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メディアグランプリ

イライラを打ち上げ花火から線香花火にする方法


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Nada(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「帰りにアイス買ってきて! ハーゲン〇ッツ!」
同棲中の彼氏に「ご飯のほかに何かいるものある?」と聞くとこう言われた。はじめはかわいいと思った。アイスをねだる子供の様に感じて、にこにこして買ってきてあげたのが失敗だった。いつも私の方が帰る時間が遅いから、家に帰る前に何か欲しいものがあるか聞くことが習慣になっていた。
 
「何かいる?」
「大丈夫」
 
「何かいる?」
「じゃあ果物系のゼリー」
 
「何かいる?」
「デザート、お任せで」
2、3日おきの買い物リクエストにだんだんもやもやしてきた。お任せにしておきながら好みと違うものを買うと「センスないなー」と言われ、もやもやが増幅した。でも私はすぐには文句を言えなかった。自分の心が狭いのかも……と思ったり、経済的に彼の方が生活費を多く出してくれていることもあり、これくらいのサービスは許容範囲なのかも……と思ったりした。
 
ひゅるるる。
夏の花火は破裂するまでタイムラグがあり、空に上がるまでどんな形か分からない。私のもやもやした気持ちが徐々に空を目指していた。
 
家賃、駐車場代は彼が払ってくれている。代わりに私は食費と光熱費、インターネット使用料、車の保険料を払っていた。共に働いていて、彼は朝早く出かけ、夕方に帰宅。私は朝が少し遅く、夜に帰宅。彼は車通勤で私は電車通勤。彼曰く、車の場合は帰り道にどこかに寄り道するのは面倒らしい。家事の分担はほとんど私が行っている。晩御飯の用意、洗濯、掃除など。彼は唯一洗濯だけは手伝ってくれる。
 
「今から帰るわ」
「はいよ」
私たちの定型文と化したメールのやり取りが始まった。
 
「何かいる?」
「大丈夫」
今日は「大丈夫」の日だ。良かった。一安心して家路を急ぐと、ピロンと再度通知音がした。
 
「何かコンビニのおでん食べたい気分やわ」
え?今は夏だ。通常コンビニのおでんはやっていない。一度「大丈夫」と断っている様子を見るとどうしても、という訳ではないのが分かるし、「買ってきて!」 とも言っていない。そもそも晩御飯は前日の残りを食べた後のはずだ。でもなぜか私は使命感に襲われて、「分かった」と返信した。23時を過ぎ家路を急ぐ人が多いなか、コンビニのおでん探しが始まった。
 
1件目、ファミ〇ーマ―ト。ない。
2件目、セブン〇レブン。ない。
3件目、ミニ〇トップ。ない。
帰り道に行けるコンビニ3店舗には無かった。「ごめん、ないわ」私は電話で彼に伝えた。
「んじゃ、別にいいよ」
「代わりになるもん買ってきて」
 
どかん!
私の中で花火が破裂する音がした。でもまだ花は開かない。音だけが先行して私の感情を高ぶらせたが、すぐに怒る気力がないほど疲れていたため状況を冷静に考えはじめた。私は無言で電話を切り、代わりになりそうな焼き鳥を買って帰った。それを不愛想に渡し、その日は口を聞かなかった。彼は私の様子を見て、何か怒っていると感じているようだった。でも原因が分からないので、そっとしておくという手段を選んだようだった。
 
翌日、私はまず今までの食費を計算することにした。
ハーゲン〇ッツは一個400円。それを2、3日おき、週に3回買っているとして、月4,800円。なかなかの出費である。でもまだ彼にモノ申す根拠として足りないと感じた。私は仕事で見積もりを作成することがある。その時の根拠として一番大きなものは人件費だ。私はこれまでの家事をする時間と買い物をする時間を最低賃金の時給800円として、計算することにした。本当は深夜労働費も加えたい所だったが、彼もたまに家事をしてくれているので除外した。
人件費を追加したことで彼が生活費を多く出してくれているという引け目は無くなり、むしろ私の方が多く出していることが分かった。これを元に今後、高価なものを頻繁に要求しないこと、夜中に探さないと見つからないような無茶な要求をしないこと等、改善してほしいことを文章化した。イライラは書くとスッキリしてきて頭がクリアになってきた。私はもう少し多くの要求できるのではないかと考え、他にもイライラしたこと、直して欲しいことを追加した。
最終的に、2人の共有資産ではあるけれど、私はほとんど車に乗らないため車の保険料を彼に払ってもらうことと、早く帰れるときは洗い物やご飯を炊く等の家事をもっと手伝うことを要求することにした。私は花火師のように不備なく打ち上げを行うため、文章のなかに突っ込まれるところは無いか何度も確認し、着火した。派手な連続花火を打ち上げるつもりだったので気合を入れてスマホのボタンを押した。
 
すぐに既読がついた。
彼は一言、「分かった、ごめん」と返信してきた。
私は絶対に言い返されると思い論破するための材料を揃えていたため、かなり拍子抜けした。家に帰ったら口頭でも訴え、どんどん花火を打ち上げる予定だった。こんなにもあっさりと否を認め、要求を受け入れられるとは想定していなかった。家に帰り、その話題を出しても彼は同じ返答で、くい気味に謝ってきた。だから私はそれ以上何も言えなかった。
 
じじじじ、ぽとっ。
私のイライラは着火してみると線香花火のように火花を散らして形が変化し、そして一瞬で儚く終わった。
 
彼は冷静で賢く、有無を言わせぬ態度で解決に導いた。私は悔しさもあったけど、自分の否を早々に認める彼に尊敬の念を抱いた。
 
それから私たちは今のところ上手くいっている。
「今から帰るわ、ご飯炊いといてくれる?」
「もう炊いてる」
「ありがとう、何かいるものある?」
「いや、大丈夫」
 
私は「大丈夫」と言われてもたまにアイスを買って帰るようにしている。
あの時、冷静に分析し文章化したおかげで解決策が見つかったし、彼の新たな一面を知り、尊敬の念を抱くこともできた。根拠を持って要求を訴えること、それを文章化して伝えること、特に男性には感情的に口頭で伝えるのではなく、文章化して伝えることをおすすめします。

 
 
 
 
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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