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リーディング・ハイ

知っていると思っていた、でも知らなかった ――銭形平次捕物控《リーディング・ハイ》


zenigata

 

記事:西部直樹(リーディング・ライティング講座)

 

 

「ドザエモンの写真みる?」

叔父の問いかけに、

「えっ」と戸惑う。

「何を言っているの、子どもには見せられないわよ」

叔母がジュースを差し出しながら、叔父を軽く叱る。

「さっき、上がったばかりなんだ」

叔父は、写真の束を少し自慢げにバサバサと振る。

「だから、駄目なんだって!」

普段はおっとりとしている叔母が、お菓子鉢のふたを開けながら、叔父を強くたしなめる。

 

見せられないような写真なのか!

子どもは駄目な写真って!!

ドザエモンって、古い人の名前のようだけど……

 

叔父は警察官だった。

警官というと、交番とかにいる姿を思い浮かべるのだが、

叔父は、いつも写真を手にしていた。

叔父は、警察官でも、鑑識課に属していたのだ。

鑑識課員として現場で撮った写真を、甥たちに見せようとしていたのである。

ドザエモンは、土左衛門のことで、いわゆる水死体である。

そのような写真を子どもに、一般人に見せる事は、できなかったのである。

 

その頃、小学校1~2年生のわたしには、写真と警察官というのが、うまく結びつかなかったけれども。

 

しかし、叔父はちょっとした有名人だった。

まだ、叔父が巡査の頃、新聞に載るほどの活躍をしたことがあるのだ。

叔父が非番で、温泉旅館で寛いでいた時、旅館の玄関を見ると、どうもどこかで見たことのある男がいる。どこで見たのか、交番の指名手配写真の男ではないか。

叔父は、その男を取り押さえ、みごとに逮捕した。

「非番の警官大活躍!」というような見出しで、地元の新聞に載ったのだ。

 

その話は、何度も聞かされ、我が事のように語ることができるほどだ。

 

悪い犯人を捕まえたのだ。

子どもにとって、正義の味方である。

ヒーローだった。

 

そんな叔父に感化され、一時は警察官になりたい、悪い犯人を捕まえる正義の味方になるのだ。と思ったりしたものだ。

 

警察官の夢は、いつか消えてしまったけれど、犯人を捕まえる、という行為には憧れていた。

 

わたしが幼かった頃は、ドラマの大半が刑事物か、時代劇の捕物帖だった、ような気がする。

テレビを見ると、刑事が走って犯人を追いかけているか、十手を持った岡っ引きがやはり犯人を追いかけている、そんな場面が多かった、ように思う。

 

父親は時代劇が好きだったので、子どものわたしは仕方なく、捕物帖をいくつも見ることになった。

捕物帖で活躍するのは、岡っ引きの親分が多かったように思う。それぞれ何か得意な技を持ち、最後に悪人をとらえる時は、その技が繰り出される!

 

なかでも、逃げる悪党に銅銭を投げつける技には、魅入ってしまった。

あれほど鮮やかに人に当てることができるものなのか?

投げた銅銭はどうするのだ? あとから拾いに行くのか、それともそのままにしておくのだろうか、気になる。

と余計なことまで気にしていた。

 

その投銭の技を習得しようとまねるのだが、なかなか難しかった。

10円玉ももったいないと、1円玉でやってみるが、飛ばない。

5円玉でも、なかなか的に当てることはできなかった。

 

ただ、すごい技を持った岡っ引きのことは、ウルトラマンが活躍する頃には忘れてしまった。

 

しかし、ある時その名前をテレビから聞くことになる。

しかも、アニメから。

 

「とっつあん」と、フランスの大怪盗の三代目が呼びかける。

相手は、刑事だ。 四角い顔をした刑事は、大怪盗の三代目を追いかける。

そのようなアニメだ。

 

その刑事、投銭の岡っ引きの6代目か7代目らしい。

あの、岡っ引きの子孫なのか、だから、走って追いかけているのか、と妙に納得しながら、そのアニメを見ていた。

 

その刑事の名は、「銭形警部」

彼の祖先は銭形平次だ。

以来、そのアニメを見る度に、おおよそいつも警部は出てくるので、江戸時代の岡っ引きの親分のことをちょっとは思い出すのであった。

 

投銭が巧みな岡っ引き、銭形平次のことは、何となく知っているように思っていた。

 

が、思い返してみれば、銭形平次の時代劇や平次のパロディ的なものは見ているので、知っているような気がするだけだ。

コナン・ドイルの小説は読んだことはなくても、シャーロック・ホームズのことは知っている。モーリス・ルブランの原作は読んだことはなくても、怪盗ルパンの名前は知っている。

そんなように、銭形平次の名前は知っているけれど、野村胡堂の「銭形平次捕物控」を読んだことがなかったのだ。

 

気がついてしまうと、気になる、気にかかるものだ。

銭形平次捕物控は、長短篇で三百余話あるらしい。長大なシリーズだ。長大なシリーズ物は、最初から読まないと気が済まないたちである。

そして、読んだ。

 

最初の話は、「金色の処女」。なんと扇情的な題名なのか。

もう楽しみでならない。

読みはじめれば、銭形平次は、「銭形警部」とは、いささか趣が違い、なかなかのイケメンらしいではないか。

 

そして、将軍や美女が錯綜して……

銭形平次、得意の投銭だ。

それがいつもの鍋銭(粗悪な鉄銭のこと)ではなく、

え、そ、それを投げるのか、と驚かされる。

 

いやあ、楽しい。

これがあと、まだ三百話以上あると思うと、楽しみでしょうがない。

 

銭形平次が投げたのは、なにか、

そして、金色の処女とは、

それは、読んでのお楽しみ!

 

・紹介した本 銭形平次捕物控 傑作選 野村胡堂 文春文庫

 

  
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2016-12-08 | Posted in リーディング・ハイ, 記事

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