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メディアグランプリ

母親失格


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:朝香(ライティング・ゼミ平日コース)
 
ある晩、当時5歳だった息子が、
「ママ、おちんちんにポツンがあるよ。」
と言ってきた。恐れていたことがとうとう起こった。私は頭に血がバーンと上がり、顔が紅潮し、胸がドッキン、ドッキンして苦しくなった。そして息子をきつく抱きしめた。
「あー、ごめんね、ごめんね。」
心の中でそう叫んだ。私は性器ヘルペスをもっている。子どもに感染しないように最善の注意を払ってきたつもりだった。この病気がうつったら人生が台無しになる。性欲の元気な20代だって、性生活を楽しめなくなる。いつも相手に感染するのではないかと心配しながらのセックスを強いられるからだ。そして、働き盛りの年頃も、性器に水疱ができているときは痛みがひどく、健常な人のように働けなくなる。それから、免疫力が低下させないように、セーブしながら生活しなければならなくなる。性生活においても、ビジネスマンとしても、若さを満喫できない体にするのがヘルペスだ。そんな病気を私は持っている。
 性器ヘルペスだけでなく、口の周りにできる口唇ヘルペスも、感染力が強く、そして一度感染したら体にずっと潜み続けて絶対に完治することはない。それゆえ、人に嫌われる病気であり、それだけに患者の心の負担は大きい。そんな苦労をずっと経験してきたからこそ、子供にはこの苦労をさせたくなかった。ヘルペスを持つ母親ならきっと皆同じ心配をして苦しんでいることと思う。ヘルペスを子供に移してしまうくらいなら、子供を産むべきではなかったと思うし、子供がヘルペスで苦しみながら生きる姿を見るくらいなら自殺してしまいたいと思うほどである。
 どの親も子供には健康でいて欲しいと心から望むもので、子供が病気をもっていれば酷く心を痛めていることと思う。その病気が親から感染したとか、親からの遺伝だったりしたらなおさら辛いことと思う。
 現在小学校3年生の息子は不登校気味である。いじめに合っているわけではないが、友達ができなくて寂しいらしい。私は痛いほどその気持ちがわかる。私も友達ができづらく、ずっと寂しい半生を過ごしてきたからだ。こんな悲しい性格を遺伝させてしまってごめんなさい、私は心の中でよく息子に謝りながら、息子が私と同じように寂しい人生を歩むのかと思うと泣きたいほどつらかった。
最近は素人でもネット検索で、症状から病名を推測できる。私は今まで友達ができない理由をコミュニケーションが苦手な性格だからだと思っていたが、先日ネットで「社交不安障害」という病名に目が留まった。専門家が書いた本を読んでみたところ、私の症状にドンピシャで、私はこの社交不安障害という精神病であると確信した。そして息子もその精神病を遺伝しているのである。そう、私は精神病までもっていたのである。私のせいで子供にまた重い荷を背負わせてしまっていた。絶望感と罪悪感にさいなまれる。
私はその専門書を読んですぐに病院へ走った。精神病の薬なんて絶対に飲みたくなかった。人を廃人にする薬だと信じていた。しかし、今回は子供のためだと思い、その信念が簡単に折れた。まず私は精神薬の実験台になろうと思った。薬を飲むことでどんな効果があるのか、自分の体で人体実験をして、もし効果があるのなら、将来子供が私くらいの年齢になったら飲んでもよいのではないかと思った。若いうちから薬を飲ませたくないが、50歳になって辛くてしょうがなければ薬も選択肢に入れてもいいのではないかと思ったのである。
また、薬によって社交的になるのなら、それを利用して友達を作りたかった。それは私のためにではない。私は独りぼっちだっていいのだ。私は子供のために、自分に友達が欲しかった。友達付き合いというものを子供に教えてあげるには、まず私が友達を作らなければならない。子育てをして分かったのだが、夏のプール、秋のお祭り、一年中の公園遊び、どれも母親がママ友と一緒に子供を連れていくのである。私が1人で子供を連れてプールや秋祭りに行っても、友達同士で来ている人たちに囲まれて、逆に子供に寂しい思いをさせるだけなのである。まずは私が友達を作って、ママ友たちと楽しい企画をしてあげなければならないのである。そのためには薬で社交的にならなければならないのである。
薬は効く。口元がいつも笑っている。なんだか楽しい。人が好きになる。普通の人はいつもこんな感じなのだろうかと驚く。これなら友達を作れると自信がわいてくる。きっと年末には子供のために楽しいクリスマス会を開いてあげあれるだろう。
気が狂っていると思われるかもしれない。しかし母親とはそんなものなのだ。自分のせいで子供につらい思いをさせてしまった場合は特に母親を狂わせるのかもしれない。子供のためならどんな苦労も厭わない、母親の執念とは恐ろしい。
 
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2018-11-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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