歪んで見えるようになる。ダンボールの箱に閉じこもって隙間から相手を観察するように。
自分を気づかってかけてくれる言葉は皮肉っぽく聞こえ、ともすれば非難しているに違いないと邪推する。相手は自分の正しさを糾弾するただのモノとしか思えなくなり、感情を持った、尊重すべき1人の存在として向き合うことを忘れてしまう。そんな不健全としか言いようのない状態から、僕はメンバーの勇気によって箱から出ることができた。とたんに、悪夢から醒めるように、かつての風通しの良い関係を周囲と結ぶことができるようになっていった。
 
「箱」はいつ入ってしまうとも知れない、ありふれた日常の落とし穴でもある。
例えば、車の運転をするとき、強引な割り込みをされて頭にくることはあるだろう。その時に「彼はいまとても急いでいるのかも知れない。つい強引に割り込んでしまったけど別に自分の邪魔をするつもりがあったわけじゃないのだ」と考えてみる。相手を、自分の邪魔をするモノではなく、ひとりの先を急ぐドライバー、として認識するだけで「箱」に入らずにすむ。「箱」に入らず、「箱」の外にい続けることを意識するだけで、様々な人間関係を素の自分で生きられるようになると言ってもいい。
 
『自分の小さな「箱」から脱出する方法』の主人公も、会社だけでなく家族との関係にも問題を抱え、相手に不満を持っていた。そして「箱」の存在を知り、自分と向き合っていく過程で周囲の人々との関係を取り戻していく。
身近な人たちとの関係は日常の幸せに直結する大切な問題だ。
箱からの脱出。あなたがもし「箱」に入っていたなら、ぜひ体験してほしい。
 
 
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2018-04-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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