想像力なんてとっくに持ってると思ってたよ
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記事:廣渡一子(チーム天狼院)
みんな、人の恋愛話が好きなものだ。
幸せいっぱいの話よりも、修羅場とか別れそうとかそういう話の方が盛り上がる。
人の不幸は蜜の味って言うけれど、確かに。
人の不幸という蜜の味なんて舐めなくてもいいのに、自分から舐めに行ってしまう。
それどころか、「どこかに蜜はないか〜〜」って探している。まるで泣く子を探すなまはげみたいだ。
この前も、友達カップルの恋愛事情について勝手に噂話をしていた。
「なんかねー、この前聞いたんだけど」
「最近、あんまり好きじゃないかもって言ってた」
「えー、なんで?」
「想像力がないところが嫌になるんだって」
「そうなんだ、じゃあもう別れるのかな?」
「ううん、別れる方が色々と面倒くさいから、自分からはフらないらしい」
「ふうん」
ふうん、と話を聞きながら、私は内心ドキリとしていた。
“想像力”という言葉が喉に引っかかった小骨みたいに残った。
唾を飲み込んでも、お茶を飲んでも取れない。
結局、友達の恋愛話も適当に流れて、一人になっても取れないままだった。
小さい頃から、想像力が欲しかった。演劇をやっていたから、自分が演じる役の心情とか、「この子ならこういう行動をするよね」「こんなセリフを言うはず」とか振る舞いや立ち方、話し方を考えないといけなかった。
一人の人間をまるごと想像して、それを自分の体を使って表現する。それが演劇だし、それが楽しかった。想像が甘いと、それくらいの演技しかできない。
舞台監督に、「もっと想像力を働かせて」とダメ出しを食らうこともいっぱいあった。
だから、私の中では「想像力=クリエイティブ」だったし、想像力が豊かになれば演技ができるし、いいものを創れるし、人の心を動かせる。いい役者になれる。そう思っていた。
演劇を長く続ける中で、私はしっかり”想像力”を育んだ。
それともう一つ、想像力とシナジー効果があるのが「感受性」である。
こちらについてはもともと結構得意だった。役だけでなく、他人の気持ちにすぐに感情移入してしまう。ドラマは毎回ボロ泣きだし、センター試験本番の国語でも問題を解きながら泣いてしまった。母から「あなたは感受性が強いね、誰に似たの」と言われるのは褒め言葉だと思っていて、嬉しかった。
創作とか感動っていいなぁ、何か人を感動させられるものづくりをしたいな、って気持ちを持って大学生になった。
それからしばらくして好きな人ができて、付き合って、記念日を重ねていった。何一つ問題がなくて、喧嘩もなかった。相手に直してほしいところも嫌なところもなかった。
でも。相手は私を大切にしてくれていたのに、私は彼のことをグサグサに傷つけてしまったのだ。自分がされていたら絶対に許せなくて悲しいことを、彼にしてしまった。
「自分がされたら嫌なことは人にはしない」そんなばかみたいに当たり前のことが抜け落ちていた。彼は優しいから、私が自分から相談してくれるのを待って、気づいていないふりをしてくれていたみたいだった。
彼の心が擦り切れてしまったときにはもう修復は不可能になっていた。
お互いに相手が一番傷つく言葉を選んで、心ない言葉と態度で別れ話をした。心の底から自分が嫌になって何度も心の中で自分を殴った。でも彼の痛みはこんなものじゃなかっただろう。彼のことを思い出すと、最低最悪な自分のことを思い出してしまう。だから考えないように蓋をして過ごしていた。
けど、不意に引っかかった小骨がチクチク痛みだしたら、彼のことを思い出さずにはいられなかった。
……想像力だ。私になかったもの。そんなのとっくに持ってると思ってたのに。
想像力は何かすごいものを作ったりするための力じゃない。隣にいる人のことを思いやること。ただそれだけだったんじゃないか。想像力を持ってることは何もすごいことなんかじゃない、褒められるようなことじゃない。当たり前のことだ。人が人と一緒に過ごすのに、絶対なくてはならないもの。
この話だって、きっと誰かに話したら蜜の味なんだろうな。でも、それでも伝えたい。
想像力を持たなければ、大切な人を傷つけてしまうことを忘れないでいたいから。
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