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BCC忘れを防ぐたったひとつの方法


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:久我山 朝香(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「やってしまった……」
 
まさか自分がやるとは思っていなかった。もう一度、画面を見返してみる。やはり間違いない。
 
「なぜ送信ボタンを押す前に確認しなかったのだろう」
後悔が、波紋のように胸の中に広がっていく。
 
このあとの予定が、頭に浮かんでは消える。全部キャンセルするしかない。こんな不祥事を起こしてしまったのだ。まずは先方にお詫びを入れて、それから上司に報告して、報告書を作って……。
 
口の中に入れると冷感がする、ラムネ味の駄菓子があるけれど、それを頭蓋骨に放り込んだみたいに、頭の中がひんやりとする。
 
メールはもう、取り戻せない。私の行為が、個人情報の漏えいであるということは認識していた。たった今、私は350人分のメールアドレスを漏えいさせてしまったのだ……。
 
月末のプレミアムフライデー。仕事終わりに、映画を見に行こうと思っていた。時計の針は午後9時を回っていて、周りには同僚の姿も少ない。上映開始の時間が迫ってきて、少しあせっていたと思う。いつものように、何本かメールを書き上げ、まとめて送信した。午後9時10分。担当者の交代を知らせるだけのルーティンワークだった。
 
「さて帰ろう」と、送信済みボックスのメールをアーカイブに移動しようとした時、ふと気づいてしまった。いつもなら「BCC欄」に表示されるはずの350人分のメールアドレスが、「宛先欄」に表示されていることに!
 
「BCC」は、お互いに知り合いではない複数の人に一斉送信するためにある。「Blind Carbon Copy(ブラインド・カーボン・コピー)」の略語で、誰に一斉送信したのかが受取人に分からないようにするための機能だ。
 
それを使わなかったということは、互いに面識がない複数の取引先のアドレスが、全員に知れ渡ってしまったということ……。社用メールアドレスであっても、個人を特定することが可能ならば、それは立派な個人情報になると解釈されている。メール本文自体は、担当者の交代を告げるだけの内容だったけれども、私は、350人分の個人情報を漏えいさせてしまったのだ。
 
5年くらい前であれば、確実に新聞の社会面・地方面に載っていたと思う。最近は、同じような事例が多すぎるのか、あまり記事化されることもないけれど、不祥事であることには間違いない。
 
気付いてしまった以上、対応は迅速にしなければいけない。不思議とパニックにはならなかった。頭の中を好き勝手に飛び交っていたパズルのピースが、冷や水を浴びせられたように、それぞれの居場所に一斉にはまったような感じがした。淡々と、対応手順が頭の中に浮かんできた。
 
まずは、インターネットでお詫び文の文例を検索して、対象者全員にお詫びとメールの削除を依頼した。この時点で、誤送信から15分が経過。
 
それから、社内ネットで、セキュリティポリシーと個人情報保護に関する内規を探した。きちんと分かりやすい場所に掲載されていて、セキュリティ事故発生時の報告先も書いてあったので、まだ社内に残っていたセキュリティ担当者と上司に、自分のミスを報告した。
 
セキュリティ担当者は、
「いやあ、昨日も1件あったんですよね~」
と、なぐさめるような、でもどこかあきらめたような調子で、報告書とプレスリリースの様式と見本を送ってくれた。週末前に、本当に申し訳ない。
 
上司には、
「それって、そんなにまずいことなのか?」
と怪訝な顔をされたが、社会的には不祥事ととらえられることなのだと説明して、さらに上の上司にまで報告を入れてもらった。
 
上司を巻き込んで、報告書とプレスリリースを完成させた時には、午後11時半を回っていた。忙しい月末に、多忙な上司の時間を奪ってしまった。声を荒げることもなく文章をチェックしてくれる上司に、申し訳なさだけが募った。
 
プレスリリースは、翌日、社のホームページに掲載したものの、結局ウェブメディアにすら取り上げられることなく、終わった。漏えいしたメールアドレスが、この数年やり取りのない人たちのものだったからかもしれないが(1件1件電話でお詫びしようにも、連絡先が分からなかった)、反響もなかった。すべての報告と処理が終わった時には、情けなさと申し訳なさで、どっと疲れていた。
 
自分で言うのもどうかと思うが、今回はだいぶ冷静に対処できた方だと思う。というのも、転職前の会社で、セキュリティ担当をしていて、セキュリティポリシーを作った経験もあったからだ。そんな自分でも、BCC忘れをしてしまうのだな、前の会社の人たちに笑われてしまうな、と自分で自分が情けなくなった。
 
セキュリティ担当をしていた当時は、毎月しつこく注意喚起をしても減らないBCC忘れ事故に、正直イライラして、あきれもしていた。最後には、事故処理が面倒になって、社外に送るメールの宛先が、自動でBCCに変換されるシステムを半ば強引に導入した。
 
その時は、宛先が自動でBCCに変換されると困る人もいるということで、システム導入に反対の声も上がった。毎月のシステム管理費用も発生するので、財政部門にも良い顔はされなかった。
 
それでも、今私が感じている申し訳なさと同じものを背負う人がいなくなったのなら、あの判断は間違いではなかったと思う。
 
いざ自分が事故を起こす側の立場になってみると、そのようなシステムを導入しない限り、この種のメール誤送信を防止するのは難しいと、身に染みて理解できる。送信ボタンを押す前に、なぜメールを見返さなかったのか、何度も自分に問いかけてみた。あせっていたから、早く帰りたかったから。理由はいくらでも思いついた。だが、どうすれば防止できたか、と問うと、答えに詰まってしまう。
 
あの日以来、どんなに注意していても、知識があっても、寝不足のとき、忙しいとき、あせっているとき、注意しきれる自信がなくなってしまった。ほかの人にも、それだけの注意力を求められなくなってしまった。
 
今後しばらくは、メールを送る前に宛先・CC・BCC・件名・本文・添付ファイルを何度も見返す癖がつくと思う。だが、その習慣は、恐れは、いつまで保ち続けることができるものなのだろう。
 
セキュリティ事故は、組織への信頼を大きく損なう。それは、普段の事務業務におけるケアレスミスでも同じだ。今回の事故で、確信することができた。人間の注意力を信じてはいけない。抜け道が存在しないシステムに頼ることでしか、BCC忘れは、人のミスは、防ぐことができない。
 
 
 
 
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2020-05-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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