リーディング・ハイ

怖いのは苦手。でも、止まらない。「百物語はお好きですか?」 《リーディング・ハイ》


ほしのさま 100

記事:しの(リーディング&ライティング講座)

 

腕を植えて生き直せれば永遠の植物としてあなたを愛す 東直子

 

この短歌を知ったのはいつのことだろう。

何かの本で読んだのかもしれない。もしかしたら、twitterのbotで流れてきたのかもしれない、

 

思い出せないけれども、

短歌を読んだとき、なんかいいな……くらいの感想しか抱けない私だけれども、

不思議でどこかひやっとする、心惹かれる短歌だった。

 

でも、なんで、腕なのだろう? 確かに腕は身体の中では細くて長くて植物っぽいけど、

なんで植物なのだろう……? 植物は動けない?

そもそも永遠の植物って、なに?

 

どこで知ったのかは忘れてしまったけれども、出会ったとき、ぐるぐる考えが浮かび、頭から離れなかったことは覚えている。

 

……

 

ある冬の寒い日、私はある大型書店の短歌コーナーの前にいた。

いろんな巡り会わせがあって、短歌を読んでみたいな、と思い始めたころだった。

 

短歌コーナーには色々な本があった。

短歌の入門書、鑑賞本、歌集……

はっ、と、一冊の本に目が止まった。

 

黒い背表紙に光る銀色の文字、どことなくぬめっとした筆記体の英語。

「うたう百物語 strange short songs 佐藤弓生」と、書いてあった。

 

その本を本棚から抜き取る。表紙は美しいけれどもぞっとするような植物と虫たちの絵。

中身をパラパラと見ると、短歌と掌篇の組み合わせが、百物語のように百篇綴られているようだ。

百物語……怖いの、苦手なんだけれども……。

ホラー映画一つ見られないような私は恐怖を覚えたが、どことなく心惹かれ、気が付くと書店の袋を提げて店を出ていた。

どんな短歌が載っているのか、そしてどんな掌篇なんだろう。そしてそれが百も……!

怖いけれども、わくわくしながら家に帰った。

 

その夜、布団に入ってページをめくった。

見開き1ページ。右ページから掌編が始まり、左ページの端に短歌。

文字の書体も、なんだか怪しい感じ。怪談っぽい。

一話目、短歌は見ないようにして、まずは掌篇を読む。

 

あなたのことは忘れました。

私の頭は、櫟(くぬぎ)の木のちかく、仰向けに埋められています。

 

不思議な冒頭。

読み進める。どうやら、「私」は殺され、死体をバラバラにされ、それぞれ違う場所に捨てられたようだ。

……怖い。ホラーとはまた違った怖さで、本当に怖い。

恐る恐る、読み進める。

 

私の脳も心臓も子宮も、あなたのことは忘れました。

腕は。

 

覚える、忘れるといったら脳のような気がするけれども、腕。腕?

読み進める。

 

腕はあなたを忘れないでしょう。

私には、腕を止めることはできません。

 

ここまで読んだ私は、なぜ脳や心臓、子宮が忘れても、腕があなたを忘れないか、分かっている。ぞわっとする恐ろしさと切なさ。うん、腕は忘れない。

そして……もしかして……

この掌篇の短歌は……

 

目を、左ページ端へ移す。

 

腕を植えて生き直せれば永遠の植物としてあなたを愛す 東直子

 

「……そうだったのか!」

布団の中で、ひとり熱く呟く。

やっぱり、東さんの短歌だった! 思ったとおり! そして、

そして、

腕、なんで腕か、ようやく分かった! ……ような気がする。

ちゃんと短歌を理解できているのか? と聞かれれば全く自信はないのだけれども。

でも、この掌篇と短歌を読んだ今では……なんとなく見ていた自分の腕にも、あの人の腕にも、愛着がわくと同時に、ほんのり恐ろしさを感じずにはいられない。

 

掌篇を読んで、それから短歌を読んだとき、掌篇も短歌も見え方がパッと変わった。

そしてまた最初から掌篇を読みなおす。

短歌と掌篇、相性がいいのだろうか。

一話目だけでも、東さんの短歌がもっと好きになってしまった。

佐藤さんの掌篇も、それだけでも面白いのに、そこに短歌が合わさると、パズルのピースがぴたっとはまるというか、光が違うところから当たって、ピントがあって、見えないところが見えるようになるというか……残念ながら私のお粗末な文章力では言葉にできない、ドキッとする魅力がある。

 

一話目だけでも熱く語ってしまったが、この本は短歌と掌篇が百も入っている。なんという贅沢!

掌篇を読んでから短歌を読むだけでなく、短歌に先に目を通してから掌篇を読んでみたけれども、それも面白い。

短歌と掌篇の間を往復せざるを得なくなって、ずっとそのページに留まってしまうけれども、その間は現実から浮かんでどこか違う世界にいるようで、寝る前の読書にぴったりだと思う。

 

でも、やっぱり怖くてひやりとするのも、また一興。

夜に読むのではなった……と思う作品もある。

……しかし、本当に怖いのは、百話目を読み終わったとき。

怪談の百物語は、百本目の蝋燭を消したとき、本物の怪異が現れるという。

この本では……?

 

実はここまで熱く語ってきた私も、少しずつ少しずつ読み進め、現在九十四話。

もうすぐ、百話目。

読み終わったとき、どんなことが起こってしまうのだろうか……。

 

本:『うたう百物語』佐藤弓生 発行・メディアファクトリー

 

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