メディアグランプリ

ご飯をよそうということ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:やまもとよしこ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
私はご飯をよそうのが下手らしい。
 
それを知ったのは結婚して20数年、単純計算でも8万回を越える給仕経験を経た
2年前の事だ。
 
当時友人が一人で切り盛りしていたカフェのランチタイムを手伝った。
やって来たのはサラリーマン4人組。
ランチメニューの説明をして注文を受ける。
 
こんなのは高校生の時の志津屋のアルバイト以来だ。
志津屋は京都市内にたくさん店舗のあるパン屋さんで、その三条店の2階の喫茶室でウエイトレスをしていた。
今はどうか知らないが当時は、幕の内弁当や焼肉定食などもきちんとしたものを提供していた。
オーダーを通した後の調理盛り付けは厨房の方たちのお仕事の範疇で、
私は出来上がった品を運ぶだけだった。
 
でも今は違う。
 
友人はおかずのおでんやロールキャベツを温め直し、汁物を器に注いでいる。
「よっちゃん、ご飯よそってくれる?」
私はなんのてらいもなくお茶碗にご飯をよそった。
すると「多すぎる!」と怒りを含んだ声が飛んできた。
「へっ?」
一応主婦歴20数年。息子二人。
毎日男3人のご飯を盛っている。
それがいけなかったみたいだ。
いつもの調子の量は他所では“多い”となるのだと初めて知った。
 
うちの家族は外食すると必ず「あそこはご飯少ないし女性向けの店やなぁ」と
ご飯の量をお店の評価の良しあしに繋げる。
私なりに友人のお店を良く印象付けたい気持ちもあったのだが、大きなお世話だったのだろう。そんな思惑をよそに友人はごはんを減らしていく。
(えっ? それって余りにも少な過ぎひん?)
(その値段で?)
(仕事してる男の人やで?)
いくつもの疑問が頭に浮かんだが「ごめん」と謝ってお客様のテーブルに運んだ。
 
思えば当時、彼女は借金を抱えておりそのために夜の祇園でもアルバイトをさせられていた。ご飯の量も少なめにして金銭的に少しでも切り詰めたかったのかもしれない。
おまけに結婚期間は大変短く年単位に満たない。子どもは女の子。
男性の食べる量に馴染みが無かったのかもしれない。
でもでも……いくら思い直そうとしても“私は使えないダメな人”認定された感がぬぐえなかった。
 
それから1年ほど後の事。
染物のワークショップに参加した。
主催者は知人である飲食店の経営者。彼女のお店を会場にしたランチ付きのイベントだった。有機やマクロビ食の食堂で、よもぎやアケビの花芽の天ぷらなど見た目にも体にも嬉しく優しい品が並んでいった。
 
そしてそこに、とうとうというかやっぱりと言うか
「ご飯よそって下さい」の声が降ってきた。
左隣の若いママさんは赤ちゃん連れだし無理。右隣の人達は喋っていて聞こえていなさそう。
仕方ないと意を決したものの
「私、よそうの下手やねんけど。量が多くなりすぎるみたいやし、ごめんね」
気持ち、声を大きくして言ってみた。
「何でもええよー」「そお? じゃあ……」
 
主催者も参加者も全員が並んで「いただきます」をした。
(やったー今日は大丈夫そうや!)と安堵したその時、お茶碗とおしゃもじを持って
「後でおかわりするんやけど。するのんは分かってるんやけど、乙女やし一旦戻す」
笑いながら量を減らしたのは私より一回り若い独身のその主催者。
 
少なめにしたんやけどやっぱりアカンかったか……。
何でもええよーて言うたやん。
それならせめておかわりはしんといて欲しいと少しだけ心の中で思った。
でも哀しいかな彼女はしっかりとおかわりをしたのだ。
それも減らした量よりも多く!
 
かくて私はもう二度と他所ではご飯をよそうまいと強く強く決意した。
と言うよりももう出来ない。
完全に心折れてしまった。
 
そして決めたのだ。
 
誰になんと言われてもどう思われようとも、もう絶対によそわない。
ワークショップやイベントも、知人主催の場合は食事のないものを。
食事つきであれば完全にお客様で居られる、それなりにちゃんとした会場での催しにしか参加しない。
万一何かの手違いでご飯をよそわねばならない場面に遭遇しても
仏心を出して自分を見失わないために、手土産は志津屋の品と決めている。

 
 
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2018-04-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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