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秘密の本棚


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:深澤まいこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「自分の家の本棚を人に見せるなんて、死ぬほど恥ずかしいわ」
 
女友達との会話で、ぽろりと本音が出た。
実のところ、私はiTunesのライブラリさえ、基本的には人に見せたくない。
 
恥ずかしがり屋さん。そんなライトな、かわいらしいものではない。
 
私の心の中には、いくつかのヘビーな扉が設置されていて、
扉の一番奥に、私の秘密の本棚がある。
誰でも扉を開けて、この本棚を見ることができる訳ではない。
 
けれど、私は長い間、この扉を開けてくれるひとを待っている。
 
一番外側の扉には、基本的に鍵をかけていない。よっぽどの不審者でない限り、いったんはその扉を開けることができる。
 
その扉を開けると、割と居心地のよいベンチソファが置いてある。扉を開けた多くの人は、そのベンチソファに座って、休憩がてら談笑していく。
 
ちょっと一服するのに、ちょうど良い硬めのソファ。だいたいの人は、気が向いたときに気軽に扉を開け、談笑しては、帰っていく。
 
私も、知らない世界を知ることができたり、おもしろい話が聞けたりするので、その人たちとの気軽な会話を楽しんでいる。
 
ちなみに、ベンチソファを汚したひとは、一発で出禁になるので要注意だ。
 
稀ではあるけれど、自宅に椅子がなくて、床に座っているのだろうか、ベンチソファがあまりにも居心地が良いと感じて、長居する人がいる。
 
長居する人も、気軽に出入りする人も、そのベンチソファが気に入った人は、次の扉を開けて、奥の部屋に入って来ようとする。
 
けれども、次の扉は内側からしっかりと鍵がかけられている。鎖でぐるぐる巻きにした上で南京錠がかけられている仕様だ。
 
ベンチソファでくつろいでいた人は、鍵がかかっていることに戸惑いながらも、なんとか扉をこじ開けようとする。
 
けれど、その南京錠の鍵を、私は持っていない。
 
扉がノックされる音に怯えながら、開かれようとする扉を、私は必死で抑える。
時には、はっきりと伝えることもある。
 
「この扉には、鍵がかかっていて、開けるつもりはありません」と。
 
それでも続くノックに対しては、息をひそめて、居留守を使ってやり過ごす。
 
私は、なぜ扉に鍵がかかっているのか、なぜ自分がその鍵を持っていないのか、不思議で仕方なかった。
扉の奥で、ずっと一人でいるのは寂しくて仕方がなかったし、誰かに入ってきて欲しかった。
 
それと同時に、扉が開けられることを、私はひどく恐れていた。
 
あまりの寂しさから、自分で無理やり扉を開けようとしたこともあったけれど、ガチガチに固定された鎖が切れることはなかった。
 
この人なら、鍵を開けてくれるかもしれない。
そう思える人は、何人もいた。けれど、鍵を開けられた人は一人もいなかった。
 
何度目かの挑戦と期待のあと、私は自分で無理やり扉を開けようとすることも、誰かに鍵を開けて貰おうとすることも、どちらもあきらめることにした。
 
扉の奥で、小さくなって座っている自分を、ただひたすら撫でてあげながら、眠りにつかせることにした。
 
南京錠の鍵を持つ人が現れたのは、眠りについてから、まもなくのことだった。
 
いつものように、一つ目の扉にあるベンチソファで談笑していると、私はふとその人が鍵を持っているような直感がした。
 
鍵を持っているかもしれない。そう感じた人は、これまでにもいたけれど、扉の内側からかけられた鍵を、開けられる人は居なかった。
 
ただ、その人は、扉の隙間から、そっと南京錠の鍵を扉の内側へ投げ入れてくれた。
 
私はそれが嬉しくて、急いで南京錠の鍵を開けて、鎖を外した。
 
私はやっと、扉の外側に出てくることができたのだ。
 
扉の外の世界は、喜びに満ちていた。扉の内側に籠り、受け取ることを拒否していた幸せを受け取った。私はこれまで感じたことのなかった喜びを知ったのだ。
 
私が、扉の奥にある本棚をひた隠しにしてきた理由。
 
それは、興味・関心・趣味・趣向。だけじゃなくって、コンプレックスや不安、恐怖、妄想。
本棚やiTunesには、私の頭の中身が、そのままタイトル順に並べられているようなものだからだ。
 
失恋したときは、未練たっぷりな失恋ソングを聴くし、思いきり恋をしているときは、恥ずかしくなるほどのラブソングを聴く。
 
不安で仕方ないときはスピリチュアル系の本を読むし、中二病をこじらせたような大きな夢を抱くときは、自己啓発本を読む。
 
私は、いつまでも感情が不安定で、子どもみたいな自分をとてつもなく恥じていた。
 
心の一番奥の扉に、何重にも鎖を巻いた南京錠は、私が自分でかけたものだった。
弱くて、ダサくて、かっこわるい自分を隠すために。
 
それほど私は、表面上は大人ぶって、強がって、かっこつけて生きてきたのだ。
 
弱い自分を隠し、必死になって守ることをあきらめたとき、南京錠の鍵を持つ人が現れたのかもしれない。
 
私はもう、扉の奥で一人膝を抱えてうずくまるのを止めて、たったひとりの大切な人に、秘密の本棚やiTunesのライブラリを見せるのだ。
 
子どものように無邪気に、好きな音楽を聴き、歌い、大きな夢にわくわくし、怖がり、悲しみ、喜び、浸るのだ。
 
きっとその扉の奥には、ふかふかのソファで、ありのままの自分にくつろぐ私がいるだろう。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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