テレワークに必要なのは、T字集中力とキッチンタイマー!《週刊READING LIFE vol.76「私の働き方改革~「働く」のその先へ~」》
記事:吉田けい(READING LIFE編集部公認ライター)
この記事は2020年4月11日に執筆している。
新型コロナウィルス対策のために緊急事態宣言がされたのは4月8日のことだ。不要不急の外出を避けるためにテレワークに取り組む企業も多いことだろう。かくいう私は、かれこれもう5年以上はほぼテレワーク状態である。なので、宣言が発表されても取り立てて何か準備するようなものは特になく、PCがあれば大体いつも通り仕事が出来る。経理なのでまだまだ紙の資料もあるが、全部自宅の事務所部屋に置いてあるので問題ない。
さて、緊急事態宣言を受けて、それまでオフィスまで通勤していた方がいざテレワークを始めてみたとしよう。対面や会議室でなければできないと思っていたことも、いろいろなツールのおかげで意外とスムーズにできることが分かるだろう。Webミーティングツールやメール、ファイル共有サーバーなんかがあれば、だいたいのことは同じフロアの少し離れた席にいるくらいのスムーズさで実行することができる。
だが、テレワークの本当の難しさは、一人で仕事をするときにある。
PCと机があれば、会社のデスクと大して変わらずに企画書を作ったり数字を入力したりできると思うだろうか。考えてみてほしい、自宅には何があるのか。読みかけの漫画、たくさん録画が溜まっているテレビ、続きが気になるゲーム。とっておきの美味しいお菓子、気持ちよさそうな外の空気、いつでも飛び込める風呂と布団! 何という事だろう、テレワークをするということは、オフィスで仕事している時は物理的に断絶されていたものたちに囲まれながら仕事をしなければいけないのだ。更に家庭を持つ人なら、夫や妻が仕事とは関係ない内容で話しかけてきたり、子供がちょろちょろまとわりついてきたりするかもしれない。誘惑を断ち切り、邪魔を押し切って、粛々と仕事を進めなければいけないのである、すぐそこに布団が待っているのに!
……私は集中するのが苦手である。本来ならオフィスのデスクで誰かの目を意識せざるを得ない状況でも、気が散って気が散って、やっとこさ仕事になるかどうかくらいの働きしかできない。それはテレワークをしている今でも同じことだが、石の上にも三年ではないが、私なりに集中のコツをつかんできたような気がしている。テレワークでもそうでなくても、集中力はとても大切だ。
今日は、緊急事態宣言=テレワーク時代に必要不可欠な「T字集中力」と、それを引き出すためのキッチンタイマーの使い方について話してみようと思う。
さて、私は現在テレワークで夫の会社の経理を担当している。夫婦で家事も分担していて、二歳の息子のお世話もしている。息子は平時ならば保育園に通っているが、今は登園を自粛しているので、ジジババに見てもらいながら仕事をしている状態だ。見てもらっているとはいえ、隣の部屋にママがいるとなれば、息子は何かと私の顔を見に来てしまう。ごはん前なのにアイスを食べていいかだとか、手を洗いたくないだとか、ママのPCでZOOM会議のあのお姉さんと話をしたいだとか、理由は何であれ、ニコニコしながら事務所部屋の扉を開けられてしまうと、招き入れて抱っこしてホニャホニャせざるを得ないのは致し方ないことだろう。
ぜんっぜん集中できない。
その他にも、何時になったら食事の用意だとか、洗濯だとか買い物だとか、家事が気になって集中できないという側面もある。テレワークで仕事と並行して家事が出来ることは、うまくいけばメリットになるが、優先順位を間違えるととんでもないデメリットになってしまうのである。
そんな時には、「T字集中力」のT字の横棒を意識するようにするとよい。
T字は物事の専門性と広汎性を両立させるモデルの説明によく使われるので、T字の横棒というだけでピンとくる人もいるかもしれない。横棒は広汎性、つまり浅く広く集中しろという意味だ。テレワークでの「T字集中力」の横棒の場合は、どんな内容でもいいから、手あたり次第できそうなことから手を付けてみることを指している。タスクの重要性や緊急性はあまり考慮しなくていい。なんなら仕事ではなく家事や掃除でもいい。とにかく何かタスクをこなし、完了させていく状況を作るのである。
これは、脳科学を絡めた自己啓発でよく言われている、「やる気はやり始めたら出る」を一つの原理として採用している。人間の脳とは不思議なもので、やる気を司る脳内ホルモンのドーパミンは、人間が何か行動を始めた後になってから分泌されるのだそうだ。ドーパミン分泌→やる気が出る→やる、ではなく、やる→ドーパミン分泌→やる気が出る、の順番になる。みんななんとなく前者のようなイメージで、何もしない状態でやる気ホルモン分泌を試みるが、それでは逆にやる気が出にくくなってしまうのだ。
手当たり次第に目の前のタスクに取り掛かると、集中できていないように見えるかもしれない。タスクを優先度順に整頓して、優先度の高い重要なものから取り組むべきと思うかもしれない。よくあるこのやり方は、タスク整理の時点で既にやる気が出ていて、集中力も高まっている状態でないと効果がない。私のように通常やる気がない人間にとって、タスク整理をした後、ずらりと並ぶタスクの数に嫌気がさし、ますますやる気がなくなってしまうとう罠も待ち構えている。それよりも、何も考えずにすぐに取り掛かれるものを手あたり次第潰していくうちにドーパミンを分泌させ、やる気と集中力を高めることが大切なのだ。
T字の横棒の、浅く広範なイメージを持ちながら、雑多なタスクをとりあえずしばらくこなしていく。そうしてやる気も集中力も高まったところで、満を持して優先度の高い重要なタスクにじっくりと取り組むのである。このじっくりと取り組むところがT字の縦棒にあたる。T字の縦棒は、専門や一点集中のものを深く掘り下げていくイメージだ。優先順位や重要度もそうだが、ボリュームが多かったり、難しく試行錯誤が必要なタスクもここで取り組んだ方がいいだろう。タスクリストを眺めて、「これ、やらなきゃいけないけど、ちょっとしんどい……」と思うようなタスクが該当する。
まずT字横棒のイメージで、すぐにこなせる小さなタスクをいくつもこなしていく。その後に満を持して、T字縦棒の、本命とも言うべきボリュームも重量も大きいタスクをこなしていく。これが「T字集中力」の鉄板パターンとなる。
私の場合、T字横棒は、仕事のタスクだけでなく、家事のタスクを当てはめることもある。平時なら息子を保育園に送って帰宅した後、ざっと食器洗いをして、脱ぎ捨てたパジャマなどを拾い集め、郵便物を整理する、そんな具合だ。仕事のタスクの時も、ちょっとFAXを送ったり、ルーティンの請求書を発行したり、そんな内容を当てはめている。T字縦棒は、手順が煩雑な書類の作成やVBAプログラミングと言った具合だ。
大切なのは、T字縦棒の作業に集中している時に、何らかの理由で中断せざるを得なかった時だ。中断させられた用事を切り上げて戻ってくると、せっかくいい具合だったやる気と集中力がなくなってしまっていることはよくある。ここで邪魔されて台無しになった、と腐っているようではテレワークは進まない。何事もなかったかのように、T字横棒のタスク消化をして集中力を取り戻すのだ。仕事のタスクが何もなければ、デスク回りを簡単に片づけたりするだけでもいい。そうして再びやる気を補充してからT字縦棒タスクに戻ると、嘘のようにスイスイ作業できるようになるのだ。
「T字集中力」のイメージ、だいぶ具体的になって来ただろうか。次は実際にテレワークで仕事をするにあたって大切な、時間配分について話そうと思う。
オフィス通勤からテレワークに切り替えると、就業時間を自宅作業時間に充てることが多いだろう。あるいは会社の規則でそのように定められているかもしれない。
テレワークで最も気を付けるべき時間配分は、開始時間、終了時間ではない。
休憩時間だ。
テレワーク中にちょっと休憩のつもりで読みかけの漫画を手に取ろうものなら、あっという間に一時間や二時間が経過してしまう。逆に、電話や問い合わせがないのをいいことに集中しすぎてしまうと、後半にダレてしまってかえって効率が悪くなってしまうこともある。ずっと座っていると気が滅入るので、ちょっと散歩や家事など気分転換もしたいが、どの程度までならいいのか、意外とバランスをとるのが難しいのだ。
私はテレワーク中の休憩時間の目安は、キッチンタイマーを使ったポモドーロテクニックを参考に定めている。
ポモドーロテクニックとは、イタリア人コンサルタントのフランチェスコ・シリロ氏が学生時代に考案した時間管理術だ。やり方は簡単、どこにでもあるキッチンタイマーを用意して、25分にセットする。その25分間は仕事に集中し、終わったら5分休憩。これを4回繰り返したら、次に10~30分程度少し長い休憩をとり、脳を休ませる。この大きなセットを繰り返していく、という実にシンプルなテクニックだ。ポモドーロという名前の由来は、昔はトマトの形をしたキッチンタイマーが人気だったので、そこから名付けられたのだと言う。テレワークでポモドーロテクニックを実践すれば、それだけで適切な休憩時間をとることができるようになるのだ。
(25分集中+5分休憩)×4回+10~30分の休憩のセットを1ポモドーロと言うそうだ。25分の小さな単位は1ポモと言うらしい。休憩を除くとちょうど4ポモ=1ポモドーロで2時間になる。就業時間が9時~17時の休憩1時間、実働8時間とすると、4ポモドーロ実践できることになる。そのまま長い休憩を省いて4ポモドーロ実践してもいいし、3ポモドーロと予備時間のように考えてもいいと思う。ポモドーロテクニックそのものでは、1ポモで何をするのかをタスクリストに書き出して、電話や急な来客で1ポモ内に実践できなかった場合はリスケをする、なんてルールも紹介されていたが、そんなに厳密に考えるのは私の性格には合わなかった。
私の場合は、一日は3ポモドーロ実践することにしていて、1ポモドーロ4ポモのうち、最初の1ポモでT字横軸のタスクを実践する。そこでうまいこと集中できたら、残りの3ポモをT字縦軸のタスクに充てるのだ。5分の休憩時間は、飲み物やお菓子をつまんだり、マジカルアイを眺めたり、庭の金魚に餌をやったりする。T字縦軸がうまく集中して取り組めていたら、休憩なしで90分通して仕事をすることも多い。合間の大きい休憩で、食事の用意をしたり、洗濯をしたり、家事も最低限は進められるように割り当てている。もう何度も繰り返しているので、毎回キッチンタイマーを使わなくても、今が何ポモドーロの何ポモなのか、次の休憩は何分なのか分かるようになってきた。
T字集中力をうまく引き出すために、キッチンタイマーでポモドーロテクニックをする。
何かと注意散漫になりやすいテレワークを乗り切るには、この組み合わせが最強なのだ。
これはテレワークというよりワーキングマザーあるあるだと思うのだが、保育園のお迎え時間が決まっていると、必然的に仕事の終わりの時間も定まってくる。自分の仕事の進捗にかかわらず、よほどのことがない限り絶対にお迎えにいかないといけないのだ。そうすると、絶対に今日の就業時間内に終わらせないとまずい! という状況にもなる。そんな時はT字集中力もポモドーロも無視して必死になって何とか仕上げるしかない。何とか終わらせて息子を迎えに行く道すがら、テレワークが始まる前、すなわち前の会社でオフィス通勤してた時は、危機感が足りなかったからあんなに残業していたのかなと思わずにはいられない。割に合わない仕事をしていて、人手が足りないから残業していると思っていたが、それは単に私が自分の時間をすべて自分に配分できる状況に胡坐をかいていただけだったのかもしれないのだ。
私の働き方改革は、テレワークになっただけでは終わっていなかった。
T字集中力とポモドーロテクニックで集中力をコントロールできるようになったことで、ようやく完成したのである。
ああ、それでもやっぱり、自宅は誘惑が多い!!!
□ライターズプロフィール
吉田けい(READING LIFE編集部公認ライター)
1982年生まれ、神奈川県在住。早稲田大学第一文学部卒、会社員を経て早稲田大学商学部商学研究科卒。在宅ワークと育児の傍ら、天狼院READING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。趣味は歌と占いと庭いじり、ものづくり。得意なことはExcel。苦手なことは片付け。天狼院書店にて小説「株式会社ドッペルゲンガー」を連載。
http://tenro-in.com/category/doppelganger-company
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
http://tenro-in.com/zemi/103447
関連記事
-
その一つの作業が世界に繋がっている《週刊READING LIFE vol.76「私の働き方改革~「働く」のその先へ~」》
-
なんとなくの風に吹かれて-激務で働いた女性会計士が専業主婦で子育てして気づいたたった一つの真実《週刊READING LIFE vol.76「私の働き方改革~「働く」のその先へ~」》
-
バイトすら怖かった私が社長になれた3つのヒント《週刊READING LIFE vol.76「私の働き方改革~「働く」のその先へ~」》
-
集中できる奴隷になって二足のわらじの夢を見る《週刊READING LIFE vol.76「私の働き方改革~「働く」のその先へ~」》
-
ゆとり世代の本気の働き方《週刊READING LIFE vol.76「私の働き方改革~「働く」のその先へ~」》