夜のお仕事から見えてきたこと
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記事:久保友美(ライティング・ゼミ特講)
「私、夜のお仕事しているんです」
ある時期、自己紹介でそんなことをよく口にしていた。すると大抵「えっ、そうなの」と驚かれる。なぜなら、私は地味な風貌でおとなしそうに見えるからだ。最近はコロコロと太ってきたので、くまモンに似ているといわれることもある。
残念ながら……想像に浮かんでいるような色っぽいところで働いていたわけではない。
私が働いていたのは、役所である。
当時、大学院生だった私が先輩から紹介され、約3年間、週3回、17時15分から21時45分までアルバイトとして働いていた。
私がいた部署は、ボランティアグループやNPOが活動しやすい環境を整えるために、会議室や打ち合わせができるオープンスペースとして提供していた。仕事帰りの人が使いやすいように夜もオープンしていたのだ。全国的にも珍しい取り組みだった。私は会議室の管理やオープンスペースでの展示企画を担当していた。
アルバイトをするまでは、役所に足を踏み入れることなんてほとんどなかった。住民票や健康保険の書類など、役所に関係しそうな書類も親任せだった。役所に行ったのは片手でおさまるくらいの回数だった。
公務員の仕事も「9時から5時までで終わる安定したお気楽な仕事」としか思っていなかった。だから、アルバイトながらも役所で働く機会を得た私は、他のバイトと比べて楽だろうと思い「ラッキー」とさえ感じていた。
公務員の人気はいまだに強いと思う。周りの大学生に聞いても、大学と大手公務員予備校のダブルスクールをしながら公務員試験の勉強をしている学生は多い。
しかし、実際に、アルバイトとして役所の仕事を間近で見聞きする機会が増えると、その考えが変わっていった。公務員の仕事は、想像と違って身体的に精神的にもタフじゃないとやっていけないな、ということだった。
まず、公務員の仕事は関わる人がとにかく多い。私がいた部署は、行政が民間団体(NPOや自治会、ボランティアグループ、大学、企業など)と力をあわせてまちづくりを進めていくことを主な仕事としていた。ただ、行政は公平公正が原則。関わる民間団体にも偏りがあってはいけない。十人十色とはうまくいったもので、それぞれの立場によって考え方も意見も違う。それを聖徳太子のごとくいろいろな方面に耳を傾けながら、公平公正を保つことのできるバランスポイントを見つけていく。
手掛ける仕事のゴールも分かりづらい。企業であれば、売り上げ目標〇〇円、取引先企業〇〇社といった数値目標をゴールとして掲げることができる。また、「売上を〇〇円あげれば、ボーナスが倍増するかもよ」といったように、「お金」をモチベーションにすることもできる。
しかし、公務員の仕事はそうはいかない。例えば、自治会と一緒になって美化清掃活動をしたとする。「きれい」の定義は人それぞれによって異なる。何をもって「美化」とするのか、共通のゴールを定めにくい。また、「自分の家の周りだけきれいであれば、周りがどうであろうと気にしない。なんでそんな面倒くさいことをしないといけないの」という人がいたとする。その人にどうやって美化清掃活動に関わってもらうのか。「お金」というわかりやすいエサは使えない。そういった課題をどうやって解決するのか。あの手、この手を使って考えないといけない。
役所の中では戦いもある。事業実施のための予算要求である。予算の財源はもちろん税金。住民からいただく貴重な税金を使うからこそ、本当にやる意味がある事業なのか、やるからにはどんな効果が生まれるのか、何度も何度も慎重な議論が繰り返される。この議論が佳境になる時期は、どの部署の明かりも夜遅くまで灯っていることが多い。
私が役所で働くようになって、強い印象に残っているのは、公務員の仕事はどんなに頑張っても感謝はほとんどされないことが多いということだ。そして、それを公務員も当然として受け止めているところである。
出たがりの私だったら、自分の頑張りがうまくいったらちょっとでも認めてほしいのに、と思ってしまう。なのに、「何でそんな謙虚なんだろう」と不思議に思い、ある公務員の方に聞いたことがある。
そこで返ってきたのは、「公務員は国民全体の奉仕者ですから」という答えだった。調べてみると、日本国憲法15条に、「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と書かれている。多くの公務員は、このことが当たり前のように染み込んでいるのだろう。
公務員の仕事は、空気のようだと思った。空気は、あまりにも当たり前すぎて、あることそのものに感謝をすることはほとんどない。「空気があって助かったわー」「空気があってありがたい」という声は聞いたことがない。そんなことを言ったら「ちょっと頭がおかしいのかも」と思われそうだ。
そして、空気も自らの存在感を出すことはない。でもなくなったら、一大事だ。
日々の暮らしは、そんな目に見えない多くの当たり前から成り立っている。
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