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数字は紙に書く!!


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記事:高林忠正(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
 
 
「数字は紙に書け!」
ある先輩のアドバイスである。
時間が経ってもなぜか色褪せない。
むしろ、いざというときに数字を紙に書くことで問いが生まれ、事実を確認して、思考が始まる。
 
 
そして具体的な行動から、本質ともいえる結論が生まれるプロセスは、今だからこそ体感できることかもしれない。
 
 
百貨店に入社した私は紳士アパレルのバーゲン会場に配属された。
1枚1,000円の紳士セーター、3足1,000円の紳士靴下、1枚500円の紳士肌着などをワゴンで販売するのである。
 
 
バーゲン会場は音に満ちている。
品物を販売する販売員の呼び込みの声。
品物を運ぶ台車の車輪の音。
レジスターの金属音。
品物を包装紙に包むときの紙の音。
 
 
そのなかで私たちは、常にスピードを要求され続けていた。
品物を販売するスピード。
品物を店頭に補充するスピード。
アパレルであることから、品物をたたんで整理するスピード。など
 
 
決して器用ではない私は、先輩の指示どおり動くことはカンタンではなかった。
 
 
配属されてまもないある日の午後、私は備品を取りに事務所に行った。
たまたまそこには、統括する最高責任者である部長がいた。
 
 
「売上はどうだ?」
部長には、部門の目標となる売上高を達成するという責任がある。
私は部長からごくごくフランクに聞かれたのである。
 
 
「売れてます」
 
 
それだけ言って持ち場に向かって戻ろうとしたそのとき、私はとてつもない力で二の腕をつかまれた。
私は事務所の隣にあった倉庫に引きづりこまれたのである。

 
 
「……?」
あまりの対応に驚いた私は声が出ない。
相手は安中さんというたたき上げの20年選手だった。
ひとことで言えば、仕事を身体で覚えている人で、全体の業務のとりまとめをしていた。
倉庫は安中さんと私以外、他に誰もいなかった。
 
 
「おまえ、部長がなにを聞いたかわかるか?」
 
 
「……」
 
 
「今いくら売れているか?ということなんだ」
 
 
こちらとしては、売れてるか?と聞かれたから、単純に売れてますよと言えばよいと思っていたのに実際はそうではなかった。
 
 
「部長が知りたいのは、今の売上高なんだ」
うかつだった。プロの販売員たれと言われていたのに、なにをすればいいのかさえ感じていなかったのである。
 
 
「(数字が)分かんなかったら、ウソでもいいから言っちまうんだよ」
仮にデタラメの数字を言ったところで判断するのは部長である。
そのとき以来、折に触れて、レジスターでそのときの売上高をチェックするようになった。
 
 

共通言語は数字であるという考え。
横っ面をひっぱたかれたような感覚で知ることになったが、それはまだ序の口に過ぎなかった。
 
 
その数カ月後、私は紳士肌着の販売の担当者となった。
それまでは、先輩の指示のもとに紳士セーターや、紳士靴下を販売していたのである。
開店前にワゴンに品物を用意して1日が始まる。途中で品物を補充し、閉店時には整理する毎日。
やらされていたのである。
 
 
ところが、今度はワゴン3台とはいえ、アンダーシャツや、パンツ、さらにはステテコなどの販売の責任者である。
自分で主体的に仕事をする立場である。
しかし、恥ずかしいことになにをしてよいやら分からなかった。
 
 
紳士肌着の担当となって1週間が経ったときである。
私のもとに、例の安中さんがやって来た。
 
 
「おい、今の売上高いくらだ?」
 
 
あの日以来、売上高のチェックは習慣化していた。
 
 
「はい、15万円です」
 
 
「昨日はいくらだった?」
 
 
「16万5千円でした」
 
 
「10日前の日曜日は?」
 
 
「……」
恥ずかしいことに答えられなかった。
 
 
「今月の仕入の利益率は?」
 
 
「……」
それも答えられなかった。
 
 
「共通言語は数字」と知ってはいても、なにも言えない自分がいた。
 
 
そんな私は安中さんから問われた。
 
 
今のままでいいのか?
それとも、
販売員として、自分で主体的に考えて、行動できることがいいか?
 
 
という選択である。
 
 
そりゃ、自分で判断して、行動できることがいいに決まっている。
 
 
安中さんは言った。
「数字を書くんだ」
 
 
え?!
 
 
なにを意味するのかと思った。
 
 
書くことは3点
 
 
自分が担当する紳士肌着の
◯日々の売上高
◯日々、仕入れた品物の金額と粗利
◯自分が感じた特記事項
 
 
これを毎日記録していくようにとのことだった。
 
 

入社早々のアドバイスとは違って、今回については、守らないとこの道で食ってはいけないというような危機感を感じた。
 
 
自分から「数字を書く」という行動にコミットした瞬間だった。
 
 
百貨店の店頭は、品物をお客さまに販売をすることが本業である。
 
 
その一方で、この「結果の数字を書く」という仕事は、自分たちの仕事を事実として確認することにあった。
 
 

とにかく、大学ノートに罫線を引いて、日々の売上高、日々の仕入の金額と粗利、そして行動の補足事項を書き進めていった。
 
 
1ヶ月経ったときである。
上司から言われた目標数字に極めて近づいていることを知った。
 
 
2ヶ月目に入ると、前日の売上高をはじめ、ノートに数字を書くことが成果の確認になった。
3ヶ月目に入ると、売上高の管理ノートは、日々の私たちの仕事になくてはならないものとなった。
 
 
そのとき、売上高をはじめ3つの指標が書かれたノートをあらためてオープンにして確認してみようと思った。
すると、驚いたことに自分が書いた数字が自分の分身のように思えてきた。
 
 
たかだかワゴン3台のバーゲン会場の品物でさえ、書いた結果を見ながら、「なぜ?」という問いが生まれるようになってきた。
 
 
初めての経験だった。
 
 
いつもの売上高を記録をしたうえで、
 
 
なぜ、この売上高なのか?
 
 
なぜ、この利益金額なのか?’
 
 
すべては、ノートに数字を書き入れることから始まったのである。
 
 
そして、定期的に振り返ると、その日の売上高、1ヶ月前の売上高が一枚の動画として再生されてくるのである。
 
 
数字を書いていると、なぜかピンとくるときがある
そこには必ず何かがある。
 
 
仮説でもいい。
書いた数字に対する「なぜ?」が生まれた瞬間である。
それはものごとの本質に気づいたときかもしれない。
 
 
以来、私はなにかあると、ノートに数字を書くようにしている。

 
 
 
 
 

***

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2019-08-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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