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リーディング・ハイ

10年間、おしゃれを生きがいにしてきた僕がおしゃれをやめた日《リーディング・ハイ》


inousan

 

 

記事:たか(リーディング&ライティングゼミ)

 

「おしゃれですよね」

 

この一言が僕にとっての最高の誉め言葉だった。

 

運動神経がそこまで良くなく、かといって学問で分があったかというとそうでもない。

必死に髪型をセットして、目に力を入れていないとイケメンにはなれないし、身長がずば抜けて高いわけでもなければ、バキバキに腹筋が割れているわけでもない。

 

服が異常に好き、ということを除くと至って普通な僕にとって、「おしゃれですよね」と言われることは、変えがたい喜びの言葉の一つだった。服が好きでだからおしゃれをするのか、おしゃれですよね、と言われたいからおしゃれをするのか。卵が先か鶏が先かの問題ではないけれど、他に誇れるものが無かった僕にとって、自分を着飾ることが唯一人と自分の差異を際立たさせるものだった。

 

だから、最後の心の拠り所であるおしゃれさえも、僕から奪い去っていったこの本に、心底僕は出会わなければよかったと後悔している。この本を読んだせいで、「おしゃれですね」という言葉が、綺麗な花束から、銀色の鋭いナイフに変わってしまった。ナイフをずっと突きつけられて平気なほど、僕の精神は強くない。

 

僕は静かにこの本のページを閉じて、一息つく。

 

そして、僕はおしゃれをやめた。

 

 

 

僕が服を本格的に好きになったのは、中学3年生の頃だっと思う。

秋にあるニュージーランドへの研修旅行の前に、原宿にいって服を買おうと誘われたのがきっかけだ。

僕の通っていた高校は千葉にあり、原宿なんてこれまで一度も行ったことが無かった。

中学2年生まで服を買うのは地元のデパートだったし、そもそも自分で服を選んだ経験があまり無い。

お小遣いも限られていたし、親と一緒に買い物をしたついで買ってもらう程度。

 

中学3年の頭あたりからちょっと色気付き始めて、月に3冊もファッション雑誌を買って髪型やら服装やらを研究していたけど、だいたい雑誌に載っている店舗は原宿や渋谷、表参道ばかり。

最寄駅から2駅のちょっとした繁華街でさえ行くことをビビっていた僕にとって、原宿は桃源郷のようなもの。一人で行くなんて絶対にありえない。だから、一緒に服を買いに行こうと言われた時は、心底うれしかった。

 

明治神宮前原宿駅で降り、初めて竹下通りに足を踏み入れた。

 

「黒人にはマジで気をつけたほうがいいぜ。押し売りされっから」

慣れた口調で、僕の友達がアドバイスをしてくる。

 

竹下通りはお祭りでもやっているかのようにごった返していて、両脇にお店がひしめき合う。どのお店も地元のデパートでは絶対に手に入らないようなものばかり。一軒一軒お店に入っていく瞬間が、まるで遊園地のアトラクションに乗るかのようだった。

 

なけなしのお金で買える服を吟味し、舐めるように店舗をぐるりと回る。気に入った服の値段を見ては一喜一憂し、また次の店へと向かう。店頭にはジャニーズの誰々が愛用! と書かれたポップや、何々という雑誌に紹介されました! という看板が並ぶ。

 

鏡の前で試着をすると、友達が「それいいね! 似合うじゃん!」と褒めてくれる。

おしゃれをするとちょっと自分に自信が出ることを知った。

服は僕の人生をガラりと変えてくれる魔法だった。

 

それをきっかけにして、僕の服への情熱はどんどんと上がっていった。怖がっていた地元の繁華街にも一人で繰り出すことができるようになり、休みの日は服屋に行くのが定番になっていった。

高校に上がると、定期テストで良い点を取れば取るほどお金をもらえる我が家独特のシステムにより、服に費やせるお金が格段に増えた。今まで買うことができなかったようなちょっと良い服も着ることができるようになった。

 

さらに僕のおしゃれを加速させたのは、彼女の存在だった。

 

それまで長く付き合う彼女ができたことのなかった僕の日常がガラリと変わり、毎週末はほぼ確実にデートをしていた。だから、私服のレパートリーを増やして、おしゃれって思われないと振られてしまうのではないか、という恐怖がひょっこりと芽を出して、だんだんと育っていった。服を好きになればなるほど、おしゃれにどんどんと固執していき、もし自分がおしゃれじゃなくなったらこんなにちやほやしてくれないのではないか。そんな思いが生まれた。

 

その一方で、彼女がいておしゃれな自分というブランディングは、普段の学校生活でも自分に自信をもたせてくれるものでもあった。学校は指定の制服だったけれど、髪型はバッチリ決めて、わざと丈の長いセーターを着たりして、「自分=おしゃれ」という鎧を壊さないようにしていた。

大学に入ると、もはやおしゃれをすることが一種の中毒になっていた。大学は基本的にみんな私服だ。その中でどうやって自分は他と違うおしゃれな格好をするのか、どうやって自分を差別化するのかに躍起になっていた。

 

他の人が行きそうなお店じゃダメ。

自分しか行かないようなマイナーお店で服を買わないと。

今日着て行く服が決まらない。

こんな格好じゃなダメだ。

あぁ、なんてダサい格好で学校に来てしまったんだろう。

 

とびっきり良いスタイリングができた日は、自分を見てと言わんばかりのオーラを出して構内を歩く。友達に「相変わらずおしゃれだねえ」と言われると、口元がにやける。

 

いつしか、自分に自信をつけてくれる一種のツールとしての服が、自身そのものに置き換わっていた。服を脱いだ僕に価値を見出せなくなっていた。何気ない顔をしながら、「俺っておしゃれでしょ? ねぇ、そう思わない?」と無言で相手の目に圧力をかける存在になっていた。まるで、自分の権威を振りかざすかのように。とにかく、他人の目にすごいと映り込むことが、おしゃれだと信じて疑わなかった。

 

おしゃれの暴力を振りかざし続けた大学生が終わり、超貧乏な社会人がスタートした。

当然、新しく服を買う余裕もない。そんな中、ふと、自分はなぜあんなにおしゃれに固執していたのだろうと思った。

 

そして手に取ったのが鷲田清一さんの「ひとはなぜ服を着るのか」だった。

非常に読みやすく、興味深い内容であれよあれよと言う間に読み終えていた。

そして、読み終えた瞬間、自分はおしゃれでもなんでもなかったことに気づいてしまった。

 

ただ、自分の表面を厚化粧しただけで、心は全然おしゃれじゃなかった。

 

本の最後のエピローグで、鷲田さんが、彼なりに「おしゃれとは何か」ということを定義している。

その定義が、僕にとってはあまりにも衝撃的だった。そして、それが僕がエセおしゃれをやめて、本当のおしゃれに気を使おうと思った理由だ。

 

自分のスタイルや、服に自信がある人こそ、この本を読んで衝撃を受けると思う。

それでも、本当のおしゃれさんになりたかったら、僕のような、おしゃれの奴隷になる前に、勇気を持って読んでみるのも、いいかもしれない。

 

きっと、新しい自分に出会えるはずだから。

 

 

  
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2016-09-21 | Posted in リーディング・ハイ, 記事

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