起業して四半世紀、57歳の僕が薦める「これを読んだらこれからの人生が……」の12冊《リーディング・ハイ》
記事:西部直樹(リーディング・ライティング講座)
金曜日の午後9時過ぎ、
週末の夜、
明日は休みだ。
のんびりとしたい!
思えば、今週はハードだったなあ。
取引先とは交渉が暗礁に乗り上げ、上司には早く契約してこいと催促され、
他の部門からは、日程がこれではできないと突き返されるし、どうすればいいんだ、だった。ああ、月曜日は、あの件もあるし……。
日々辛いこと、嫌なこともある。
人生はままならぬもの
過ぎたことを悔やんでも、相手を恨んでも、
月曜日はやってくる。
悔やんでも、恨んでも、前には進めない。
だから、
少し、気分を変えてみよう。
名著「HARD THINGS」を著した シリコンバレーのベンチャーキャピタリスト、ベン・ホロウイッツは、仕事に行き詰まったときでも、映画などを観て気分を変えていた。そこから、解決のヒントを得ていたのだ。
こんな具合に
「その夜、私は『ショート・アイズ』という映画を見た。(中略)私はこの映画を見ているうちに解決策を思いついた」
(ハード・シングス 第6章 事業継続に必須な要素 p206)
まったく違うことから、思わぬヒントが得られるかもしれない。
ヒントにならなくても、気分を変えるのは悪くない。
終わりなき日常を生きているんだ。
そして、日々ホロウィッツさんほどではないけれど、日常はHardThingsの連続だ。
だから、
金曜の夜には、こんな本を読んでみたい。
私は、これらの本を読んで、
「なんだ、そうなのか」と、蒙昧が啓かれる思いがしたこともある。
そんな12冊です。
- ジワジワ来る○○ 片岡K 著 アスペクト文庫
じわじわ来ます。
疲れた脳にじわりと染みこんでくる。
ただ、適当なページを開いて見るだけでいい。
じわじわ来ます。
- じょうずなワニのつかまえ方(21世紀版) ダイヤグラムグループ著 主婦の友社
我が家では、トイレ本にしている。トイレの棚に置いてあるのだ。
腰掛けて、手持ち無沙汰になったとき、ちょっと時間つぶしに読む。
この本、家人には不評だ。
トイレから、時々笑い声がもれてくるので、不気味だと……。
- 鼻行類 平凡社ライブラリー H.シュテュンプケ著 日高敏隆・羽田節子訳 平凡社
生き物好きにはたまりません。
翻訳者の日高敏隆さんは、日本の動物行動学の草分けだ。コンラート・ローレンツなどの翻訳もしている方である。その人が関わっている本なのだ。
もちろん、生き物好きでなくても、たまりません。
読み終えて、そうか、その手があったのか、と思わず拍手をしたくなるのである。
- うめ版 新明解国語辞典×梅佳代 梅佳代写真 三省堂
辞書は、引くもの。
分からない言葉を探し、その意味を知るもの。
このうめ版は「見る」辞書だ。
引いてはいけない。
例えば、「思いも寄らない」の頁を見るといい。
そう、そういうことなのです。
- 新明解国語辞典 三省堂
この辞典は、味わうのです。
この辞典は、学習にはどうですか? と何人かの中学、高校の国語教員に聞いたことがある。
教員たちは、「う~ん、試験とかには……」と言葉を濁していた。
生徒達の試験には向かないかもしれない、でも、大人には向いている。
なぜなら、人生が語られているから。
辞書は人生を語らないだろう、と至極真っ当な反論がきそうだ。
いや、しかし、だ。
金曜日の夜午後9時過ぎに、この辞書を読んでみるといい。
例えば、「恋」の項を読んでみる。
「特定の異性に深い愛情をいだき、その存在が身近に感じられるときは、他のすべてを犠牲にしても惜しくないほどの満足感、充足感に酔って心が高揚する一方、破局を恐れての不安と焦燥に駆られる心的状態」
大人なら、この語釈に、あの時の情景が蘇らないか?
そして、
恋が、こうなら、……
- 筒井版悪魔の辞典 アンブローズ・ビアス著 筒井康隆訳 講談社+α文庫
週の終わりには、体にはその週に溜めた澱がある。少しずつ体の中に沈み込んできた澱。ある種の毒だ。毒には毒を持って制するのがいい。
この辞典は、見るのでも、味わうのでもなく、読む、毒を熟読玩味する辞典である。
難を言えば、この毒、ちょっとクセになる。
- 人間臨終図巻 山田風太郎
山田風太郎といえば忍者ものの泰斗である。
荒唐無稽にして傍若無人、
気宇壮大にして波瀾万丈、
眉目秀麗にして妖艶華麗
な物語を紡いだ希有な作家である。
その人が収集した人の臨終物語集である。
亡くなった年齢別編纂になっている。
ふ~む、と唸り、遠くを見たくなる。
- ヘンな論文 サンキュータツオ著 KADOKAWA
京都の街を散策したときのことだ。
鴨川沿いに多くのカップルの姿を見た。
仲むつまじい姿は微笑ましい。
そして、鴨川を見ながら座るカップルたちは、等間隔に座っていた。
なぜだ? なぜ、カップルとカップルの間はほぼ同じ距離なのだ。
なぜ? は学問となる。
だから、その等間隔の謎に迫る学者もいるわけだ。
研究のためには、エビデンス(証拠資料・データ)が必要だ。
研究室の学生、院生をして、カップル間の距離、着座時間などのデータを集める。
ただ普通にいると怪しまれるので、学生同士カップルに擬態してデータ収集をする。
研究の成果は論文として発表される。
その論文のために、擬態したカップル、その擬態カップルたちには、そこには、なにか、あったかもしれない……
そう、論文にはドラマがあるのだ。
- ドグラ・マグラ 夢野久作著 角川文庫
チャカポコとはなにか、
この小説はなになのか、
と、週末を過ごすのもいい、と思う。
- リトル・シスター レイモンド・チャンドラー著 村上春樹訳 ハヤカワ・ミステリ文庫
レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説が、どうして?
と思われたでしょう。
これは、村上春樹氏の訳者後書きから読むのがいいかもしれない。
たった7冊しか書かなかった長編小説の一冊が……。
私は高校生の時、大人になってから、そして村上春樹の新訳でと何度も読み返してしまった。
なんとも愛おしくなる、物語なのだ。
チャンドラーの他の6作を読んでから読むと、さらに愛おしくなるかもしれない。
- 銀河ヒッチハイク・ガイド ダグラス・アダムス著 安原和見訳 河出文庫
「あわてるな!」と書かれた黄色のタオルを十数年使っていた。
この小説の初訳が出た年の「SF大会」(SFファンが集って、お祭り騒ぎをするいわゆるフェス)で、購入したものだ。
宇宙において、タオルは重要である。
それをしみじみと考察するのも一考だと思う。
- どくとるマンボウ航海記 北杜夫著 新潮文庫
私がはじめてどくとるマンボウシリーズを読んだのは、「笑う」という漢字がまだ読めなかった頃だった。父に出張の度にお土産は本をといっていた。本ばかり読む息子に、何を買っていいかわからなくなった父が、大人向けのどくとるマンボウシリーズを買ってきたのだ。
私へのお土産なのに、父も母も姉も、私より先に読み、笑い転げている。
私も読んで笑い転げたい! と悔しく思ったものだ。「笑う」という漢字も読めないのに。
爾来、ユーモアは私の人生の必須項目になった。
金曜の夜に、密やかに笑い転げるのもいい。
という12冊です。
この本たちは、
日曜の午後7時過ぎに読むのもいいかもしれない。
笑いとか毒とか「あわてるな」で、Hard Thingsが待ち構える月曜日に備えられるかもしれない。
※紹介した本は、東京天狼院書店 メゾンの一画に揃っています。(2016年8月現在)
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