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気を使うのを辞めて正面からぶつかると新たな次元の関係になる


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【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:濱中 伸幸(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「一緒に働いていた頃楽しかったね」
「あの頃は本当に商売してたと思うわ」
「時代やなあ、あいつが店長やで」
「昔やったら、店長なれへんかったタイプやなあ」
「そうや、商売のこと何にも知らんやつや」
「まあ、悪いやつやないけどなあ」
 
先週、前職の会社の先輩の還暦のお祝いで集まった。
5人のうち、先輩と僕を含む3人はいずれも選択定年制度を利用して百貨店を辞めた。残る2人はまだ現役。僕は5人の中で、一番年下だ。
 
僕は還暦になった先輩の直属の部下だった。
できの悪い部下だったが、係長試験の際、推薦状を書いてくれた。
その年、上司である先輩も課長試験だった。
 
結果、僕が昇格し、先輩は試験に落ちた。
次年度からは2人とも同じ係長。
10歳違いの先輩と月給が同じになったのだ。
「なんでお前の推薦状書いた俺が同じ給料やねん!」
同じなわけないと思っていたが、全く同じだった。
同じ売り場担当だったので、その後のボーナスも同じ金額になった。
 
横並びになって、いきなり先輩の勤務態度が変わった。
全く仕事をしなくなった。
 
百貨店で売り場のマネジャーとして売り場運営をするのに、
やる気をなくしてしまっていた。
2人は百貨店の自主運営平場という区画を運営していた。
お取引先販売員はいるものの、8割の商品は社員で販売する売り場。
僕より社歴の長い女性社員が20名。僕より下は7名。今では考えらない大所帯のモデル売り場だった。
僕はその売り場のバイヤーとして、仕入業務でいろんなお取引先と商談したり、展示会に出かけたりした。
 
バイヤーに昇格してお取引先の態度がごろっと変わった。
「バイヤー、バイヤー」って言われることが誇らしかった。
一般職とバイヤー職では取引先対応は格段の差があった。
 
でも、身内の元上司である先輩は違った。
「なんでこいつと一緒の給料やねん、おかしいやろ!」と、お取引先、売り場の社員の前でぎゃんぎゃん言っていた。
 
「マネジャーお認めください」といって取引先販売員さんや社員が近寄っても、
「あいつにハンコもらえ」と言って僕に業務をふって蹴散らしていた。
僕は、マネジャーが押すべき承認印も代行印を押した。
「ごめんね」などと言いながら、マネジャー業務の仕事をこなしていた。
 
3月4月5月と全く仕事をしない元上司である先輩にだんだん腹が立ってきた。
最初は遠慮していた。
気がすむまで、売り場のことは全て僕がやれば良いと考えていた。
でも、僕はバイヤーなので、外に出ることが多い。それなのに、売り場で起こった問題を先輩は全て「あいつに聞けと」振り続けていたのだった。
 
半年前は部下だったからなのか。先輩の態度が変わらず、休みも取れず売り場のマネジメントをもこなしていた。
これじゃ、僕が全て売り場を回しているのと同じじゃないか。
僕は決心した。
「今日、言うぞ」
売り場のレイアウト変える日だった。
そう、3ヶ月、一切文句も言わず、ニコニコ楽しそうなふりして、でも全力で仕事をしてきて、限界が来たのだ。
 
仕事終わりに従業員用階段を2人で降りて、JR改札口で別れる手前で切り出した。
「ちょっといいですか?」
 なんかスイッチが入ってしまった。
「もうそろそろ、ちゃんと働けやぁ」
10歳年上にイキナリの言葉が出る。しかも巻き舌で。
自分の言葉にびっくりしながら、
「いつまでも黙って働くと思ったら大間違いや!」
とまでまくし立てた。
とことんいかんとあかん! と思って言葉が出た。
 
本気でぶつかると先輩の顔がパッとかわった。
「すまん、明日からバイヤー業務してくれ! お前は外に行け! 仕入れに行け! 俺が売り場を指揮する」
当たり前のことなのだが、なんかカッコいいセリフに聞こえた。
 
そして、こう続けた。
「すまん、嫁はんとゴタゴタしてて、お前に任せっきりやった」
「俺、先月離婚してん」
知らなかった。てっきり、昇格試験に落ちてやる気を無くしてたんだと思っていた。そうなら、そうって言ってよね。ああ言うてしもた。
「お前が良いと思う商品は売れると思うだけ仕入れてこい! 俺が全部売ってやる!」
名言出た!
今までの、損や得やという気持ちがすっと消え、もっと頑張らなあかんという気持ちが湧いてきた。ボッと心に火がついた。
 
その日から僕は仕入れ業務に力を入れた。
売り場の予算が毎月達成するようになった。
二人ともボーナスの査定は婦人服部内トップで共同での売り場運営を終えた。
マネジャーとバイヤーとして売り場を運営したのは1年間だけだった。
 
それから18年立って、先輩が60歳 僕が50歳になる今年。
先輩の還暦のお祝いができた。
台湾茶を飲む茶器をプレゼントした。
今まで見たことのない嬉しそうな顔。
「俺これ欲しかってん!」と言って笑った。

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2018-05-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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