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大学カフェテリア経営にマーケティングはいらない


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記事:廣井徹(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「みなさんご自身はこのメニューを食べたいと思うんですか?ほんとですか?」ミーティングで思わず声を荒げてしまった。勤め先の大学のカフェテリアの運営を委託する会社から出てきたメニュー提案はそれほどひどかった。ファミレスで見かけるようなメニューばかりで、何一つワクワクするようなものはなかった。
 大学にはいわゆる学食とよばれる大学生協が運営する食堂とは別に、学生、教職員以外の地域の方にも利用されているカフェテリアがある。オープン当初は物珍しさもあってずいぶんと混雑したが、3年も経つと飽きられてきて、地域住民どころか学生、教職員にも人気がない。11時〜20時だった開店時間も今では昼前後だけの営業となり、開店当初は豊富だったメニューも今では5〜6種類に絞っている。収益が上がらないから、メニューを絞って、材料ロスのリスクを少なくする。営業時間を混雑する時間に絞って人件費を削る。一見合理的なようだが、食べたくなるメニューもなく、閉まっている時間が長い魅力のない店にしだいになっていった。完全に負のスパイラル陥っていた。広報が足りないというので、地元誌に掲載してもらったり、テレビ局に取材してもらったりもしたが、根本的な解決にはならずジリ貧になっていった。
 このカフェテリアだが大学側は家賃を取っていない。店舗運営の費用でかなりのウェートを占める賃料がタダであるわけだから、簡単に収益は上がる。ここがマズかった。客足が遠のいてもそこそこの粗利が稼げている。赤字ならば必死にもなるが、そこそこ儲かってるので努力しないのである。
 大学が家賃を取っていないのにはわけがある。学生、教職員への良い食環境の提供だ。生協が運営する学食は安全で低価格な食事を提供している。このカフェテリアには日常に彩りを添えるちょっとした「ハレの日」気分の食事を当初目指してもらった。学食よりは少し高い価格帯ではあるが、学生たちでいえば、友達の誕生日や記念日ランチ、教職員であれば職場での軽いお祝い、地域のママ友のランチなどに好まれそうなメニューを出してもらっていた。しかし客が来ないのだ。理由ははっきりしている。学食よりも少し高い価格帯というのは実際そうなっているが、価格帯に見合う味と雰囲気が実現できていない。日常の中の「ハレの日」気分を客が味わえていないのだ。
 このカフェテリア、場所はキャンパスのど真ん中の一等地にある。好立地にある施設が学生、教職員のためにも、地域の方にも大して利用もされず、しかもそのほとんどの時間が閉まっている。一刻も早く学生、教職員に、地域の方に愛される店に変わってもらわねばならない。そこで運営会社とミーティングを重ね、あらたなメニュー開発に取り組んでもらった。
 運営会社は学生にアンケートをとってニーズをさぐり、地域に住む20歳代30歳代のママたちの好みをグループインタビューで調査すると言ってくれた。プレゼンには期待していたのだが、結果はコスパをうりにした大手ファミレスのチェーン店にあるようなメニューが並んでいた。ハンバーグプレート、パスタ、エスニックカレー、ステーキサラダ、サンドイッチといったラインナップである。ステーキサラダが唯一、グループインタビューでの成果っぽいメニューだ。これではダメだ。今と大して変わらないし、どれも食べて見たいと思わない。
 ファミレスと同じメニューが並ぶのは当然の結果だ。ファミレスだって調査コストをかけたメニュー開発をやっている。調査対象が大して変わらないのであれば同じような結果がでる。ただファミレスは1000店舗を超える実際の店で日々お客様と向き合って得た実体験に基づいている上に、大量仕入による低コスト化で、お客様に「この値段でこれが食べれるの!すごい」を提供しつづけている。太刀打ちできるわけがない。低価格化も到底追いつけない。
 ではどうするか? 野球で言えば、守りを固め、ランナーが出たら送りバントでランナーを進めヒットを待つという強豪校と同じ戦術では勝てない。「弱くても勝てます」の開成高校のようなバントなし、守備練習なし、打撃一本で勝負するような一点突破の戦い方をわれわれは展開しなければならない。
 もはや落ちるところまで落ちている。運営会社はそれなりの収益で契約期間を逃げ切れば良いのかもしれないが、キャンパスのど真ん中の一等地を遊ばせておくのは、高い学費を払わせている学生たちに申し訳がたたないではないか! わたしは言った「もう当てにいくのをやめましょう。相手に合わせるのではなく、皆さんは外食のプロですよね。プロが素人に聞いて合わせるのではなく、これがうまいのだ!これを食ってみろと教えてやりましょう!」と。再び協議をすることでこの場は別れたが、もはや運営会社だけに任せておくわけにはいかない。必要なのは人まかせではなく、われわれが学生たちへのサービスに責任を持っているという当事者意識だ。大学の関係者には「そんなことは業者に考えさせるものだ」と協力を拒む意見もあった。「業者がダメだからしょうがない。では学生に申し訳が立ちません」と大学側からも提案することに協力しないまでもせめて反対しないで欲しい旨を取り付けた。関係するメンバーに集まってもらいアイディア会議をひらいた。食べ物好きの有志にも協力してもらった。突破口を開いたのは、遅れて入ってきた新入職員の女性だった。「わたしこれが食べたいんです!」とラップに包んだサンプルを出してきた。会議室になんと実際に食べたいものを作って持ってきたのだ。ボルガライス。福井出身である彼女の地元B級グルメである。オムライスの上にトンカツをのっけて上からデミグラスソースかけるボリューム満点のメニューである。皆で試食したがなかなかうまい。何より見た目が迫力満点である。このボルガライスを起点に議論が大きく前進した。大学には全国に都道府県からきている学生がおり、また留学生もたくさんいる。ご当地メニューを出すというのをこのカフェテリアのウリにしてはどうかという結論に落ち着いた。名古屋の鉄板ナポリタン、北海道のスープカレー、福島のソースカツ丼、新潟のイタリアン、長崎のトルコライス、佐世保バーガー、石川のハントンライス、宮崎のチキン南蛮、インド留学生が作るインドカレーなどなど洋食系に限ったがたくさんのご当地メニューのアイディアがでた。どれも魅力的なメニューだが、ボルガライス、鉄板ナポリタン、インドカレーの3点に絞ってサンプルを作成することにした。知り合いでランチに定評のある喫茶店のマスターがサンプル作りには協力してくれた。いよいよ運営会社との協議だ。
 運営会社も自分たちが食のプロとしてのおすすめメニュー提案の準備はしていただが、まさか大学側が本物の料理サンプルを用意しているとは思ってなかったようで、提案に大きくうなずくだけだった。結果、大筋でわれわれの提案が受け入れられた。ご当地B級メニューを週替わりで出すことで、その県出身の学生がよびこめるのと同時にその友達も呼べることが決め手となったが、これが食べたいというわれわれの食い意地が運営会社のそれを大きく上回っていたのだ。
 このご当地B級メニューはまだ準備段階で実現には至っていない。試験的に実施したインドカレー&ナンは十分な手応えだった。味ももちろんうまかったが、本格的なタンドール釜を持ってきてナンを焼いたパフォーマンスも受けて、列をなすほどの人気だった。ご当地B級メニューを出すカフェテリアとして、学生、教職員はもちろん、その土地土地の懐かしい味を求めてキャンパスに一般の方も足をはこび、「キャンパスの中心でB級グルメのうまさを叫ぶ」日もそう遠くはない。

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2018-04-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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