リーディング・ハイ

蹴りたい人に出逢ったら《リーディング・ハイ》


ゆらさん ホテル

記事:ゆら(ライティング・ゼミ)

 

 

こいつに思いっきり蹴りを入れてやりたい。

そう思うことは多々あれど、本当に実行したことは、私の人生でただの1度きりしかない。

しかも、その時は、思うよりも先に体が動いていた。

高校生の時、通学バスで痴漢にあった時だった。

 

非常識な人、心ない人、自分の夢の邪魔をする人……みな、生きていく上で避けては通れない人たち。

だが、ついつい蹴り倒してしまいたい衝動にかられたとしても、なかなか実行するわけにはいかない。

だからといって、権利なく、私の進む道の邪魔をする人に、ただ心を乱されながら生きていくことが正解なのか?

 

「この世界にルールは無用。その代わり、絶体に負けてはならないということだ」

元アイドルと同時受賞という、史上最悪のデビューを飾った新人作家・中島加代子。

そんな彼女は、さらに「単行本出版を阻止される」「有名作家と大喧嘩する」「編集者に裏切られる」等、次々とトラブルに見舞われる。

しかし、加代子はどんなトラブルにも屈することはなく、絶対にあきらめることはない。

自分の夢の邪魔をする者は、どんな手を使ってでも蹴散らし、作家としての階段を1歩ずつ己の力で上っていく。

私にふさわしいものを求めて。

その手段を選ばない、絶対的なパワーは、そこまでやるか! と恐ろしくなる程。

 

『私にふさわしいホテル』

タイトルだけを見れば、キラキラ素敵女子による、素敵ホテルでの素敵時間の過ごし方を紹介する本なのでは? と思ってしまうが、柚木さんが書くものに限って、そんな内容なはずはない、と分かっていたからこそ手に取った。

毎回、女子の生態や状態を的確に描く柚木さんの作品は、女子あるあるに満ちていて、自分の傷に触れて、ダメージを受けることさえある。

なので、女子ならば、そのもどかしさに、そのやるせなさに、その愚かさに共感すること間違いなし。

 

また、本作では、作家の仕事や出版業界の裏側も赤裸々に描かれている。

島本理生、山本文緒、朝井リョウなども実名で登場。

「売れることや、作品を連発することだけが作家に必要な能力じゃないんだよ。一作一作丁寧に誠実に読者に語りかけるように書くこと……。それこそが作家にとっての財産なんだ」

という加代子の大学時代のサークルの先輩でもあり、担当編集者でもある遠藤の言葉は、深く響く。

私もそんな風に書きたいと願い、また、そんな本を読んでいきたいと思わされた。

 

自分に対する噂や悪口に屈せず、誰がなんと言おうと、私は正しいのだと、不屈の精神で突き進む加代子。

そんな加代子が、私に答えをくれた。

そうか、何も、手段は、蹴りを入れることだけではないのだ。

私は、私が正しいと信じることのためには、どんな手段を使ってもいい。

「この世界にルールは無用。その代わり、絶体に負けてはならないということだ」

今後、私は、蹴りたいやつが出てくる度に、そのパワーを使って上る。

そして、私を押し上げてくれるその存在に、感謝するだろう。

 

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2016-06-07 | Posted in リーディング・ハイ, 記事

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