リーディング・ハイ

ミシンもないのに通園グッズを10個も作らなくちゃいけないなんて!《リーディング・ハイ》


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記事:中村 美香(リーディング&ライティング講座)

 

なんだって? 幼稚園の入園式までに、10個も通園グッズを用意しなくちゃいけないの?

え? ほとんどの子が手作りで、既製品を持ってくる子は少ないの?

いやぁ……まいったなぁ……。

 

私は、裁縫があまり得意ではなかった。

反対に、母は若い頃、洋裁学校に通っていたらしく、とても、裁縫が得意だった。

洋服にできた穴も、綻びも、母の手に掛かると、魔法のように元通りになっていくのを見るのが、私は好きだった。

私もやればよかったのかもしれないけれど、自分がやることには興味がなかったのと、自分の出来栄えと母のそれを比べるのが嫌だったので、学校の家庭科の課題だけを渋々こなすので精一杯だった。

それさえも、自分で、そこそこうまくできたと思っても、母から見ると手直ししたい部分があるらしく

「……まあ、いいんじゃない?」

と言われて、すっかり自信をなくしていた。

 

その一方で、母の裁縫好きの恩恵を、私はかなり受けていた。

小学校入学時の洋服は、母の手作りのセーラー服だったし、手提げ、ワンピース、スカート、浴衣まで作ってくれた。

母の自慢は、

「若い頃、桂由美さんに、助手にならないか? と言われたことがあるの」

だった。

ブライダルファッションデザイナーで有名な桂由美さんが、母の通っていた洋裁学校の先生をやられていた時期があったらしく、その時に、そんな話があったらしかった。

もし、母が、そこで、その道を選択していたら、母の人生も変わっていたかもしれないし、私も生まれていたかわからない。

事情はよくわからないが、断ってくれてよかったなと思う。

 

幼稚園グッズをたくさん手作りしなくちゃいけない境遇に立たされて、まず、頭に浮かんだのは、母だった。

手作りなら、おばあちゃんでもよくない?

得意な人がきれいに作った方がよくない?

本気でそう思った。

母に相談すると

「作るのはいいけれど、本当にいいの? やっぱり“お母さん”に作ってもらった方がコウちゃんも嬉しいんじゃない?」

と言われた。ズシンと胸に響いた。

「そっか……、そう言われるとね……もう少し考えてみるよ」

 

それに、そう言えば、ミシンもなかった。

我が家にもなければ、実家にもなかった。正確には、実家にはあったのだけれど、古くて、しかも、壊れていたのだった。

 

実家のミシンを直すか? 安いミシンを買うか? それとも……手で縫うか?

 

そもそも、手でそんなにたくさんのものを作れるのだろうか?

この不器用な私が!

やっぱり無理そうだな……既製品を買っちゃおうかな?

だけど……

 

何日か迷って、やっぱり、なんか後ろめたくて、ふらっと本屋の、洋裁の本のコーナーへ立ち寄ってみた。

 

すると

『簡単! かわいい!! 手ぬいで作る通園・通学バッグと布小物』という本が目に入った。

さらに、~手作りに自信がなくても安心な、こまかいプロセス写真つき!~という副題の文字が、私にアピールしてきた。

 

これかな? これが、私を救ってくれるのかな?

 

手に取ると、まず表紙の赤い犬の形をしたバックが微笑みかけてきた。

そして、吹き出しで

「ミシンでも作れるよ!」

と言っていた。

 

「手ぬいでも作れるよ!」じゃなくて「ミシンでも作れるよ!」だったのだ!

手ぬいがメインで、なんだか嬉しくなった!

 

ページをめくると、カラフルな布地にかわいい動物や船、お花やらロケットやらが付いたバックやランチョマットがキラキラと輝いていた!

 

これらが手ぬいで作れるの? 私にもできるの?

 

なんだかワクワクした!

 

大丈夫! あなたにも作れるよ!

と、本が言ってくれている気がして、レジに向かった。

 

家に帰ってきて、息子に聞いた。

「どれがいいかな?」

すると、息子は中でも難しそうなロケットの刺繡のついた袋を指さした。

 

これか……。

 

少し考えて、やはり、ハードルは下げることにした。

縫い方は参考にして、生地は、プリント柄にしてみよう! と決めた。

 

「聞いておいて悪いけれど、ちょっとこれはお母さんには難しいな。ごめんね。その代わりに、コウが好きな絵の生地を買いに行こう!」

 

次の日、息子とふたりで生地を買いに出かけた。

近所にも、生地が売っているところがあったけれど、何故か、生地くらい大きなお店に買いに行きたくなった。

 

電車を乗り継いで、ユザワヤまで行った。

 

「コウ、好きな絵を選んでいいよ」

そう言いながら、若干安めの棚に誘導した。

 

「これにする!」

息子がそう言った生地は動物の描かれたキルティングだった。

「いいよ! じゃあこれにしよう!」

 

後で後悔すると知らずに、必要な長さのキルティングを買った。

同じ絵柄の綿の生地もあったので、バック用にはキルティングを、ランチョマットや体育袋用には綿の生地を買った。

 

翌日から早速、制作に取りかかった。

大物のバック作りから始めたのだけれど、キルティングは手ぬいには不向きだと身をもって知った。

2枚を縫い合わせるところまではいいのだけれど、バックの脇の上の方の折り返す部分が3枚になって、ゴワゴワして縫いにくかった。

だけど

「失敗したな……」

と言いながらも、意地になって格闘していたらどうにかなったので、むしろ、達成感があった。

 

副題になっているだけあって、本当に、こまかいプロセス写真が、わかりやすく、不安なく進められた。

 

かなり時間はかかったけれど、手作りのバック2個、上履き袋1個、体育袋1個、お弁当袋2個、コップ入れ2個、ランチョマット2枚、合計10個が完成した!

 

やったー!

 

「お母さん、ありがとう! お母さん手作り上手だね!」

本当に上手な作品を見たことがない息子が、褒めてくれた!

「そう? よかった! 気に入ってくれて! こちらこそ、褒めてくれてありがとう!」

素直に、作ってよかったと思った。

 

その後幼稚園3年間通って、小学校入学時にまた、手作りの指令が出た!

 

“給食袋3個 ランチョマット3枚 体育袋1個 音楽袋1個 手提げ袋1個 上履き袋1個”

 

ちょっとズルくなった私は、情報を収集し、全部手作りじゃなくてもいいと知った。

だから、一部は既製品で済ませたけれど、このうちの7個は作った。

また、あの本を引っ張り出して、作ってみた。

 

そうしたら息子が、多分、もう、本当に上手な作品は見たことはあるはずだけれど、気遣いを覚えたのか

「お母さん、ありがとう! お母さん手作り上手だね!」

とまた言ってくれた。

 

自分が苦手なことを全て克服する必要はないかもしれないけれど、時に、苦手だけれどもどうしても取り組まなければならないこともある。

そんな時、本というのは、本当にありがたい!

 

私のピンチを救ってくれたこの本に、感謝したい!

 

『簡単! かわいい!! 手ぬいで作る 通園・通学バッグと布小物』

~手作りに自信がなくても安心な、こまかいプロセス写真つき!~

かやしまれいこ 著 主婦の友社

 

  
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2016-12-19 | Posted in リーディング・ハイ, 記事

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