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プロフェッショナル・ゼミ

「戦わない」で生きること《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:たけしま まりは(プロフェッショナル・ゼミ)
 
「“毒”のこもった文章は大変危険です。“毒”は必ず自分に返ってきます」
ライティング・ゼミの講義の中で、講師の三浦さんが特に強調しておっしゃることだ。
天狼院ライティング・ゼミではライティングに関するさまざまな極意を学ぶことができるが、なかでも強くおっしゃるのは「“毒”は取扱注意」だということ。何回も繰り返しおっしゃるため、自動車教習所で「危険運転ダメ、ゼッタイ」と強く教えられているような気持ちになり、聞く側も「気を付けねば」という気持ちになる。
 
とは言え、わたしはこのことについて、どこか他人事のように聞いていた。
「そりゃそうだよなぁ。普通に考えて危ないもん。わたしはそんな危ない橋は渡らないタイプだからまぁ大丈夫でしょ」
“毒”の話があったときは、そんな風に気楽に考えていた。
このときは、そのあと自分が“毒”におぼれる事態が起こるなんて、思ってもみなかった。
 
きっかけはライティング・ゼミの課題記事がボツになったことだった。
わたしの身にふりかかった理不尽な出来事について書いたもので、そういう理不尽なものや違和感を無理に飲みこまずに、吐き出して立ち向かうべきだ、というような内容の記事を書いた。
三浦さんからは、よく描けてはいるけれど厄介な出来事に対する処理のスタンスが違うため掲載は見送る、「戦わない」というスタンスもあるという丁寧なフィードバックをいただいた。
フィードバックをいただいたとき、わたしは自分の未熟さを痛感するとともに「戦わない」という処理の仕方があるのか、ということに目からウロコの衝撃だった。
 
わたしは理不尽な出来事や違和感に遭遇したとき、敏感に反応してしまう癖があった。
書いているときは特に気にならなかったのだが、フィードバック後にボツになった記事を改めて読んでみると、わたしのカッとした感情の“熱”が込められた、危うい文章になっているように感じた。三浦さんのフィードバック文から滲み出る冷静さにもわたしはハッとさせられたのだった。
 
三浦さんのフィードバックを肝に銘じつつも、ほかのみんなはどう思うのだろうと気になった。
WEB天狼院書店では掲載見送りになってしまったから、自分のSNSで発信してみよう。
そう思い、SNSで「いろんな人の意見が聞きたいです」と加筆し、記事を公開した。
それからしばらくして、ある友人から「読んだ」旨の返信が来た。
素早い反応に嬉しく感じたが、わたしは返信の内容に盛大にもやもやしてしまった。
 
すごく簡単に言うと「あんた気にしすぎ、うまくかわしなよ」という内容だった。
世の中の出来事にそんなに敏感だったらさぞ生きづらかろうと心配してアドバイスをしてくれたのだろうが、わたしは厄介な出来事への対処法以前の「気にしすぎ」というところで指摘されたのが悔しく、世の中に順応できないわたしが悪いと責められたような気持ちにもなり、カッとなってしまった。
 
えぇ〜、なんでそんなこと言うの〜!?
そりゃ、「気にしない」ができたらいいけどさ〜!
できなかったからこの文章が生まれたわけで……!
でもやっぱりわたしが気にしすぎなのか……!? いやそれにしても……!
 
友人の言葉がトゲになって胸に突き刺さり、そのまま取れなくなってしまった。
ショックのせいか、手足が急速に冷え、身体がこわばる。
黒い感情が、ひたひたと迫り来るのを感じていた。
 
友人にわたしの気持ちをわかってもらおうと思い何通かやり取りをするものの、噛み合わない会話が続く。友人のアドバイスが上から目線に聞こえ、わたしは素直に受け止められない。
アドバイス自体はもっともなことだった。
けれど、わたしがいま欲しいものは、それじゃない。
この気持ちがどうにもうまく伝えられず、手足の冷えはおさまらない。
お互い一歩も引かないまま会話が続き、わたしはお互いが平行線でまったく交わろうとしないこと、このままではずっと分かり合えないことに恐ろしさを感じた。
それでもわたしは自分の激情を抑え込めなかった。
自分の黒い感情が、こんなに強いものだったなんて。
恐怖に震えた。このときのわたしは黒い感情の森に迷い込み、どうにも抜け出せそうになかった。
そしてお互い腑に落ちないまま、友人とのやり取りはなんとなく終わった。
 
その後しばらく経ってもわたしはこのもやもやを消化しきれず、ツイッターで対人関係の格言のようなツイートを探してはお気に入りに保存した。「いいな」と思ったものはリツイートして拡散した。
いま思えば、このときのわたしは“毒”におかされていつも通りの判断ができなかったのだろう。
友人のアドバイスを窮屈に感じたわたしは、友人の発言に反抗するようなツイートを拡散した。
そして友人はそれを察知し、そのツイートの反論を厳しい言葉でつぶやいた。
 
いつまでも悲劇のヒロインでいるな! 泣いたって問題解決にはならない! とたしなめるような内容だった。
これまたもっともなことだったが、わたしにとっては傷口に塩だった。とどめのパンチを受け、わたしはしばらく呆然としてしまった。
 
なんでこんなことになってしまったんだろう……。
このままスマホを触ってしまうと、もっと良くない事態になることが本能的にわかり、わたしはスマホを置いてうなだれた。
 
うわぁ~勢いでやっちゃったぁ~~わたしのバカ野郎~!! と思うのと同時に
いやでも……なんでここまで言われないといけないんだろう……。
と、わたしのなかの悲劇のヒロインがひょっこり顔を出す。
さきほどの出来事を反芻し、ひとりでのたうち回る。その間、悲劇のヒロインはフラメンコのように激しく情熱的に踊っていた。
 
そのまましばらくぼぉっとしていたが、ヒロインの踊りがいっこうに止む気配がない。
やはり気を紛らわすために何か違うことをやろうと思い、ふたたびスマホを手に取った。
今度はSNSを見ないように……通販サイトをながめたり、ファッションブログをのぞいたりと画像を中心にネットサーフィンをした。
しかし気持ちはまださきほどの出来事にひっぱられていて、おしゃれな洋服を見ても気分があまり上がらない。
あのとき、どうするべきだったんだろう……。
 
三浦さんの「戦わない」というスタンスをふと思い出す。
「戦わない」って、どういうことなんだろう。
「我慢する」こととどう違うのだろう。
はっきりとわかったわけじゃないけれど、少なくとも「戦わない」ことはさっきのわたしみたいな反応をしないことだとは思う。
はぁ……。
 
深くため息をつきながらネットサーフィンを続けていると、偶然「SNSでの対話トラブルから自分を守る方法」というタイトルの記事を見つけた。
そういう記事を探していたわけではないのに、まるで自分が引き寄せたみたいだ。
気になる。どうすればいいの。
有料記事だったがその記事を購入し、すぐに記事を読み込んだ。
 
その記事には、トラブルに対する具体的な対処法が書かれていた。
それは三浦さんがおっしゃっていた「戦わない」ことと通じるものがあった。
その対処法はすごく簡単なことで、すぐにでも実践できることだった。
それから記事をすべて読み、わたしはすぐにこの対処法を実践した。
 
わたしはその対処法を実践しながら、自分の心と身体を観察した。
美味しいごはんとお酒を飲んだら、身体のこわばりはなくなっていった。
家に帰ってお風呂につかり、丁寧に身体を洗ったら、手足の冷えも感じなくなった。
好きな作家さんの本を手に取り、美しい文章に触れると心がやわらいだ。
それでも、ときおりさきほどの出来事がバッと思い出されて、その余韻に悶々とした。
記事に書かれた対処法と三浦さんの「戦わない」という言葉を心の中で唱えて、それをやりすごした。
 
ショックな出来事から一日後、だいぶ気持ちが落ち着いてきたときに、わたしは昨日の自分の深堀りをした。
 
わたしはあのとき、焦っていた。
いち早く一人前のライター、書き手になりたくて。
自分の実力を認められたくて。
 
「書く」ことで一人前になるためには、熱量がなければだめだ。
そしてもちろん、書く量を増やさなければだめだ。
これは講義でしばしば言われることだ。
今受講しているプロゼミは、言わずもがなレベルがすごく高い。
巨大なロデオマシーンに、受講生全員が乗っている感じだ。
わたしたちはレベルの高い講義や課題、厳しいフィードバックに振り落とされないようにしがみつく。
一週間を区切りに課題を出し、フィードバックという名のロデオは動き、受講生たちの何名かは振り落とされる。
ロデオにしがみつき続けられる体力と気合い、ロデオを乗りこなす技量がなければいとも簡単に振り落とされてしまう。
わたしももちろん何度も振り落とされた。
そのぶん掲載されたときの嬉しさはひとしおだった。受かっても落ちても、次も・次は絶対にしがみついてやる! という気持ちで毎週奮い立たされた。
プロゼミを受講して1ヵ月半ほど経ち、ロデオの厳しさにも慣れてきたところでわたしは「プロになるためにはもっと高い意識でのぞまなければいけない」というプレッシャーを自分にさらに課すようになっていた。
 
そして先日のフィードバックで自分の力不足を感じ、焦ってしまったのだ。
文章のおかしさでボツになったわけではないのだから、誰かがわたしの文章を認めてくれるはず、という下心もあった。
だから思ったような反応が来なかったことに過敏に反応してしまったのだ。
わたしの事情なんて、友人からしたら「知らんがな」なのに。
そしてわたしも友人の事情なんて細かく知らない。友人はわたしの承認欲求を察知し、「社会はそんなに甘くない」と言ってやりたくなったのかもしれない。
事情はどうあれ、そういう文章を書いてしまったわたしが悪い。
一日経ち、自分の力不足を落ち着いて受け止めることができた。
 
深堀りをすすめながら、「戦わない」ということは、いち早く冷静さを取り戻すことがキモなのだろうと思った。
あのときのわたしに足りなかったのは、その場の状況を客観視できる冷静さだった。
焦れば焦るほど、冷静な判断ができなくなり、暴走してしまう。
暴走の先には“毒”がある。“毒”は危険なものだとわかっていたし、平和主義なわたしは“毒”を扱うことはないだろうとタカをくくっていた。
けれどあっさり“毒”の魔力に吸い寄せられ、あらがえなくなった。“毒”に全身をとりこまれて、コントロールが利かなくなった。
 
わたしは“毒”の怖さを思い知った。
黒い感情の森は、薄暗く、出口なんてないような気がした。自分の力ではどうしたって抜け出せないような気がしてどんどん気持ちがふさいでいった。
 
「戦わない」ことは、冷静になって、自分の足場を固めることなのかもしれないと思った。
黒い感情の森で、行き先が見えないときに、とにかくいま自分がどの位置にいるのかを確かめるのだ。
ここは平たい道なのか、山場なのか、砂利道なのか、道なき道なのか。
いま自分の置かれている環境がわかれば、その環境にあった適切な対処法を見つけることができる。
それがわかるまでは、自分の身体を鍛えたり、休んで体力を回復させたりして、自分の足場を固め続けるのだ。
 
ショックな出来事から二日経ち、自己分析ができたことでわたしの心はだいぶ復活した。
傷口が癒えたとはまだ言えないものの、ショックな出来事からたくさんの発見と学びを得ることができたことは確かだった。
今回のことはわたしにとって大きな教訓になった。
「戦わない」で生きることが実践できたわけではないが、冷静になれれば「戦う」という選択肢がおのずから外れることを実感した。これからは深く心に刻んで生きていこうと強く思った。
 
それからもう一日経ったいま、ついカッとなって感情のコントロールが利かなくなったとき、わたしは自分のなかにいる「関西のおばちゃん」が暴走してしまったんだと思った。
誰もがイメージするような、派手で威勢のいいおばちゃん。なんでもないことでもオーバーリアクションをとり、ツッコミを入れまくり、「いけいけー! 負けたらあかんでー!」とわたしを鼓舞させてくれるのはとても頼もしいのだが、たまに暴走してしまう。
わたしのなかにいるのは本物の関西のおばちゃんにはまだまだ遠い、未熟者のおばちゃんだ。
けれどおばちゃんがいると思えば自分を責めすぎることなく「おばちゃん、落ち着いて!!」と声をかけることができる。
これからは本物のおばちゃんのようにたくましく、頼もしい存在に育てていきたいと思っている。
 
たぶん“毒”のない人間はいないし、理不尽な出来事が消えてなくなることもない。
そんなカオスな世の中で自分の“毒”をコントロールして「戦わない」姿勢をとるのはけっこう難しいことかもしれない。
 
けれど、実践する価値はじゅうぶんにある。
わたしはいまそれをひしひしと感じている。
 
※参考記事:瀧波ユカリ「SNSでの対話トラブルから自分を守る方法」
https://note.mu/takinamiyukari/n/n46e30bb3b2e5
 
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