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メディアグランプリ

進むために立ち止まる、ということ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:甲斐(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「私は一体、何をやっているんだ」
新大阪から東京へ行く最終の新幹線に乗っていた。ジャケットを脱ぎ捨て深くシートに沈み込む。昼間から何も食べていない胃が痙攣して、トイレに駆け込んだのは名古屋を過ぎた辺だろうか。好きな曲も耳障りになってイヤホンを放り投げた。車窓を覗き込んでも外は真っ暗、目に映るのは肌荒れの酷い自分の顔。身体はものすごいスピードで進んでいるのに、どこへも行けないような漠然とした不安に駆られる。考えることをやめたくて、東京につくまで目を閉じてやり過ごすことにした。
 
「えっ、会社やめちゃうんですか!?」
そんな毎日がずっと続くと思ってた頃。私が新卒入社し配属された広報室の直属の上司がランチに誘ってくれた。入社して最初の評価面談で「3年後にはあなたに広報室を任せて転職したいの、はやく成長してね」と本気か冗談かも判別できない真顔で言われたことは一生忘れない。論理的、冷血、鬼軍曹。そんな風に陰で囁かれていた人の下で働いていた私は、その評判と違えない指導に打ちのめされそうになったこともあるが、裏表なく真摯に向き合ってくれる、そんな姿勢を信頼し、尊敬していた。
そんな先輩がついに転職をするらしい。それは、子会社の広報室立ち上げの命を受け1人子会社に出向し見事失敗、変わりに営業で全国飛び回るようになってから半年が経とうとした頃だった。
 
そう。見事失敗した。かなり早い段階でのことだった。鼻息荒く張り切っていたのも束の間、子会社の社長から「今広報とか言ってる場合じゃないんだよね」と一言言われ、あっという間にやる気が砕け散った。自分の存在意義を見いだせなくなった。それでも本社にとんぼ返りするわけにもいかず、とりあえず営業という肩書を与えられた。
やりたいことじゃない、事業に全く興味がわかない、背負った金額がしんどい、出張もしんどい、会社に愛着とかない、会社に馴染めている気がしない、気楽に相談できるメンバーもいない。そして、冒頭に戻る。
 
だから先輩が仕事を辞めると聞いた時、正直嬉しかった。先輩がいなくなれば広報室を任されることもない、これで先輩の期待を裏切ることがなくなる、晴れて私も自由の身! のはずなのに、惨めな思いで胸がいっぱいになる。私が子会社に出向している間に、他の後任が見つかったということだ。結局、先輩の期待に応えるほどの成長はできなかったし、想いを裏切ったことには変わりはないと思いいたる。
頭がぐちゃぐちゃ状態の私を知ってか知らずか、先輩は食後のコーヒーを飲みながら軽い調子で私にいった。
 
「あなたも転職したら?」
スキルは身についてるし、まだ若いし、とか色々言われたはずだが自分の不甲斐なさに打ちひしがれていたためあまり覚えていない。だが、このまま悶々とした気持ちで毎日を過ごしてはいけないということには薄々気がついていた。店をでて会社に戻る道すがら、先輩に言った。
「私も、転職しようと思います」
 
それからは早かった。早速エージェントに登録し、すぐに社長に退職の旨を伝え、最終出社日を確定させた。引き止められることもなく、特段心配されることもなく、トントン拍子にことは進んだ。心のどこかでは私の存在意義を認め、引き止められたかったのかもしれない。そんな風に感じていたのかと、最終出勤日になって気がついた。
 
有給消化含め1ヶ月と半分の長い休みは転職活動に当てた。目標は1度失敗した、広報部門立ち上げが出来る会社に入社すること。色々な企業と面接をしていると、私のスキルでも求めてくれる会社がたくさんあり、先輩の言っていたこともあながち間違いではなかったと知った。
 
そうして、小さなコンサルティング会社に入社することにした。その理由は希望の広報部門立ち上げができるだけではなく、社員一人ひとりが専門性を持ち、それを認められ信頼されて働く姿が印象的だったからだ。この会社の一員となり、私も広報的な専門性が認められて、会社の成長に貢献していきたいと強く思った。全く知らない業界で不安はあったけれど、それ以上の希望と期待に溢れて飛び込んでみることとした。
 
そうして現在、入社してから1年が経とうとしている。努めて客観的にこの1年を評価してみると、結果としては「負け」だ。前職で「今広報とか必要ない」と言われた時と同様に途方に暮れ、自分の存在意義を見失い、不安に押しつぶされそうになったし、少し泣いたこともある。
 
けれど、それは当時とは何もかもが違う。
スキルや知識、経験がなく求められているレベルに達していない能力のなさに途方に暮れている。やりたいことがうまく伝えられない不甲斐なさに、どこからともなく不安を感じる。すごい人が誰よりも努力していることに気付き、自分が口先だけの人間だったということを知って、存在価値を見失っている。これまで仕事で出会わなかったような文化も働き方も価値観も違う人たちに出会い、とても狭い世界で生きていたことを知り、愕然としている。
自分はこれまで何をしてきたんだと思うと後悔しかなく、少し泣いた。
間違いなく立ち止まっている、それなのに不思議と進んでいる感覚もある。自分に足りないものがたくさんあることに気がついたから、もっと成長していかなきゃいけないと考え、行動するようになった。
 
立ち止まりながら進んでいると、ふと、あの新幹線で過ごした時間はなんだったのか思う。環境や人のせいにして、自分のダメなところを知りたくなくて、好きで立ち止まっていたのではないだろうか。もしかしたら先輩が転職を進めてきたのは、違う環境で学び直せということだったんじゃないか。社長に引き止められなかったのは、広い世界を見せようとしてくれたのではないだろうか。様々浮かんでくる。自分を守るために、身の回りの全てに責任転嫁していたのかもしれない。
 
だけど、もう私は立ち止まることはできない。立ち止まっていた分、たくさんのものを取りこぼしていたことに気付き、このままの自分で生きていくのはごめんだと思っているから。遠く長い道のりかもしれない。それでも、何度も立ち止まって、ときには少し泣いて、また前に進んで行きたい。今ではそう考えている。
 
 
 
 
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2019-07-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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