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マサコさんに学ぶ、人生100年時代の生き方


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:渡邊壽美子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「お給料いくらもらってるんや? 一万円か?」
祖母のお見舞いにいったときに、祖母に聞かれて答に窮した。認知症が進んでしまい、時代が随分と戻ってしまったようだ。それに、40も過ぎた私のことを新人と間違えていたようだ。一万円の初任給って、いつの時代なのだろう?
「あ、えっと、もう少しもらっています」
と、あいまいに答えた。すると
「そうか。それは、ええなあ。長く勤めたらええよ」
と祖母は嬉しそうに言った。祖母の名前はマサコさんだ。
 
1914年第一次世界大戦が始まった年に、マサコさんは生まれた。私にとって第一次世界大戦など、歴史上のことになってしまっているが、そんなに昔の話ではないのだ。
 
マサコさんは、神戸で貿易商をしていた祖父と結婚した。しかし、幼い3人の子供を残して、祖父はフィリピンで戦死してしまったのだ。マサコさんの青春時代、新婚時代は戦時中だった。戦後も一人で三人の子育てをしながら、定年まで運送会社で事務員として勤めた。今の言葉でいうとシングルマザーであろうが、その時代には珍しくなかったのだと思う。マサコさんは、いつ会っても悲壮感は全くなく、明るく楽しく、質素倹約を旨とする生活を送り、家事をキビキビとこなしていた。
 
女手一つで3人の子供を育てるというのは、多分並大抵のことではないだろう。父性と母性が一体化したような性格のマサコさんは、孫の私達にも厳しかった。おばあちゃんというと一般には優しいイメージだが、マサコさんは全く違った。だから、母が夏休みにマサコさんのところに、私達兄妹を連れて帰省をするとき、私達は少し緊張した。
 
マサコさんは、とてもせっかちなので、私たちが到着するといつも、
「いつ帰るんや?」と質問した。そして、お土産にこれを持っていけと、古い靴下や、微妙な柄の手提げバックなどを、次々と差し出した。
そんなとき、私たちは「いらない」とも言えず、「ありがとうございます」とありがたくもらい、すぐバックにしまわなければならなかった。
 
また、マサコさんの家は、銭湯の裏にあった。真夏に銭湯の裏にある家で、節約のためエアコンがなかったのだ。想像を絶する蒸し暑さである。しかし、私たちが、
「暑い」とでもいえば、
「夏は暑いのは当たり前!」とマサコさんに一蹴される。我慢して寝るのだが、蒸し暑くて眠れない。マサコさんの家にいくと睡眠不足だった。
 
そんなマサコさんだが、私はマサコさんのことが結構好きで、社会人になってからも関西に出張に行くときに、マサコさんの家に泊まらせてもらうこともあった。そんなときは、銭湯に行ってからマサコさんと一緒にお酒を飲んだ。マサコさんからは、戦時中の苦労話や、愚痴の類をあまり聞いたことがない。だいたい、楽しい話か、ユーモアあふれる冗談だ。
兄が薬剤師と結婚したと報告すると、
「仲良うせんと、一服もられんで(仲良くしないと、毒を一服もられてしまうなあ)」
と、センスのよい冗談を言っていた。
 
マサコさんが、弱音を吐くのを聞いたことがない。いつも明るい冗談か、健康に生きるためにはどうするかという類の話をしていた。もちろん辛いことや寂しいことは、たくさんあっただろう。常に自分を客観的に見て、ユーモアに変えられる術は、厳しい人生を歩む中で身に着けた知恵なのかもしれない。
 
晩年、養護施設に入っていた祖母は100歳で永眠した。晩年は認知症であったにも関わらず、会話のやりとりは相変わらずセンスのよいユーモアであふれていた。お見舞いも楽しいものだった。そして、お葬式は、私が出たお葬式の中で最も明るい雰囲気だった。
 
伯父が、弔辞でマサコさんを表して、
「生きることは、ひとすじがよし寒椿」
という句を披露していた。
 
映画「伊豆の踊子」の初代監督をした五所平之助の句だという。寒い中で可憐な花を咲かせる寒椿は、一つの考え方を貫いて一筋に生きる生き方そのもののようだという意味であろう。寒椿は寒さのなかでも精一杯生き、不平を言ったりすることはない。
 
現代は選択肢が多い時代であり、要領よく色々なことをこなしていかなくてはならない側面もある。しかし、マサコさんのように、一筋に生きていくことも重要なのかもしれない。人生100年だとすれば、私も、もうすぐ折り返しだ。私も、厳しい環境の中でも不平を言わず、不器用でもよいから精一杯生き、きれいな花を咲かせたいものである。
 
 
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2018-04-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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