週刊READING LIFE Vol,96

「すみません、明日のお見合いの件で」 《週刊READING LIFE vol,96 仕事に使える特選ツール》


記事:射手座右聴き(天狼院公認ライター)
 
 
「すみません、明日のお見合いの件で」
電話の向こうで大きな声がする。私の電話ではない。
妻にかかってきた電話なのに。
あー。なんというタイミングだ。
ZOOMの向こうで、みんな笑いを堪えている。
Web会議の真っ最中。初対面の人もいる。しかも会議はまさに緊迫しているところだった。制作中だったTVCMの編集スケジュールをどうするか。
時はまさに、緊急事態宣言中。これは不要不急なのか。最小人数でやるとしても
誰と誰が立ち会うのか。そんな話の最中のできごとだった。
パソコンのマイクのバカバカ。必要な音だけ拾えばいいのに。
 
話は2019年に戻る。
その頃の私は、性格が本当に悪かった。ヘッドセットでwebミーティングしている人をバカにしていた。
Webミーティングなんて、パソコンのマイクとスピーカーで十分
そう思っていた。
知らない人がヘッドセットをつけているのをみて、
こんなことを思っていたのだ。
かっこつけやがって。
心の中で罵倒していた。
webミーティングに慣れているように見える
ちょっと知的に見える。スマートな感じもする。
そこに、少し反発を覚えた。
なんかいけすかない。片方の話しか聞こえないのがまたいらいらする。
このように偏見に満ちた目で見ていた。
 
パソコンのスピーカーでいいじゃん。パソコンのマイクでいいじゃん。
カフェでやるなよ。Webミーティングは会議室でやれよ。
2019年既にwebミーティングは急増していたのだ。
私は、CMやグラフィックの企画制作の仕事をしているのだが、
東京以外のクライアントさんのお仕事はskype率が5割を超えた。
「今回は、出張してもらうほどでもないので、スカイプでやりましょう」
クライアントさんのメンバーが会議室に集まる。
こちらも自前の会議室で待機する。パソコンのカメラから見える位置に座り
パソコンのマイクに向かって喋る。会議室と会議室をつなぐ。
そんなのがwebミーティングだと思っていた。
 
ヘッドセットなんかいらん。知らず知らずのうちにそう思っていたし、
モニターの向こうのクライアントさんも誰一人ヘッドセットなどつけていなかった。
 
事態は一変したのは、2020年3月からだった。
新型コロナウィルスは、webミーティングさえも変えてしまった。
「今からZOOMできますか?」
Stay homeしていると、そんな連絡がくるようになった。
ZOOMは、いままでwebミーティングだと思っていたものとは
全く違ったのだ。
 
一人ずつ一画面。え? なにこれ。
よく考えたら、みんな自宅で仕事をしているのだ。
背景もまちまちなら、接続もまちまちだ。
声の大きさもばらばら。
 
聞き取りづらいし、発言もしづらい。
「聞こえない」 と言われる時もあれば、こちらが言う時もある。
 
集中していないと話題に置いていかれる。
 
ところがそんな時に限って、宅急便がくる。
ピンポーン という自宅の音を10人近い人に聞かれるのだ。
 
かっこ悪いな。そして、疲れるな。
どうもZOOM会議は、勝手がちがう。そんな風に感じ始めた。
 
事件はその頃に起こった。
会議中に電話が鳴ったのだ。
私の電話ではない。妻の電話だった。
男性が大きな声で話している。
「すみません。明日のお見合いの件なんですけど」
あちゃー。
 
「なんか変な会話聞こえちゃってすみません」
会議が終わってから、クライアントさんに謝った。
「別にいいですけど、マイク付きのヘッドセット買うといいですよ」
 
マイク付きのヘッドセット!
あんなに嫌いだったけれど。
ごめんなさい。あなたを過小評価していました。ほんとうにごめんなさい。
 
会議中の声をしっかり聴きたい。
こちらの話も聞いてほしい。
できれば、宅急便に気づかれたくない。
ほかの会話はもっと聞かれたくない!
 
次の瞬間、私はマイク付きのヘッドセットの購入ボタンを押していた。
 
ピンポーン。
 
今度は会議ではない時間に宅急便がきた。
恐る恐るヘッドセットをつけてみた。
「なんか大袈裟じゃない?」
妻が言う。
「でもさ、この前、電話、会議中に聞こえちゃったから」
 
さあ、会議いつでも来い!
不思議なもので、こちらが待っているとなかなか会議のスケジュールが
入らない。
 
ヘッドセットの初仕事は、なんと。副業の恋愛相談だった。
これが意外と便利だったのだ。
30代女性の恋愛相談は、赤裸々だった。
いくら相談とはいえ、彼氏さんとのあけすけな話の相談に乗っているのを、
横にいる妻には、あまり聞かれたくなかった。
ヘッドセットをつけていれば、会話は聞かれない。
私が親身になって聞いているところだけが妻に見える。
これはいい。なんか俺いい人に見えるかも。
 
なんだか仰々しいけど、ヘッドセットいいな。
話を聞き漏らさないし、あまり大きな声でしゃべらなくても
相手に聞こえるし。
相談がおわってから、思った。
 
会議中も効果を発揮した。
あるとき、クライアントさんの担当の方とミーティングをしていた。
一度、納得してもらえたようだったが、彼がボソッとこう言ったのが聞こえた。
「あー、でもなー」
PCのスピーカーだったら聞き逃していたかもしれない。
でも、ヘッドセットだったから、ボソッと言ったつもりでも聞こえたのだ。
「あ、今何か言いかけましたよね」
そこから彼の不安を聞き出すことができた。
 
「今からZOOMできますか」
出先で言われることもある。最近は、出向くミーティングとZOOMミーティングが交錯している。つまり出先で、場所を探してZOOMすることもあるのだ。
 
やむなくカフェに入って、ミーティングする。
ヘッドセットがあれば話は聞かれない。そして、イニシャルトークにすれば
秘密の内容は聞かれずに済む。大事なことはチャットにする。
なんだ、カフェでヘッドセットでミーティングするのも、ありだな。
 
おいおい。2019年の私はなんだったんだ?
このように気づけば、マイク付きヘッドセットを毎日活用している。
たしかに、PCのスピーカーとマイクでいいと思っている人もいるだろう。
でも、雑音を聞かれたり、大事なことを聞き漏らしたり、
意外と欠点は多い。
 
やはり仕事にはマイク付きヘッドセットが欠かせないと思う。
 
最近、別の使い方を発見した。
居酒屋さんで、get wildを歌ったとき、小室哲哉さんの物真似ができるのだ。
そう。マイク付きヘッドセットには、人を楽しませる力もあるのだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
射手座右聴き (天狼院公認ライター)

東京生まれ静岡育ち。広告会社を早期退職し、独立。クリエイティブディレクター。再就職支援会社の担当に冷たくされたのをきっかけにキャリアコンサルタントの資格を取得。さらに、「おっさんレンタル」メンバーとして6年目。500人ほどの相談を受ける。「普通のおっさんが、世間から疎まれずに生きていくにはどうするか」 をメインテーマに楽しく元気の出るライティングを志す。天狼院公認ライター。
メディア出演:声優と夜遊び(2020年) ハナタカ優越館(2020年)アベマモーニング(2020年)スマステーション(2015年), BBCラジオ(2016年)におっさんレンタルメンバーとして出演

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2020-09-22 | Posted in 週刊READING LIFE Vol,96

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