教科書は12回、春を連れてきた《リーディング・ハイ》
記事:Sono Mamada Den (リーディング・ライティング講座)
教科書が好きだ。
小中高と勉強ができたわけではない。4月になるとピンっと音が出るような新しい教科書を一式受け取ること自体が幸せだった。記憶が定かでないのだけれど、確かどの科目の教科書も大きさが揃っていて、全教科そろえて、トントンっと立てると、4つの角がきちんと揃ったのではなかったかしら。製本は普通の本よりきちんとしているような気がする。
教科書をもらった日だけ、「よーし、予習しちゃうぞー」という気持ちになるのだが、勉強と言うのはそれまでの積み重ねの上に成り立つので、その気持ちは三日ともたなかった。でも、真新しい本にカバーをつけたり、名前を書いたりする儀式は楽しかったな。うちは市販のビニールカバーだったけど、親御さんが紙でカバーを作ってくれる家もあったような気がする。
最近は教科書もデジタル化されて、タブレットの中に収納されていくらしい。時代の流れだから読書の方法も変わっていくのは仕方がないけれども、物としての教科書にあった質感、机の上でトントンっと揃える感覚、紙の匂いみたいなものが失われるのは、ちょっと残念。教科書の匂いって確かにあった。
なぜか国語だけは、勉強することなく得意だった。教科書に物語、特に小説が載り始めると、これだけはより好みしつつ、授業の進行とは関係なく先読みしていた。
国語の教科書の字体が好きだった。特に小学校の教科書の字体はその名も教科書体。そのまま。美しいなぁ。漢字にしても「しんにゅう」なんて、PCやスマホのフォントに入っているのとはまるっきり違って「これこそがしんにゅうだ」っていうあのカーブ。ぐい、ぐいっと二回曲げるとこ。いいなぁ。スティーブ・ジョブズはわが国の教科書体見たことあったのかな。中退した後も大学に残って書体の授業に出ていたジョブズだったらFascinating!って言ってくれたと思うんだよな。WindowsでもMacでも是非採用していただきたい。オトナになってからは、自己流の崩し字ばかり書いてきたので、もう一度小学校の教科書で漢字を勉強しなおしたいくらい。
明朝体に変わるのは中学校からかな。縦書きの明朝体はやはり心惹かれるものがあった。
その美しい字体で綴られた教科書の物語。短編が多かったように思う。中編、長編となるともちろん小説全編が掲載されることは、多くはない。それだけに、いいところから始まって、いいところで終わる編集になっていた。ものによっては、コンサイスに編集されていたのかな。この続きを自分で読んでしまおうと思うことはそんなになかったけれど、間違いなく国語の教科書で本好きが始まった。
中学、高校になると小説の数も増えてくる。この頃には自分で図書館行ったり、本屋で買ったりして教科書以外の本も調達していたけれど、それでも教科書をもらうと、あるいは、買うと、授業とは関係なく国語の小説は読みはじめていた。
脚注がついていて、時に絵入りの解説までついていたりしたのも教科書ならではの面白さ。
有名どころの定番ばかりでなく、あー、これこの教科書で出会わなければ絶対読んでないわ、と思うような作品も収められていた。自分で選ぶばかりが読書じゃないよね。
「こころ」は、どのあたりが載っていただろうか。自決まではなかったが、先生が友人を追い詰めるシーンはあって、エグいなーと思った記憶がある。
「高瀬舟」は、血の流れるシーンも入っていたな。痛いのが苦手なので、なんでこんなの教科書に入れるのだと思ったっけ。
教科書を開いている時間は、学校時代のかなりの割合を占めていたわけで、中でも具体的な記憶が残る国語の教科書を思うと、教科書を見ている時空間の周りには、土の中の芋の子のように学校にまつわる他のエピソードも集まっているのがわかる。
ここの「解釈」をあてられたとか、この小説をやっている授業中に騒いだ生徒がいて、先生がキレてビンタ食らわした、とか。
天狼院書店で教科書売ってくれないかしら。小学校から高校まですべての国語の教科書買いなおしたい。もちろん、代替わりしているから「あの頃」の教科書を入手することはできないだろうけれど。
こんなこと考える人、いてもおかしくないよな、と思ったら、いた。
メディアクリエイター、「ポリンキー」のCMを手掛けた佐藤雅彦さん。
出版社で教科書を売ってもらえると知った佐藤さんは「全部ほしいのです」と言って国語の教科書を買い集め、小説を抜き出して本を一冊を編んでしまった。
「教科書に載った小説」
私の教科書と重なる作品は殆どないのだけれども、収められている12の小説を読むと、教科書をトントンっと揃える4月の感覚が12回蘇る。小中高で4月は12回やってくるのだった
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