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これぞ反面教師! 産気づいたら全てがバトルになった話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:南 章子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
始めに…… よい母は決して真似をしないように。
反面教師がここにいるぞお、というお話。
 
それは私が長男を妊娠していた時のことである。
おかげさまで、なんのトラブルもなく臨月を迎えていた。
平和でのんきな状況。ゆ・え・に、魔が差したのだろうか。
予定日の10日前のある日、
「はよ、産みたい」
ふとそんな感情に見舞われた。
 
それは早く赤ちゃんと会いたいという気持ちもあったし、
もうこの重たいお腹から解放されたいというわがままでもあった。
 
色々と心配する旦那をよそに、なんと私は臨月の身体でタンスを持ち上げ始めたのだ。
この時期に、大規模な模様替えの実行。
あわよくば、これが刺激になって「出てきてくれる?」 との想いがあったのは言うまでもない。
しかし、一通りの模様替えを終えても特に何も起きず完了。目論見は失敗。
そして、その日は疲れて早めに布団に入った。
 
しかし、異変はそのあと夜中に起きた。
 
「あれ?」
 
よく寝ていたはずなのに、しばらくしてふと目が覚めたのだ。
「おかしいな。疲れているはずなのに、ん?」
私は身体の違和感に気付いた。
 
それは下半身。お腹がぞわぞわする。気のせいかな。でも眠れない。
それは、明け方まで時間をかけてどんどん変化していき、我慢しづらい感じになってきた。
「え、ちょっと待って! 陣痛??」
なんと、本当に陣痛が始まってしまったのだ。
 
さあ、ここからが、とんでもないバトルの始まりだった!
 
まず、旦那を起こし、車に乗って病院に向かった。陣痛は一定の時間をおいてどんどん辛くなる。
「あかんあかん、気を逸らそう」 なぜか、童謡を歌おうと思った。
「もっしもし、カメよカメさんよ~」 だが、陣痛の波が絶妙に邪魔をしてくる。
「もじもじガメよ! ガメさんよう!!」
痛みをこらえると、濁音に代わってしまう。ハンドルを握りながらも旦那が冷静に突っ込む。
「ガメさん? ……ガメラさん??」
「やかましい!」
あかん、気を逸らすどころか痛さが増す!お腹の上でそのガメラが暴れだした!
「いたーーーい」
 
しかし、病院はまだである。
他の方法、何だ、何をしたらこの痛さから逃れられるのか。
「羊が一匹、羊が二匹…」 なぜか、羊を数えだした私。でも、アカーン!
羊がドカドカと押し寄せて私を踏みつける。
「いたーーーーい」
 
あっちこっちに、もだえながらようやく病院に到着した。
 
「う、生まれるうー!」
 
……そうは問屋が卸さなかった。
なんと、検査の結果、まだまだ出産のタイミングではないらしく、しばらく待機をしてくださいとの事。
「おいっ、こんなに痛いのに!」 思わずツッコんだ。
痛いのだ。痛いのにまだなのだ。
 
赤ちゃんが降りてきていない不自然な状況で、陣痛が来てしまったのだ。
 
も、もしかして…… タンス?
やってしまった……
後悔先に立たず……
 
浅はかだった。陣痛さえ始まれば産めると思っていた。実際は全く違った。身体は順番に出産へ向かう準備をする時間が必要だったのだ。それを無視した私に罰が当たった。
 
旦那は面会時間ではないという事で退出させられ、私はやたら広い部屋に居残りになった。
痛さと戦うバトル。さあこれから何時間??
 
ひたすら我慢だった。鼻からスイカ? ちゃうて。ていうか鼻からスイカ出した経験ないからわからんし。1人でツッコミしていると、またきた!
「おーーーう」
度々、陣痛の波が訪れる。たまに様子を見に来る看護師さんに頼ってみる。
看護師さんは「お母さんになるのよ!頑張って」 とはいうものの、すぐどこかへ行ってしまう。
看護師さんも忙しいのだ。
一人で耐えていると、痛さでどんどん意識がもうろうとする。
 
ようやく面会が解禁され、旦那が部屋に入ってきた瞬間、私の八つ当たりが爆発した!
「痛いぞ! どうにかしてえ!」
旦那もどうしていいかわかるわけがない。
 
そのあと母が駆けつけてくれた。
「ここを抑えると痛さがマシになるよ。そう、陣痛の間に休んでいいから」さすが先輩!
指示が的確、マッサージも痛さを逃してくれる。
おかーちゃん、ありがとう。ほんま、ありがとう。
 
しかし、その優しさに浸るまもなく、今度はそこから出産が急に進んだ。
「産みたいー、出させてー」
「まだ、まだ我慢して」
「産みたいー」
「まだ痛みを逃して」
 
そうなのだ、出産とは自分とのバトル。赤ちゃんが降りてくるまで、まだ産んではいけない。
みんなの待機する部屋から今度は準備室へ移動させられた。
悶絶の中、看護師さんに八つ当たりパンチ攻撃をしながら、痛い痛いと叫んでいた……らしい。
というのも、もうそこらへん、覚えてない。
 
もう夜中の11時を過ぎていた。陣痛が始まって24時間。ようやく分娩室に移動することになった。
夜間の為まだドクターは到着しておらず助産師さんはひとりだった。
産める、もう産める、産んでやる!
そう思った時だった、さらに予想外のバトルが追加されたのだ。
「今からもう一人分娩室に入ります」
 
え、何事?!
なんと、私が産もうとしたタイミングで、産気づいた妊婦さんが緊急で搬送されてきたのだ。
助産師さんはひとりしかいないので、そのひとりで二人の出産を同時にとり上げる事になってしまった。
 
「産まれそうになったら手をあげてください」 変な指示のもと、二人ベットを並べられた。
そして、陣痛が来たら手を挙げて叫ぶ。
 
「陣痛きました、産みますー!」 助産師さんが駆けつける、全身全霊でいきんでみる。しかしまだ生まれない。すると横で、
「私も産みますー!」 助産師さんがそっちへ行ってしまう。しかし、隣もまだ生まれない。
 
痛みと苦しみの中、もうここまできたら「先に産んでやるー!」 の夜中のバトルだった。
「産みます!」 「私が産みます!」
何度繰り返しただろうか。
 
「おぎゃーーーー」
 
ようやく、私が先に出産をした。
「よっしゃあーーーー!」
 
そのタイミングで先生が到着し、産後の処置をしてもらいながら私は思った。
「終わったー、私が先に産んだぞー」 おかしな達成感だった。
 
そのあと、かわいいわが子を見て、始めて気付いた。そうだった、私、子どもを産んだんだった!
どう考えても感動の出産とは程遠い経験となった。
 
「ちょっとー、私も産みましたけどー、おーい、先生よろしくー」
隣のママさんの笑いながらの叫び声は今でも覚えている。
 
2人とも無事に生まれてくれたからよかった。
 
皆さん。出産は自然に始まるのが一番。バトルになっちゃ、あきません。
 
 
 
 
***
 
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2020-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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